スーパーとは異なるコンビ二発展の経緯特集:ITが変革する小売の姿(1/2 ページ)

昭和30年代からバブル崩壊、そして現在までの日本の小売ビジネスの経緯にスーパーマーケットを取り上げて概観した。実際には、スーパーマーケットの基本概念は取り入れたものの、経営システムという見方からすると必ずしも本質的に導入したとは言いがたい。

» 2004年10月12日 20時27分 公開
[松吉章,アール・エス・アイ]

 前回は、昭和30年代からバブル崩壊、そして現在までの日本の小売ビジネスの経緯にスーパーマーケットを取り上げて概観した。確かに、スーパーマーケットの発展はめざましいものがあったが、実際には、スーパーマーケットの基本概念は取り入れたものの、経営システムという見方からすると必ずしも本質的に導入したとは言いがたい。

 例えば、POS(Point Of Sales)化などは日本でも比較的早くから行われたが、さらなら高度なデータの活用という意味では、現在も米国より数年以上遅れているのではないか。例えば、米国では、マーチャンダイジングに関して、金額管理による予算統制管理手法と商品計画が確立されている。また、単品レベルでの品ぞろえ計画や、データの一元化が着実に進展している。

小売業のシステム化における日米の違い

 日米のスーパーマーケットにおいて、経営とITの在り方を総合的に比較すると、人を主軸とするキメ細かいオペレーションでは日本に優位性があり、経営戦略に基づいて構造的な改革を図るシステム化では米国が勝っていると言える。

 残念ながら、日本のスーパーマーケットの多くは、部分最適でシステム開発を行う傾向があった。これは、経営の観点から見たシステム化への認識が、日米の間で異なっていることを意味する。規制緩和の進展、内外格差の縮小などによってグローバル競争が進む中、日本の小売業は欧米企業との実力差を認識せざるを得なくなってきた。

 つまり、日本のスーパーマーケットは、経営戦略に基づいた情報システムを基盤に大量の商品を安く販売する欧米の小売業者と「ガチンコ勝負」を強いられるようになってきたのだ。これが、スーパーマーケットを中心に、日本の小売業全体の弱体化を危惧する声が大きくなっている背景だ。

日本独自の工夫で発展したコンビニエンスストア

 一方で、元々は米国から入ってきたものの、日本の市場環境に対応し、独自に発展の道を切り拓いた業態がある。それがコンビニエンスストアだ。

 朝早くから夜遅くまで長時間開店しているコンビニエンスストアの営業スタイルは、当初から、消費者にとって利便性が高いと認識された。だが、コンビニエンスストアが扱うアイテムは3000程度と少なく、また、値引きをせず、定価販売を基本とするビジネスに客の支持が得られるかについては、懐疑的な意見も多かった。

 しかし、結果的には、コンビニエンスストアは小売業界のトップに上り詰めた。小売業界全体に占めるコンビニエンスストアの売り上げ比率は大きく、今や、メーカーもコンビニエンスストアを無視した商品開発はできなくなっている。当時、スーパーマーケット全盛の時代に、30坪程度のコンビニエンスストアが現在のようなステータスを確立することを、いったいどれほどの人が予測できたであろう。

 コンビニエンスストアを発展させたのは、セブンイレブンによることころが大きい。同社でも、当初は親会社のイトーヨーカ堂からはあまり認知されず、店舗や商品業務の経験に富むスタッフもあまり多くはなかった。だが、現在では、スタート時に経験がなかったことこそが、コンビニエンスストアの革新を促したと言われている。

 コンビニエンスストア運営の発想は常に現場からのものだった。顧客や加盟店が持つ問題解決の糸口を探るうちに、知恵が蓄積され、結果として価値ある方法論にたどり着くことができた。「コンビニエンス」をキーワードに、商品だけでなくサービスも提供するようになっていった。近年では、需要を喚起するための商品開発も行われるようになっている。

デメリットをメリットに転換

 ここで、コンビニエンスストアの成長を支えた要因を整理してみる。それぞれの要因は、デメリットを発想の転換によってメリットへと変化させた点で共通している。

 まず、狭くて限られた商品数しか陳列できないという悪条件を、小型の端末で検品を行うハンディターミナルが一変させたことを挙げることができる。すなわち、すべての在庫が店頭に並ぶバラ単位のオペレーションをハンディターミナルが可能にしたのだ。

 限られたアイテム数でも、売り上げ動向を把握して、顧客ヒット率を高めれば、30坪に実質的に2〜3倍のアイテムを陳列することができる。物流においても、ある程度の数をまとめるロットではなく、バラ単位で納品することは基本的に効率が悪い。だが、各地区のセンターに一括して商品を配送し、そこからトラックで各店舗にいわゆる「多頻度小口配送」するといった仕組みを構築することで、不効率性をカバーした。

「価値」の訴求が成功の秘訣

 コンビニエンスストアの店舗は、セブンイレブンやローソンなどの本部と、フランチャイズチェーン店を展開するために場所を提供し、コンビニ経営を行うフランチャイジーの両者で成立している。フランチャイジーが店舗のオーナーであることが多い。

 コンビニエンスストアの経営において、本部とオーナーの両者が利益を得るためには、価格を崩さずに高い収益を維持する必要があった。このため、コンビニエンスストアは、価格で勝負するのではなく、「価値訴求型」のビジネスを展開した。この試みが、時間帯別に商品ニーズを把握したり、高付加価値かつ高利益率を達成できる商品の開発へとつながっていった。

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