Linuxカーネルの障害解析はビジネスになるか?(2/2 ページ)

» 2005年04月05日 15時29分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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ITmedia 今回の新サービス「VA Quest」を投入するに至った経緯は?

佐渡 弊社は創業間もないころからLinuxカーネル関連の受諾開発や総合的な開発コンサルティングを中心とした事業を開始し、それ以来ずっとVAリナックスのビジネスの大きなウェイトを占めてきましたが、ここ1年ほどは開発案件に加えてLinuxカーネルの障害解析や性能解析の要望が多く寄せられるようになりました。これは、通信やエンタープライズなどの領域のミッションクリティカルなシステムにまでLinuxが浸透しつつある中で、システムの障害に対する不安、もしくは実際に障害の件数が増大してきていることに起因したものだと思います。

 このような状況下において、弊社では特定の数社の顧客企業のみに障害解析サービスをここ1年ほど提供していましたが、ミッションクリティカルなシステムを扱うシステム・インテグレーターや顧客企業向けにサービスメニューを形式化し、幅広く提供していくことになったわけです。

ITmedia VA Questの具体的なサービスの中身を教えてください

小田 VA Questは一言で言ってしまえば、システムクラッシュ、システムハングなどのカーネルに起因する問題、あるいは、アプリケーションとカーネルの切り分けが困難な問題などのLinuxシステムの障害に対して、Linuxカーネルのソースコードやメモリダンプに基づいた詳細調査を行い、障害の解析、障害原因の追及、回避方法の提案、修正パッチの提供などを行うサービスです。契約メニューによっては、Linuxカーネルにプローブを挿入し、顧客のシステムの性能ボトルネックの原因究明や性能改善を目的とした解析も行います。

佐渡 料金体系を含めたサービスメニューの詳細は顧客企業と要相談というところも多いので、これ以上の詳細はこの場では申し上げにくいのはご理解ください。

小田氏 VAリナックスエンタープライズOS事業ユニット長兼カーネル解析ユニット長の小田逸郎氏

ITmedia そのようなカーネルレベルからの解析の要望は本当にあるのでしょうか?

佐渡 単にLinuxでメールやWebサーバを立ち上げてみました、というケースでは、このサービスは必要ないでしょう。ただし、より大規模でミッションクリティカルな市場では、VA Questのようなハイレベルなサービスに対するニーズは現在でも十分に多くありますし、今後この需要はいっそう増えていくと思います。実際、今回発表したサービスは、既に類似の解析サービスを限られた顧客企業に対して行ってきた実績を元に投入するわけなので、わたしたちからすると市場がこのようなサービスを渇望していることが手に取るように分かります。

 VAリナックスとしては、それだけのニーズに応えることが可能なハイレベルなカーネル技術者を揃えているわけですが、それに加えて専門の解析チームの結成と解析スキームの細分化、分業化がほぼ固まったということで、自信を持ってサービスを提供します。そもそも、弊社ほどカーネルの最深部からの知識に裏打ちされたサービスを提供できるベンダーは国内に限ればいない言ってよいと思います。その技術に恥じない価値を顧客に提供できればと思っています。

ITmedia VA Questの提供にあたり専門解析チームを立ち上げるということですが。

佐渡 このサービスの開始にあたり、組織体制の見直しを図り、専任解析要員を5名配置するカーネル解析ユニットを結成しました。小田はそのユニット長です。小田はスパコンのOS開発経験が長く、障害解析に必要な知識、経験、ノウハウすべてを持っているという意味では適任です。また小田は、NTTデータと共同開発しているLinuxカーネルのクラッシュダンプ機能であるミニカーネルダンプ(Mini Kernel Dump)の開発リーダーでもあります。

ITmedia VAリナックスには高橋浩和さんもおられますよね?

小田 Zerocopy NFSの機能を開発した技術本部長の高橋が有名なのでしょうが、VAリナックスには高橋や私以外にも、2004年度のLinux Kernel Developers Summitで「Hot Plug Memory and CPU」のセッションチェアマンを任された岩本俊弘もいますし、NetBSD界隈でも有名な箕浦もいます。挙げればキリがありませんが、これだけのチームは世界にもそうはないでしょう。

ITmedia 障害に対する修正パッチという話もありましたが、そのパッチはどうなるのでしょう?

小田 upstreamに戻したほうがよいもの、例えばそれがバグ修整であったり、一般的に役に立つようなものであれば、どんどんとフィードバックします。実際、VAリナックスではかなりの数の修整パッチをフィードバックしている実績があります。

佐渡 このサービスでは知識やノウハウを売るのであって、ソースコードを売っているわけではありません。知識やノウハウはコードをフィードバックしたからといって、価値が毀損するものではありませんので、この方針を曲げるつもりはありません。

ITmedia 解析事例はどのようなものがありますか?

小田 これはあまり詳細は言えないのですが、カーネルOops出力解析やハングの原因調査といったものから、特定用途で長時間運用時に空きメモリが減少を続けるといったものまでさまざまな現象について対応を行っています。こう言ってしまうと非常に簡単なように思われるかもしれませんが、ソースコードレベルで解析を行い、解決手段を提供するのは非常に多くの知識、経験が必要です。

ITmedia 人手がかかるサービスに見えますが、拡販は可能なのでしょうか?

佐渡 確かにこのサービスは人手がかかります。ソフトウェアパッケージのようにほぼ無限に売ることができませんので、今回のサービスを提供できる顧客数には限界があります。以前、VAリナックスは銀座の寿司屋と話しましたが(関連記事参照)、そのような寿司屋においてはネタがなくなればスーパーから仕入れるわけもいかないわけですので店をいったん閉めるしかありません。VAリナックスも同じようにサービスの質を落とさないためにサービスを提供する顧客数の上限というものを絶えず意識しています。

 今回のVA Questについては現状ではまだ余裕がありますが、今の市場の状況をみると場合によっては一時的にでも新規契約をストップするという可能性もゼロではないな、と見ています。ただ、そうならならないよう体制の拡充には万全を期したいと考えています。

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