オープンソースに関する市場分析は不完全、アナリストも認める

Linuxやオープンソースの誕生以来、ソフトウェア・ライセンスは、ソフトウェアの導入数を調べる方法としてはますます不適切になっていることは、IDCのクズネスキー氏ですら一定の理解を示している。

» 2005年04月07日 00時18分 公開
[Jay-Lyman,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 HPのLinux担当副社長マーティン・フィンク氏は、最近開催されたJBoss開発者向けイベントで、市場分析はオープンソース・ソフトウェアを把握し切れていないと指弾した。IDCの副社長ダン・クズネスキー氏も、そうした不満に理解を示している。

 アナリストはいかにして出荷・収入・成長などの数字を基に産業を切り刻むか、そんなことまでNewsForgeに話すほどクズネスキー氏は気さくだ。そして、フィンクの不満にも理解を示す。しかし、そのクズネスキー氏にしても、IT業界における分析一般を擁護し、状況の変化に対応しようとしていると弁護する。そして、統計の数字に欠落があると思うなら、そうした情報の調査に資金を提供するよう自社を説く必要があるだろうと言う。

 そうした調査は絶対確実とは限らないが、それでもベンダーやベンチャーキャピタルなどが市場を獲得したり維持したりする際に参考になることが多い。

一枚のスナップ写真

 昨年設置されたLinuxに関する統計を見たOpen Source Development Labs(OSDL)は、そこにあるソフトウェアによる数字とハードウェアによる数字が食い違っていることに気づき、CEOのスチュアート・コーエン氏がその疑問をIDCに質問した。IDCのソフトウェアに関する調査では、ミッドレベルのサーバ市場でLinuxは約20%を占めたことになっているが、ハードウェアに関する調査では12〜17%に留まっていたのだ(クズネスキー氏)。

 「OSDLは当社の調査をよく利用していますが、ソフトウェアの数字とハードウェアの数字が異なることから、この2つの分析に食い違いがあると考えたのです。しかし、食い違いはありません。この2つの調査では対象が異なるのです」とクズネスキー氏は言う。

 「Linuxは従来とは異なる方法で導入されています。OSDLは、そうしたLinuxの導入状況について、より完全な姿を知りたかったのです」。クズネスキー氏によれば、さまざまなソフトウェア領域に対応して80名ほどのアナリストがおり市場の90%を正確に把握しているが、OSDLが求めたのは残り10%の内訳だったという。クズネスキー氏の同僚であり、エンタープライズ・コンピューティングを統括するIDCグループ副社長ヴァーノン・ターナーによれば、セカンダリ・オペレーティング・システム、パーティションド・オペレーティング・システム、ゲスト・オペレーティング・システム、デュアルブート・システムなど、従来はなかった形態が重要性を増しており、Linuxは(少数派から)「主流のソリューション」になっているという。

 こうして、昨年12月、システム・ソフトウェアに関するIDCのリサーチ・ディレクタのアル ギレン氏が「さまざまな形で導入されるLinuxを幅広く捉えた包括的な資料」だと自負する調査が公表された。この調査から、Linuxの出荷および転用を合わせた市場がかなり大きいことが明らかになった。両者を合わせると2004年に調査した新規出荷を37%も上回る。また、パッケージ・アプリケーション市場が急成長しており、2003から2008年の年率は44%以上になると期待され、今後4年以内に140億ドルを超えると予想された。

 「OSDLが知りたかったのは、1つの数字です」と言って、クズネスキー氏は、2008年までに350億ドル超に成長するというLinuxの「総」市場規模に関する予測値を示した。そして、「Linux市場の真の大きさをスポンサーに示したかったのです」と言う。

 クズネスキー氏によれば、今回の特別調査では、定例調査によるデータも利用されているという。定例調査では、2400を超える企業とハードウェアやエンタープライズ・ソフトウェア・スタックを中心とする15〜20のサプライヤーが調査対象になる。こうした調査では毎回同じ質問が繰り返されるのが一般的で、これによって経時的な傾向が明らかになる。OSDLのコーエン氏がこの調査について説明する際に使った言葉を模せば、定例調査は「一連のスナップ写真」を与えるための調査なのだ。

 「今回の調査は、ある瞬間のスナップ写真です。ハードウェアの出荷だけでなく、無償ダウンロードも複製も再配備も含まれています。それが、今回の調査の目的だったのです」。そして、これまでこうした調査を求められることはなかったとクズネスキー氏は言う。

継続調査は未定

 昨年、コーエン氏は基礎データを収集するためにこの調査の費用をOSDLが負担するとNewsForgeに明らかにしていた。しかし、同様の調査にさらに資金を拠出する予定はないとし、IDCが自費で調査することを期待していると言う。

 昨年の調査では、IDCによるサーバおよびPCのハードウェアおよびソフトウェアに関する既存の調査を活用したほか、新たに世界10か国でLinuxの採用・計画・認識に関する需要側の調査も行われている。

 2月に開催されたカンファレンスでのクズネスキー氏の発言によると、OSDLの負担で2004年に実施されたLinux市場調査の継続実施は2005年の予算には組まれていないという。また、最近も、スポンサーが付かなければ継続調査はないだろうと繰り返した。

 「調査するともしないとも言えません。継続調査を求められるかどうかです。これまでも、顧客の求めに応じてきましたから」

オープンソースは寡黙

 顧客に対するIDCの献身はさておき、フィンク氏のように、いくらでもコピーして社内に自由に配布することのできるソフトウェアの本数をライセンスで計ることはできないと不満を述べている経営者たちに対して、クズネスキー氏は本当に同情しているようだ。

 クズネスキー氏は、Linuxおよびオープンソース市場の状況を詳細に知りたいと考える技術担当役員はフィンク氏だけではないと言う。

 一例として、クズネスキー氏はMySQLのCEOを挙げた。「マーティン・ミコス氏も、『Linuxはどの程度利用されているのか、どのようなハードウェアで使われているのか、どのような経緯で導入されたのか、導入の目的は何か』と尋ねているそうです。情報の中には比較的入手しやすいものがあり、そうした情報は公表しています。しかし、入手の難しいものは、定例の調査では扱いません。また、知る術さえないものもあるのです」

 たとえば、Linuxを導入していても、その一部は数字に表れないという。開発者やIT管理者や経営者の中には、オープンソースを使っていることを――多くは政策的理由または官僚的理由から――明らかにせず、密かに使っているからだという。

 「オープンソースの利用を知られたくないと考える人たちがいます。どれほど丹念に調査をしても、それを把握することはできません」

 個人やプロジェクト・チームが内輪でLinuxを導入していてもそれが明らかにならないのは、その企業の持つソフトウェアの利用やライセンスに関する規則や考え方のためだとクズネスキー氏は言う。また、IT部門は経営陣からコスト削減を求められる一方、結果を出すよう強い圧力を受けている。担当者やそのグループが成果を出している限り、経営陣は現場がLinuxを使っているかどうかなど尋ねないし、知ろうとも思わないだろう。

 しかし、フィンク氏は、Windowsの導入状況だけでなく、Linuxについても同程度の情報を知りたいのだろうとクズネスキー氏は再び理解を示す。しかし、それは必ずしも可能ではない。回答者がLinuxについては沈黙を守ったり内輪だけでLinuxを導入していたりする場合は、数字は出てこないだろうと言う。

 「オープンソース・ソフトウェアは、追跡が非常に困難です。ですから、(フィンク氏の求める)調査は非常に難しい。OSDLと共同で調査した結果を参考にして欲しいと思います」

 IDCはIT産業における変化に順応しようとしており、Linuxやオープンソース・ソフトウェアに関連するハードウェア、サービス、プリンタなどについて、(Windowsと)同じ程度の精度で調査を行おうと努めているとクズネスキー氏は言う。そして、マルチコア・プロセッサや仮想化が登場し、今問題にしているLinuxやオープンソースが生まれて以来、ソフトウェア・ライセンスは、ソフトウェアの導入数を調べる方法としてはますます不適切になっていると言い、フィンク氏の指摘に同意する。さらに、この問題はアナリストにとってもユーザーにとっても障害になるとも言う。

 「ソフトウェア・ライセンスは、IDCにとって、今後5年間の重要な課題の1つです。ベンダーにとっては収入を確保する上でぜひとも必要ですし、一方、企業はコストを削減するために実際の利用度に応じてライセンス契約を結びたいと考えています。さまざまな濃淡があり、オペレーティング・システムにとって公平なものがデータベース・ソフトウェアでも公平であるとは限りません」

 とはいえ、コスト削減への飽くなき追及は、Linuxとオープンソースにとって――特に、2008年まで年率約25%で成長を続け、IDCが110億ドルに達すると見込むLinuxサーバ市場では――絶好の機会だとクズネスキー氏は言う。

 「企業は、我が身を削らんばかりにコスト削減を追求しています。オープンソースは真のコスト削減につながることを強調すべきです。オープンソースを利用して企業を効果的に運営できることを示し、その方法を説明しなければなりません」

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