「合併」より「協力」を選んだMSとSAP

合併の話は白紙に戻ったものの、MicrosoftとSAPはその交渉からWebサービスをめぐる提携を結んだ。アナリストは「合併していれば問題が生じていた可能性があるため、現状の協力関係の方が好都合」としている。(IDG)

» 2004年06月08日 14時05分 公開
[IDG Japan]
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 米Microsoftは昨年後半、エンタープライズアプリケーション市場における足場作りに向けた取り組みの一環として、ERP(エンタープライズリソースプランニング)ソフトのリーダーである独SAPとの間で合併に向けた交渉を行っていた。だがMicrosoftはその後、あまりにリスクの高い合併になると判断し、数カ月前にこの交渉を打ち切ったという。

 これは、OracleによるPeopleSoftの買収計画を阻止するために米司法省が起こした訴訟の審理開始に合わせて、MicrosoftとSAPが6月7日に明らかにしたもの。司法省は、現在SAP、PeopleSoft、Oracleの3社で構成されているハイエンドERP市場においてPeopleSoftとOracleが合併すれば、過度の統合により市場に悪影響が及ぶ可能性があると主張している。これに対してOracleは、ERP市場はかなり分断が進んでおり、業界のリーダー各社は常にMicrosoftなどの新規参入企業による脅威にさらされていると反論している。

 通常であれば、MicrosoftもSAPも合併・買収交渉に関する情報は開示しないが、今回は、サンフランシスコの連邦裁判所で行なわれる司法省対Oracle訴訟の審理において両社の交渉の事実が明らかにされる可能性があることから、あえて公表に踏み切ったという。この訴訟では、両陣営がMicrosoft幹部を証人として召喚する計画だ。

 SAPとMicrosoftは文書で、合併交渉の再開の計画はないと明言している。

 両社によれば、買収を持ちかけたのはMicrosoftだという。SAPによれば、MicrosoftはWebサービスをめぐる共同開発の提携をめぐる交渉の際に、合併を打診してきた。両社の合併案は結局白紙に戻されたが、この交渉の結果、両社はMicrosoftの.NetプラットフォームとSAPのNetWeaverに相互運用性を持たせることで合意に達している。この合意については5月に発表された。

 Microsoftは数年前にGreat Plains SoftwareとNavisionを買収し、Microsoft Business Solutions(MBS)事業部門を新設して、ERP市場への参入に向けた取り組みを開始した。これまでのところ、MBS事業部門は中小企業への販売にフォーカスしている。SAPはより小規模な企業をターゲットとしているが、同社のビジネスの大半は会計・販売・人事管理向けに複雑なシステムを購入する大規模企業によるものとなっている。

 Gartnerの調査ディレクター、イボンヌ・ジェノベーゼ氏は、MicrosoftのMBS事業部門の活動が停滞していることを考えれば、同社がSAPの買収を検討していたというニュースも驚くに値しないと指摘している。同氏によれば、Microsoft会長兼チーフソフトウェアアーキテクトのビル・ゲイツ氏は今年3月に開催されたGartnerのカンファレンスでエンタープライズソフト市場の今後について意見を求められた際、SAPのビジネスの明るい展望について言及する一方で、自社のMBS部門については一言も触れなかったという。

 「何かしらの計画が進行中であることは明らかだった」と同氏。

 だがジェノベーゼ氏は、両社が独立性を保ちながら協力関係を進めるという現在の状態のほうが、両社の顧客にとっては好都合だと考えている。両社が合併していれば、独占禁止法をめぐる司法省の徹底的な調査に直面していた可能性がある。また、Microsoftが自分でもまだよく理解しきれずにいる市場でリーダーの座に就けば、数々の問題が生じていたはずだ。

 Microsoftは先週、今後は同社最高経営責任者(CEO)のスティーブ・バルマー氏がMBS事業部門を直接統括すると発表した。ジェノベーゼ氏によれば、MicrosoftがMBS事業部門を全社的な企業戦略の中核に組み込むのは、同部門の設立以来これが初めてのことだという。

 「エンタープライズアプリケーションはMicrosoftがこれまで手がけてきた事業とはかなり性質が異なる。これはサービス環境だ。顧客のビジネスモデルに加わり、よく理解する必要がある。これまでMicrosoftは常にワンステップで撤去できるモデルばかりを扱ってきた」と同氏。

 Microsoftが前四半期末時点で560億ドル以上の現金を保有していたことから、投資家の間では同社に対して、もっと成長している市場への参入を求める声が高まっている。同社は2004年会計年度(6月30日締め)の最初の9カ月間で275億ドルの売上高を上げているが、そのうちMBS事業部門の売上はわずか4億7100万ドルだ。

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