IDカードプログラムをめぐる懸念の鎮静化に努める英ブレア首相

英国政府は全国民を対象としたIDカードプログラムを打ち出した。そのセキュリティに対する懸念を払拭すべく、ブレア首相は不正操作に厳しい罰則を科する方針だ。

» 2004年11月30日 21時17分 公開
[IDG Japan]
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 英国のトニー・ブレア首相は、全国民を対象としたIDカードプログラムのセキュリティをめぐって高まる懸念を鎮静化すべく、同プロジェクトで使用する巨大データベースを不正操作した者には禁固刑で臨むという方針を打ち出した。

 ロンドンで行われた月例記者会見の中でブレア首相は、「このデータベースの不正操作で有罪となった者には最高で10年の禁固刑、IDカードの管理に携わる者が情報を不正に開示した場合は、最高2年の禁固刑が科せられるだろう」と述べた。

 先ごろ発表された「Identity Cards Bill」(IDカード法案)は、個人情報とバイオメトリクス識別情報を格納したチップを組み込んだIDカードのシステムを2010年までに実現することを目指す。これらの情報には、名前、住所、バイオメトリクスデータ(指紋、顔・虹彩スキャンなど)が含まれ、すべてデータベースに保存される。

 ブレア氏は、「バイオメトリクスIDカードは、テロリズム、ID盗用、不法就労、不法移民、国民健康保険などの社会保障制度の不正利用などに対する政府の戦いで強力な武器になる」としながらも、このシステムは「特効薬」ではないことを認めている。

 「テロリストや犯罪者は偽造身分証を頻繁に利用しており、それが彼らにとって重要な手段であることは明らかだ」とブレア氏は語った。さらに、英国警察の犯罪者記録データベースに登録された640万人のうち「4分の1以上が偽名を使っている」と付け加えた。

 しかし、警察の犯罪者記録データベースには不正確なデータが多数含まれているのは周知の事実だ、とセキュリティ専門家は指摘する。Ovumのアナリスト、グレアム・ティターリントン氏は、「政府は、犯罪者記録データベースなどさまざまなITプロジェクトから教訓を学んでいないようだ」と話す。同氏によると、Identity Cards Billには、入力されたデータの正確性を保証する手段や、データベース内の情報を個人がチェックする手段が欠落しているという。

 来年から、バイオメトリクスに基づく顔識別情報がパスポートに含まれるようになる。その後、IDカードプログラムに情報と技術が提供される。英国政府では、2011年ないし2012年までに、英国内の全住民にIDカードの携帯を義務付けたいとしている。

 ベルギー、スウェーデン、ラトビアなど数カ国では、IDカードと情報データベースを組み合わせた方式を採用しているが、英国で提案されたシステムよりも遥かに規模が小さく、主として政府の電子サービスにアクセスするのに用いられている。

 「政府には責任がある。だれかが言うような『ビッグブラザー政府』としての責任ではない。セキュリティを強化し、公共サービスが本当に資格を持った人だけに利用されるようにするために最善を尽くす責任があるのだ」(ブレア氏)

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