“フリーサイズWindows”の時代が終わるOpinion

Microsoftは将来的に、Windowsを複数の“役割別バージョン”に分けて提供する考えだ。単一の製品ですべてのニーズに対応するというソフトの在り方が、ついに終わろうとしている。(IDG)

» 2004年11月15日 17時56分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Windowsによって市場を独占したとして、一時は会社の分割を命じられる可能性もあったMicrosoftだが、その危機を乗り越えた今、同社は自ら、自社のOSを分割しようとしている。同社によると、2007年にリリースが予定されているLonghornでは、Windowsを個々の“役割別”バージョンに分けて提供する。これらのバージョンは、それぞれに与えられた特定の任務をこなすのに必要なコードのみ備えたものになる。Windowsにおける、モノリシックな“フリーサイズ”アプローチが、ついに幕を閉じるということのようだ。

 Windowsのスリム化というアイデアは以前からあった。それは、絶えざる機能追加というMicrosoftのマーケティング上の願望とは対極にある考え方だ。だが、Windowsをもっと小さくてシンプルな幾つかのバージョンに分割する方法への移行は、マーケティング/セールス上の願望をしのぐほど大きくなった競争圧力と、セキュリティや管理性、柔軟性を求める声を背景に起きている。そしてこの流れは、単なるOSのカスタマイズにとどまらず、幾つかの任務特定型サーバ機能を生み出す可能性がある。

 現在のWindowsは、精巧な道具というより特大スイスアーミーナイフに近く、1本で何十種類もの特徴、機能、サービスを提供している。だが管理者は、Web、ストレージ、プリントサーバといった機能すべてを欲しているわけではない。Windowsを、細身で機能特化した複数のバージョンに分ければ、攻撃の対象となる脆弱性の数を減らすことができ、インストール、パッチの適用、メンテナンスが容易になるだろう。この戦略は、多くのサーバ機能に幅広く適用される可能性があり、コールマネジメントやWebサーバなどの、セキュリティに敏感な機能がその恩恵を受けることになりそうだ。

 Microsoftのアプローチは、Linuxに対する計画的な回答でもある。オープンソースOSのLinuxは、特定の絞り込んだサーバ機能に長けている。それは、一つにはITプロフェッショナルがカーネルを分解して、Linuxの特定用途版に必要な形にパーツをリコンパイルできるためだ。この結果、現在のWindowsよりも、はるかに高い柔軟性が管理者に提供されている。

 Microsoftは、単にWindowsの役割別バージョンを販売する形より、むしろ、Windowsのどの中核要素をインストールするかの選択を、システム管理者に委ねる方式を取るかもしれない。これは管理者にとっては朗報だが、問題は、Microsoftがどこまで顧客に、こうした構成定義・拡張の自由を与えるかだ。企業IT部門はどれだけの柔軟性を得られ、Microsoftはどこまでコントロールを譲るだろう?

 Microsoftは、プリントサーバ機能やストレージサーバ機能など、あらかじめ幾つかの役割を用意して、管理者がその中からWindowsの最適化バージョンを構築できるようにするのかもしれないが、ほかの機能については、どの中核コンポーネントを入れるか外すかの判断までは、ユーザーに譲らない可能性がある。一方、企業はこのコンセプトがデスクトップに拡大されることを望むかもしれない。小売店の販売員、倉庫で働く作業員、財務アナリストなどのワークステーションに、それぞれの役割に応じたスリムなWindowsを導入できるように。

 役割ベースのアプローチは、ソフトウェアスタックの分野にも適用可能だ。この分野でも、Officeなどのアプリケーションで、コード肥大化の問題が取りざたされている。統合化の進んだデスクトップ用プロダクティビティアプリケーション群には、大半のユーザーが一度も使ったことのない機能がたくさん搭載されている。一部の主要機能は、インストールの際に外すこともできるが、かなりシンプルな特化型の役割を命じられているユーザーにとって、Officeはいまだに巨大かつ重いアプリケーションであり続けている。管理者には、一つですべての用途に対応可能な「フリーサイズ」の製品を提供するより、中核要素のみ組み合わせられるオプションと、実際にそれを使うエンドユーザーのニーズに合致した製品を与えるべきなのだ。ビジネスの俊敏性は、ファットなソフトからは生まれない。

 調査会社Gartnerは最近、フランスのカンヌで開いたITxpoカンファレンスで、肥大化・複雑化し過ぎたエンタープライズソフトをやり玉に挙げている。同社アナリストのイボンヌ・ジェノベーゼ氏によると、ベンダーは、顧客がビジネスニーズの変化にもっと迅速に対応できるように、従来のモノリシックなアプリケーションスイートを、小分けにして提供すべきだという。アップグレードの完了に2年もかかるようでは、変化への迅速な対応は難しい。ベンダーがソフトを小さく分けて提供すれば、企業IT部門はビジネスプロセスの変化に合わせてそれらをアレンジしやすくなる。

 SAPはR/3の次世代版でこの方向に進もうとしている。MicrosoftのProject Greenの目標もここにある――とジェノベーゼ氏は説明した。Microsoftは、買収したNavision、Great Plains、Solomon、Axaptaのビジネスアプリケーションを分解して、顧客のビジネスニーズ次第で再結合が可能な、密接に結合しあったコンポーネントに組み替えるのに苦労している

 企業ユーザーがモノリシックなエンタープライズアプリケーションを捨て、役割を絞り込んだ小型のコンポーネントへ移行することを本気で望んでいるかどうかは、まだ分からない。だが、グローバルな競争の激化や、市場変化への迅速な対応のニーズをきっかけとして、企業IT部門がそうしたものへの要求を高めていく可能性はある。そして実際そうなると仮定した場合、Longhornの役割別バージョンを提供するというMicrosoftの決断は、ソフト業界全体の大きな流れ一角に過ぎないといえるのかもしれない。

(By Robert L. Mitchell, Computerworld US)

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