サイボウズ・ラボで見えてきたサイボウズの気になる今後Interview

この8月に創業から8年となるサイボウズ。創業当時の誓いはようやく本格的に動き始めた。テクノロジーを売りにするようなビジネスのためのアプローチとして同社はラボを設立する。畑氏に話を聞いた。

» 2005年07月31日 03時16分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 サイボウズは7月25日、自社の技術力の向上を目的にサイボウズの100%出資による研究開発会社「サイボウズ・ラボ」を設立することを発表した(関連記事参照)。なぜ別会社である必要があるのか、何を開発するのかなどさまざまな疑問について、サイボウズの最高技術責任者(CTO)であり、新会社の代表取締役も務める畑慎也氏に話を聞いた。

畑氏。サイボウズ代表取締役社長青野慶久氏らとともに創立メンバーの1人。いまだ現役のプログラマーとしてサイボウズ製品のコーディングに携わる

最近のサイボウズ

 インタビューに移る前に、ここ最近のサイボウズについて簡単にまとめておこう。同社の主力製品と言えば、「サイボウズ Office」や「サイボウズガルーン」といったグループウェアだが、この5月にガルーン2のフレームワークをそれまで利用していた独自開発の「CyDE」に替えて、オープンソースのMySQLとPHPを採用した「CyDE 2」に変更した(関連記事参照)。サイボウズがオープンソースを取り入れた経緯は、サイボウズの代表取締役社長、青野慶久氏に行ったインタビューが詳しい。

 世界を視野に入れている同社だが、7月には米国現地法人を清算するなど、グローバルでは必ずしもビジネスが成功しているわけではない。今後、サイボウズはCyDE 2を全製品に適用していく予定だが、Share 360のように開発ラインを別に持っていたことによるさまざまな問題の多くがCyDE 2によって解消される見込みで、その意味では仕切り直しの感もある。

 加えてオープンソースにコミットしたあたりから、ブログやRSSといった技術も積極的に取り込む姿勢を見せ、「グループウェアの企業」という表現が必ずしも的確ではない状態になっている。8月から開始するインターネット・サービス「cybozu.net」もかつての同社からすると新機軸のサービスとなる(関連記事参照)。また、3月の決算発表では2005年中にM&Aを行う姿勢も見せている。世界に通用するソフトウェアを作ろうという創業当時からのビジョンを実現するためのシナリオが確実に進みつつあるといえる。

サイボウズ・ラボ概要

 今回発表されたサイボウズ・ラボは2005年8月初旬に設立予定(これは登記の関係で初旬となっているが、実際は8月1日から活動を開始予定)で、サイボウズ本社(水道橋)とは物理的に離れた場所(赤坂)のサービス・オフィスで研究開発を行う。同ラボでは中期的な視点から研究開発を行うとしており、位置づけとしては、サイボウズ・ラボがR&Dを行い、そこで開発されたものがさまざまな付加価値をつけてサイボウズ経由で世に出て行くことになる。このあたりは両社のホームページを見比べてみるとそのブランディングの違いがよく分かるだろう。マーケティング要素が盛り込まれたサイボウズのホームページに比べ、サイボウズ・ラボのホームページは、非常にシンプル。オープンソース系の*.orgによく見られるデザインに雰囲気は近い。

 フォーカスする分野としては、グループウェアなど情報共有に関するソフトウェアであるとしている。世界標準となるソフトウエアの開発を目指す一方、成果物は一定の条件下でオープンソースソフトウェアとして公開することも検討しているという。

 同ラボは当初3人スタートされる見込み。代表取締役の畑慎也氏のほか、サイボウズで開発部長も務める山本泰宇氏、そして秋元裕樹氏が名前を連ねている。いずれも「CyDE2」プロジェクトの初期にかかわっていた人間である。

畑氏に聞く

ITmedia メンバーなどは当初3名でスタートするということですが、今後どのようになるのでしょうか?

 スタートアップは常勤は3名で、パートタイムでサイボウズから1名加わります。人に関しては、ある程度のスピード感を持って増やすつもりです。人材のリクルーティングも人脈レベルですでに開始していますが、今回発表となったことで、日本全国からオープンソース関連の技術者が集まってくれればと思います。予定では2〜3年後に20名規模にしていくつもりです。

 このあたりはGoogleの例を参考にしながらリクルーティングしたいと考えています。新卒と経験者の組み合わせで採用することにトライできればと考えています。いずれにしても、短期的な研究開発ではないので、少しアカデミック寄りな人材を求めることになるかもしれません。

ITmedia リリースでは情報共有に関するソフトウェアの研究開発とありますが、具体的には?

 まだメンバーが額を付き合わせて議論しているわけではなくオンラインでのネタ出しの段階ということもあり、現時点では情報共有や情報交換のあり方に関するソフトウェアという広い枠で考えています。個人的に注目しているキーワードを挙げるなら、やはりブログやCMS、ATOM、RSSなどがあり、いわゆるセマンティックウェブなどがテーマになってくるのかなと思います。このあたりをもっと活用すればすばらしいソフトウェアが生まれてくるのではという期待があります。その意味ではグループウェアと自ら範囲を狭めてしまう必要もないと思いますね。

ITmedia GoogleのR&Dセンターなどを見ると(関連記事参照)、一般的な日本の企業で見られるものとは大きく異なります。「クリエティブなヤル気」を発揮させるための環境作りや、Googleで言う20%ルール(業務時間の20%は自分の好きな作業に費やす)の導入などは考えていますか?

 オフィスはサービス・オフィスということもあり、まだそのあたりを詰めていませんが、メンバーのアイデアを持ち寄って楽しいスタンスにしたいと考えています。

 オープンソース系の人たちにぜひ参加してほしいと思っているので、オープンソース・ソフトウェアの開発に携わってよい、などのルール作りは検討してしかるべきでしょうね。

ITmedia 率直に言って、サイボウズ・ラボをサイボウズと分ける必要があるのでしょうか? 社内にR&Dの部門を作ればいいのでは?

 ラボ設立の一番の目的は「世界に通用するテクノロジーの追求」です。中長期的な視点で研究開発を行うことに特化しているので、管理を分離させたほうがよいという判断です。そのため、ラボでCyDE2の改善を行っていくといったようなことはありません。

 サイボウズはテクノロジーカンパニーというより、マーケティングカンパニーとして見られがちな部分があります。一方、Googleなどは誰の目にもテクノロジーカンパニーとして見られますよね。やはりテクノロジーカンパニーとしてのブランディングがないと技術者は集まりにくいですし、そうならないと世界に向けて勝負していけないという問題意識はありました。このあたりが設立のきっかけと言えます。

ITmedia オープンソースのビジネスモデルと一口に言っても、さまざまなアプローチが考えられます。どのようなモデルを考えていますか?

 まだ落としどころが決まっていないのでそれがラボの成果物すべてになるか、プロダクト別になるかは分かりませんが、例えばMySQLのようなデュアルライセンス形態などを検討しています。やはり使ってもらわないと普及しませんので、個人利用は無償などにする必要は感じています。

 または、Red Hatのようなパッケージングやアップデートの提供を含めたサポートをまとめたもの、つまりサブスクリプションモデルも検討しています。

ITmedia 2年後にどのようになっていればラボは成功ですか?

 それは当然ラボ発のソフトウェアが世界に広まっていることです。例えばRubyなどは世界に広まった日本初のソフトウェアと言えるでしょうが、収益化を見据えた世界での普及という意味でラボの存在感を出したいと思います。

ITmedia 経営とコーディング、どちらが好きですか?

 そりゃあコーディングですよ(笑い)。いや、経営が嫌いという意味ではなく、自信があるという意味で。現場でコーディングをしていると自身の能力が発揮できているなと思うのです。とはいえ、これが数年後、サイボウズが世界に通用することになれば「何だ。(俺には)経営の能力もあるじゃないか」と思うのかもしれませんが(笑い)。



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