RFIDが導く新たな社会を感じ取る(1/2 ページ)

慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスは、研究機関としての成果を一般に公開する「SFC Open Research Forum 2004」を11月23、24日に開催する。フォーラムでは、12のメインセッションが行われる一方、RFIDが切り拓く未来について方向性を示す実験が、来場者に参加してもらう形で実施される。

» 2004年11月02日 00時00分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)は、研究機関としての成果を一般に公開するためのイベント「SFC Open Research Forum 2004」(ORF)を11月23、24日に開催する。最先端のテクノロジー研究で消費者に夢を提供したいというORFでは、12のメインセッションが行われる。一方、RFIDが切り拓く未来について方向性を示す実験が、来場者に参加してもらう形で実施される。実験のテーマは、「“モノ”だけでなく“コト”がつながることの面白さを伝える」こと。3人の仕掛け人に、この実験によって来場者に伝えたいこと、RFIDが変える世界について聞いた。

「実空間インターネット」へ

 慶應大学は、村井純教授をリーダーとするAuto-IDラボ・ジャパンが設置されており、ICタグにつけるコード体系として、サプライチェーンでは実質的な世界標準になっているEPCを普及させようと努めている。日本では、東京大学の坂村健教授がユビキタスIDセンターを率いて、RFIDの標準化を目指していることが知られている。

 だが、Auto-IDラボ・ジャパンのリサーチフェローを務める川喜田佑介氏は、「EPCをサプライチェーンだけのものにするつもりはない」と話す。ユビキタスコンピューティングの世界をつくり、一般消費者が実感できる用途に、EPCを使ったRFIDシステムが使われるようにする。

 例えば、インターネットにおける検索は、現状ではサイバー空間であるWebサイトだけが対象になっているが、ユビキタス環境が整備されることで、「5年後には、Googleで自分の部屋にある本を検索できるようになる」(川喜田氏)という。同氏はこれを、「実空間インターネット」と呼んでいる。

「ORFにはたくさんの人が来ており、人と人の情報の流通が起こっているはず。それをEPC Networkというインフラ上でICタグを活用し、いい形で拡張させてみたい」と話す川喜田氏。

 一方、「RFIDは既に、社会や文化との関わりを考える段階に来ている」と話すのは環境情報学部専任講師の脇田玲氏。RFIDには読み取り率やプライバシーなど、まだ問題が山積しているが、それらはビジネスの世界で既に解決への取り組みが行われているため、大学としての使命は、「次の世界を考える」ことに移るという。そこで、今回のORFでは、モノにICタグをつけて管理するという一般的なRFIDの利用シナリオを超えた世界を、来場者に見せる。

RFIDに関して、技術ではなく利活用の側面から研究する脇田氏。

「モノ」だけでなく「コト」をつなげる

 行われる実験は、RFIDを用いたシステム「ORF Activity Score」。来場者は入場時に、ICタグを添付したカードを受け取る。そして、各出展ブースやセッション会場を訪れた際に、設置されたRFIDリーダーにカードをタッチすることで、自分が興味を持って訪れた場所を「ブックマーク」しながら歩くという。

各来場者の行動履歴が画面にプロットされる。

 そして、来場者がそれぞれブックマークした情報は、集積され、会場内に設置された大型スクリーンに映し出させるシステムになっている。スクリーンには、このブックマークを集めたすべての来場者の行動履歴がマトリックス状に表示されることで、来場者は休憩中などに、どのブースに人が集まっているか、人々がどんな分野に興味を持っているかを感じ取ることができるという。また、興味のある分野だがまだ訪れていない研究室などを把握することもできる。

 さらに、この行動履歴の1つひとつを楽譜に見立て、音を奏でることで、来場者の嗜好を耳で感じてもらうといった演出も行われる予定だ。

 このイベントの目的は、「全く新しいIDネットワークを使うことで、ORFの来場者が感じているコト、興味を持っているコトをリアルタイムに伝えること」(脇田氏)だ。モノの管理だけでなく、現象としての「コト」をその場で把握できることで、企業が新たなビジネス展開を考えたり、消費者が社会や文化の将来のデザインを想像する上で、新しい視点を提供することも狙いとなる。

 なお、実験に利用されるICタグの周波数帯は13.56MHz。また、UHF帯を活用した実験も検討しているという。

プライベートとパブリック

 もし、RFIDでコトを把握するようになると、1つの変化として、人々のプライバシーへの感じ方が変わっていくことが考えられる。そこでキーワードになるのが、プライベートとパブリックだという。

 「電車の中で携帯電話を使うこと、使われることを人はなぜ嫌がるのか? それは、パブリックな世界にプライベートが染み出てしまうから。それを制御する環境のデザインが必要とされている。」と脇田氏。

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