今日のオープンソース企業でドットコム型バブルは起こりにくい

オープンソース製品を開発している企業にベンチャー資本が流れやすくなっている。だが、1枚のコインには、必ず表と裏がある。それはオープンソース業界も例外ではない。

» 2005年12月16日 15時59分 公開
[Lauren-Rudd,IT Manager's Journal]
SourceForge.JP Magazine

 今月、オーランドでGartner Open Source Summit 2005が開かれ、数人の講演者から、オープンソース製品を開発している企業にベンチャー資本が流れやすくなっているという現状認識が示された。これに対し、講演者、パネリスト、聴衆から、ドットコム時代の再来なのかという問いかけがなされたが、それはないだろうという意見が優勢だった。少なくとも、あの規模での再来はない。

 だが、個別にオフレコで話を聞くと、ドットコム時代の黄金の日々の再来を――ただし、もう少しおとなしい形での再来を――望む人々が、ウォール街やオープンソフトウェア業界にかなりの数いることが分かる。

 Googleは、そんな再来の願いから生まれてきたような企業である。同社自身はコードをオープンソースとして提供していないが、オープンソース技術の大型ユーザーであるし、ドットコム時代によく目にした――再び見たいと願っている人の多い――投機的オーラを発散している点も重要である。もっと言えば、わたしがオープンソース企業の幹部に対して将来のIPOについて(つまり、株式を公開することのメリットについて)語るとき、最も頻繁に引き合いに出す役割モデルでもある。だが、Googleのウォール街でのパフォーマンスは、必ずしもうらやんでばかりいられるものではない。

 なぜか。Googleが株式公開に踏み切ったのが2004年8月19日である。その日、100.34ドルで終えた株価は、今日、400ドルを超えている。クレディスイス・ファーストボストンのアナリスト、ヒース・ペリー氏の予測によれば、これが来年は475ドルに届くというから、先週の終値からさらに16%の上昇を見越している。それに、ペリー氏の見方が最も楽観的な予測というわけでもない。UBSのアナリスト、ベンジャミン・シャクター氏が11月に書いたリポートでは、今後12カ月以内に500ドルの大台に乗せると予測されており、それが実現すると、Googleの時価総額は1506億ドルとなって、Microsoftの時価総額(2930億ドル)の約半分ほどにもなる。

 怖いのは、Googleの株式が、最近12カ月の同社収益の91倍の水準で取引されていることであり、わたしとしては、これがオープンソース世界の未来を暗示するものでないことを願うばかりである。もっと分かりやすく表現してみよう。今日、Google株を1株412.75ドルで買ったとする。同社が今後も現在と同水準の収益を上げつづけるとすると、この投資金額を回収するのに91年間かかることになる。それも、収益全部が株主に分配されると仮定しての話であり、現実には、Googleはいまのところ無配をつづけている。この412.75ドルという金額を年5%で91年間運用すれば、インフレがないものとして34,987.53ドルになる。

 現在、オープンソース製品を提供している企業に流れ込むベンチャー資本は、劇的に増大している。NVCA(National Venture Capital Association)によると、定款に何らかの形で「オープンソース」をうたっている企業に投下されているベンチャー資金の額は、年初からの9カ月間で1億4400万ドルにのぼった。また、昨年1年間に資金調達したオープンソース企業は12社にすぎなかったが、2005年には、最初の9カ月間だけで少なくとも18社もある、とNVCAは言っている。今年大規模な資金調達を行った企業では、Open Source Summitにも参加していたSugarCRMが目立つ。同社は3回の調達で1870万ドルの資金を得た。

 ベンチャー資本家のこの投資熱意は、悪いことだろうか。投資が増えれば、オープンソース製品を提供する企業の世界も広がる。その限りでは素晴らしいことである。だが、1枚のコインには、必ず表と裏がある。読者の意欲を殺ぐようで申し訳ないが、急速な成長は磁石のように作用し、手っ取り早い金儲けの口を探している人々を引き寄せる。これはどのような業界でも同じように起こる。ウォール街にしてもオープンソース業界にしても、オープンソース企業への投資を歓迎はしても、新バブルの発生に至るような投機熱を望んではいないだろう。だが、成功するオープンソース企業の数が増え、会社が個人の私物から公開企業へと発展していくと、世間の投機的眼差しはいや応なくそこに集中してくる。

 ドットコムバブルは誰の脳裏にもまだ新しいと思うが、残念ながら、あれを発生させて崩壊にまで導く投機熱は、制御が難しい。そもそも、シリコンからチップが作られるようになるはるか前から、投機は存在していた。例えば1635年、チューリップ栽培熱が最高潮に達していたオランダでは、1個のチューリップ球根が次のどれとでも交換できた。

  • 小麦4トン
  • ライ麦8トン
  • ベッド1台
  • 雄牛4頭
  • 豚8頭
  • 羊12頭
  • 衣服一揃い
  • ワイン2樽
  • ビール4トン
  • バター2トン
  • チーズ1000ポンド
  • 銀杯1個

 これらの品物の価格は、現在、どれも3万5000ドルほどである。価値が今後も増大しつづけるという期待の下に、1個の球根の値段は、現在の金額で1万7000ドルから7万6000ドルまで変動した。

 オープンソース業界にもまた投機バブルが発生するのだろうか。オープンソース企業のCEOや、それに資金を提供するベンチャー資本家と状況を話し合っていると、あのドットコム時代に比べ、今日では「忍耐」とか「我慢」という言葉が頻繁に出てくることが分かる。もちろん、ストックオプションやそれに基づく株式取引は、今日でも健在である。ハードウェア業界、ソフトウェア業界全般でそうだし、オープンソフトウェア業界では特に顕著である。だが、その一方で、わたしが見聞する機会のあった各企業は、どこも決して株式公開を急いでいない。

 その理由として一つ考えられるのは、ドットコム時代の企業と比べ、これらの企業が現金に餓えていないということである。つまり、自社の収入や収益のほか、豊富なベンチャー資本に支えられ、多くのオープンソフトウェア企業は強い財務体質を備えていて、株式公開に踏み切るまでに収益性の高い企業になれているということである。ドットコム時代には企業の消長が激しく、何年という単位で収入を上げつつけられる企業はほとんどなかった。まして、利益などは夢のまた夢だった。

 さらに、ベンチャー資本業界もある程度は成熟してきている。例えば、News.comによると、Matrix Partnersのデビット・スコック氏は、最近、あるオープンソースビジネス情報会社への資金提供を見送った。理由は、オープンソースコミュニティーからの十分なバックアップがないから、とのことだったそうである。確かに、ユーザーコミュニティーの強い支援があれば、製品自体が開発者指向であっても多人数によるバグ修正が期待できるし、望ましい機能についてのフィードバックも得られる。

 では、オープンソース世界の前途は波平らかだろうか。答えは、用心深い「イエス」である。Gartnerによると、今後4年間で、すべてのIT職場の少なくとも75%は一つ以上のオープンソース製品を使うだろう、という。オープンソースソフトウェアへの需要が高まれば、周辺に多少の投機が発生することは避けられない。それが無害な水準にとどまることを願いたいものである。

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