ここまで見てきたように、VisioにはITプロフェッショナルの仕事のやり方を変えてしまうだけの機能が用意されている。では、なぜこれだけの機能がVisioに与えられたのだろうか? その背景には、マイクロソフトの提唱する「グラフィックコミュニケーションズ」という考え方がある。
例えば、取引先に初めて出かける用事があるので、同僚にメールで場所を問い合わせたとしよう。通常は、「東京都渋谷区代々木2-2-1 小田急サザンタワー」などといった住所(文字データ)が返ってくるはずだ。その情報をもとに、インターネットで地図や地下鉄の路線を調べるだろう。しかし、これなら最初から地図を送ってもらったほうが便利なのは言うまでもない。さらに、その地図に会社の住所や電話番号、自社から最短の地下鉄ルートなどが埋め込まれていたら、さらに便利ではないだろうか?
あるいは、従業員の異動や組織変更を考えてみよう。市場の動きにタイムリーに対応するには、組織の形態を柔軟かつスピーディに変化させなければならない。しかし、そのためには、膨大な量のドキュメント変更が必要になる。部署ごとにざっと考えただけでも、次のようなドキュメントは変更しなければならないだろう。
人事部門 | 従業員名簿 | 組織図 | |
---|---|---|---|
総務部門 | 社内電話番号簿 | 座席配置表 | |
財務部門 | 固定資産管理簿 | リース機器管理簿 | |
情報システム部門 | ネットワーク構成図 | ||
このように、複数の部署にまたがった膨大な量のドキュメント変更が必要になるため、その手間・コストをいかに軽減するかが非常に重要だ。各部署がバラバラに対応していたのでは、組織変更のたびに混乱が起きて、市場の変化に追いつけなくなるだろう。
しかし、これまで解説したVisioの機能を思い起こせば、解決の道筋が見えてくるはずだ。カスタムプロパティを使えば、「ネットワーク構成図」に資産番号やリース情報を埋め込める。このデータをデータベースと同期させれば、財務部門の「固定資産管理簿」や「リース機器管理簿」の作成は大変な作業ではないはずだ。
あるいは、Visioで座席配置表を作り、カスタムプロパティで内線番号、氏名などの情報を埋め込んでおけば、総務部の「社内電話番号簿」、人事部の「従業員名簿」の作成は、完了したも同然だ。座席配置表をWebに書き出してイントラネットに上げれば、プリンタで印刷する必要さえない。
このように、グラフィックを中心に情報を管理・共有していこうというのが「グラフィックコミュニケーションズ」の考え方だ。マイクロソフトの公式な定義を引用しよう。
グラフィックコミュニケーションズは企業内に分散 (はんらん) する情報をグラフィックスで整理し、XML などの Web 技術を利用して、円滑な業務の遂行および有効な資産運用を支援する新たなコミュニケーションスタイル
そして、「グラフィックコミュニケーションズ」を実現する中心的なプレーヤーがVisioというわけなのだ。
グラフィックコミュニケーションズの考え方では、Visioはデータベースのビジュアルなフロントエンドであり、逆にデータベースのデータをビジュアル化するツールとして機能する。
例えば、ネットワーク図のカスタムプロパティには、資産番号やネットワーク名、IPアドレスなどの情報を入力できる。つまり、Visioがデータのビジュアルなフロントエンドの役割を果たす。逆に、ネットワークを調べてネットワーク図を自動的に描いたり、既存データベースからデータベースの構造図を描くこともできる。つまり、Visioがデータをビジュアル化する。
さらに視点を広げると、Visioは企業内の部署と部署、外部と内部、個人と個人、個人とシステム、システムとシステムをグラフィックスで結ぶインタフェースのような役割を果たしていることも分かる。ネットワーク構成図から資産管理簿を生成して財務部に提出したり、アプリケーション機器情報をXMLではき出して外部の業者に渡したり……などなど。データを一元化し、統合管理するための"つなぎ"あるいは"接着剤"のような役割を果たしているのだ。
これまでの連載で、Visioというソフトウェアが持つ可能性は伝わっただろうか。もはや、Visioを単なるグラフィックスソフトと思っている方はいないだろう。Visioは、情報システム部門にとどまらない、全社的な情報管理の在り方を変えうるソフトウェアなのだ。Visioを導入することは、その背後にある「グラフィックコミュニケーションズ」という考え方を導入することなのである。
ITプロフェッショナルの方々には、ぜひ、このVisioの本質をつかんでいただきたい。そして、Visioという道具を、まずはご自分の業務改善に役立ててほしい。必ず、従来よりも仕事が楽になるはずだ。その次には、まだVisioを知らない情報システム部のITプロフェッショナルに、Visioのメリットを伝えてほしい。Visioユーザーが増え、Visioのグラフィックが部署内を行き来するようになれば、あなたの仕事はさらに効率化されるだろう。それが確認できれば、情報システム部から全社的なビジュアルコミュニケーションズ導入の提案が出されるまで、それほど時間はかからないはすだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.