課題はソフトウェア特許欧州オープンソース動向最終回

欧州におけるオープンソースの動向を伝える同連載も今回でひとまず終わりとなる。最終回では、OSSの課題を挙げ、そこから欧州におけるOSSの意義について考える。

» 2005年06月30日 18時03分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

ソフトウェア特許との戦い

 これまで同連載では欧州オープンソースの支援者ばかりを取り上げてきたが、必ずしも全員が手放しでオープンソース・ソフトウェア(OSS)を受け入れているというわけではない。Linuxのイベントに参加していた人の中には、「不承不承で参加した」という公共機関関係者もいた。この男性は、「オープンソースは無料」という情報のみを聞きつけた上司から一方的にFedora Coreの導入を命じられ、サポートのなさに泣いていると漏らしていた。

 そのような声はあっても勢いのあるオープンソースだが、課題はある。取材した全員が障害として取り上げたのが、ここ1、2年欧州で大きな論議を呼んでいるソフトウェア特許の問題だ。

 欧州委員会がソフトウェアの特許を認める法案を提出、Foundation for a Free Information Infrastructure(FFII)などが熱心なロビー活動を展開した結果、2003年秋にいくつかの修正案が加えられた限定的なものが可決している。だが、2004年には原案に近いとされる新修正案を欧州委員会が押し、再び行方が見えなくなった。そして2005年3月初め、欧州理事会は同指令を承認、議会の反対を押し切って合法化に至る可能性がある。

 ここにいたるまでの一連の過程において、オープンソース支持者たちはオンライン、オフラインでさまざまな抗議活動を繰り広げた。オフラインでは、ブリュッセルにある欧州議会前で大規模なデモ行動が行われ、オンラインでは、ストライキ中としてサイトを閉鎖したところもあれば、署名活動を行った団体もある。OOS関連サイトでは、特許反対マークを貼っているところが多い。

 また、相互運用性を懸念する声も聞かれた。土台はOSSであってもその上に独自技術を構築した結果、結局は相互運用性がなくなってしまうという問題だ。

Microsoftの対策

 OSSの対岸に位置づけられるMicrosoftだが、取材中多くの人が「競合はMicrosoftにもメリットをもたらすはず」(Ovumのエリック氏ほか多数)と語った。

 Microsoftの売り上げのうち公共部門が占めるのは2割程度といわれるが、公共部門は影響力の高いセクターだ。Microsoftは各国の子会社で公共分野を補強しているといわれている。

 同社の“反撃”としては、まず、全世界で展開したマーケティングキャンペーン“Get the Facts”がある。WindowsとLinuxをコストや安全性の面で比較し、Windowsの優位性を訴えるというものだ(関連記事参照)。それから、政府向けのコード公開プログラム「Government Security Program(GSP)」などの取り組みもある。

 また、ミュンヘン市やパリ市などOSSへの移行を検討中であることが判明した市町村や自治体に幹部が出向き、値引き交渉を行うなどの活動も行っている。英ロンドン・ニューハム地区の場合は見事に逆転作戦に成功、契約締結にこぎつけている。このようなMicrosoftの動きから、OSS団体の中にはMicrosoftが参加者情報を入手することを恐れて秘密裏に会合を設けているところもあるし、市町村もOSS移行を秘密にする傾向がある。たとえばある著名なオープンソース団体は2004年初夏に、パリ郊外で完全にクローズドな会合を開いている。

結局は大手ベンダーの戦い?

 また、政府のOSS“トライアル”に対する批判の声もOSS陣営内部から聞かれた。「IBM、Sunなど大手ベンダーが調査やトライアルを無償で提供するという誘いに応じているだけで、ポリシーがないのではないか?」とあるOSSコンサルタントは指摘する。

 「ベンダーに言われるままにトライアルを実施し、Microsoftが値引きにくればそれにも応じる。自分たちのリソースをつかって調査しているのではない限り、公共性とか独立性があるとはいえない」とこのコンサルタントは続ける。結局はOSSブームを隠れみのにしたベンダーの戦いにすぎず、地元企業、中小ベンダーは相変わらず競争に参加できないという。

 最初の疑問に戻ろう。どうして欧州でOSS採用が盛んなのか? 聞く人により答えは異なるだろうが、取材を通して感じたことがある。それは、ソフトウェア産業全体では米国に出遅れたが、OSSにより独自の流れを起こせる、と欧州関係者がかけている期待だ。そこには、はるか昔から民主主義を発展させ、科学へのあくなき追求を続けてきた欧州人のプライドのようなものも感じられる。

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