OSSの次世代デスクトップ――0.62で洗練するProject Looking Glass 3D APIプロジェクトリード川原英哉氏寄稿(1/2 ページ)

最新バージョン0.62では、多くのLinuxネイティブアプリをサポートした。さらに3Dの躍進を象徴するLG3D APIが制定され、アプリケーション開発が容易になった点が大きい。この特集は、プロジェクトリードでSunの川原氏自らの寄稿記事でお送りする。

» 2005年04月15日 16時04分 公開
[川原英哉,ITmedia]

 米サン・マイクロシステムズが支援する、次世代3Dデスクトップ探求のオープンソースプロジェクト「Project Looking Glass」(以下、LG3D)は、最新バージョン0.62をリリースした。この特集では、大幅な強化が図られたバージョン0.62のポイントや、盛り上がりを見せているコミュニティーの活動を中心に、プロジェクトリード自らが紹介していく。

 大学研究での開発プラットフォームとしての利用や一足早い次期バージョンに関する情報についても触れよう。最後には、JavaOneで発表される「Duke's Choice Awards」に関し、スペシャルなお知らせがある。

新バージョン0.62の特徴は何か?

 最新バージョン0.62が公開されたばかりのLG3Dの近況は、2004年6月末のカンファレンス「JavaOne 2004 San Francisco」(関連レポート記事)でオープンソースとして公開されて以来、コミュニティーと共に開発が進められてきた。

 多くの点で強化されている今回のリリースバージョンは、LG3Dのプロジェクトページからダウンロードできる。改良点は、特に以下の3点をクローズアップする。

  • Linuxネイティブアプリケーションの動作安定性向上
  • 3Dアプリケーション向けAPI(LG3D API)初版の制定
  • コミュニティ開発アプリの同梱

 Linuxネイティブアプリの稼動状況リストが示すように、0.62では多くのLinuxネイティブアプリが稼動するようになってきた。

 以下のスクリーンショットでは、FirefoxがLG3Dの三次元空間内で動いている様子が分かる。動作速度にもたつきを感じるものもあるが、パフォーマンスの問題は次期バージョンで解決する見込みである。既存アプリの対応に関しては、これで先が見えてきたといえる。

 それにも増してバージョン0.62の最大のポイントは、3Dアプリケーション向けAPI(LG3D API)の初版が制定されたことだろう。オープンソース以来目立った変更の無かった仮APIが、コミュニティーからのフィードバックを受け入れつつ、より自然な記述ができるように更新された。

 変更点のまとめとしては、0.62への移植方法を解説するWikiページが詳しい。特にイベント周りの扱いは分かりやすくなったはずである。これに加えて、新たに導入されたAnimationクラスを中心に、アニメーションのAPIと実装が整理、改善された。

 このような改善を含め、APIの初版が制定されたことにより今後ますますコミュニティによるLG3Dアプリ開発が活発化することが予想される。

 2004年、オープンソース直後のLG3Dの記事(関連記事)では、「Looking Glassのデスクトップは、とても寂しいものだった」との評をいただいてしまった。しかし、今回のリリースではコミュニティ作成のLG3Dアプリが4つほどバンドルされている。そのうち2つは日本人コントリビュータである櫻庭祐一氏と、えんどうやすゆき氏の作である。

 これらに加えて、簡単なデモアプリ2つとTutorialクラス3つも含まれており、上のスクリーンショットからも分かるように、アプリ起動のショートカットを置く画面下のタスクバーが手狭になってきた状態だ(タスクバーの機能改善は0.7で行われる予定)。これらのアプリのソースコードを参考に、是非とも独自のアプリの開発に挑戦してみていただきたい。

 以上のように、バージョン0.62によってLG3Dは実用的なデスクトップ、そして3Dアプリ開発のプラットフォームに向けて大きな一歩を踏み出したといえる。

盛り上がりを見せるコミュニティーの活動

 LG3Dコミュニティーの活動が活発になってきた。先月東京で開催した「Java Computing 2005 Spring」では、コミュニティー主導でLG3D BoFが開催された。そこではLG3Dアプリ・コンテストが行われ、数々の新鮮なアイデアに大いに盛り上がった。

 以下の写真は、LG3D上で開発したイメージビューア自体を利用してBoFで発表をする櫻庭祐一氏である.

 また、コミュニティーの方々の積極的な支援のおかげで、LG3Dはサンが支援するオープンソースサポートサイトである「java.net」で最も活発なプロジェクトとなった。Javaのデスクトップ関連のプロジェクトを集めたjavadesktop.orgでも、LG3Dのディスカッションフォーラムは、なんと「Swing & AWT」を抜いて,大差で一位の活発さなのだ。

 LG3Dのプロジェクトページを見ると、まず最初に目に入るのがページ右端にリストアップされたページ翻訳済み言語の数だろう。まだ不完全なものもあるが、現在英語と日本語を含め8カ国語に翻訳されている。これらはすべてコミュニティーを通した活動として実現してきた。今後とも、LG3Dを世界中の創造的な技術者の交流の場とすべく、より多くの言語への対応を進めていきたい。

 LG3Dに関する話題の交換は主に「ディスカッションフォーラム」で行われている。さまざまな国の人が活発に議論しており、英語が母国語としている人の方が少ないくらいである。あまり流ちょうではない英語での議論も(私自身も含め)見受けられるが、フォーラムに参加している人たちはまったく気にしない。LG3Dに興味のある読者は、このフォーラムを利用して是非とも世界の人たちと意見交換をする楽しみを味わっていただきたい。日本語でのディスカッションフォーラムもあるので、こちらの方も覗いてみていただきたい。

 LG3Dにはいくつかのサブプロジェクトがあるが,その中で特に注目するべきは、メインのlg3d-coreと、lg3d-incubatorlg3d-artだろう。「incubator (インキュベータ)」とは卵を温めて孵化させる「孵卵器」のことであり、新しいLG3Dアプリが育つための場所である。すでに10以上のプロジェクトが登録されている。

 「lg3d-art」は,「プログラムは組めないけど、デザイン、アートでは協力できる」という人のためのページである。LG3D向けの背景用画像や3Dモデルなどのリソースの貢献を募っている。美観にこだわるLG3Dでは、アーティストの参加を広く呼びかけている。

 もし何かLG3Dアプリのアイデアや斬新なデザインが浮かんだら、「Project Looking Glassへの貢献」のガイドを読んで、これらのサブプロジェクトに参加していただければ幸いである。

 なお、開発、翻訳以外のLG3Dコミュニティーの活動の1つに「Dukelele」の普及がある。コミュニティーの主要メンバの1人であり、翻訳プロジェクトのリード役である風間一洋氏の発案によるJavaのマスコット「Duke」の姿をしたウクレレだ。「Javaの父」James Goslingに抱かれた姿が、Duke自身のBlogに登場するほど(関連リンク)、米サンにおいてもヒットし、また「Java Computing 2005 Spring」ではオークションに出展され話題となった。こちらの方の活動も順調である。

大学研究での開発プラットフォームとして利用

 コミュニティー活動の活発化と共に、LG3Dを大学での研究の題材として、また研究ソフト開発のプラットフォームとして利用する動きも広がっている。

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