カリスマに代わりはいない、それが問題だ構造改革としての2007年問題(1/2 ページ)

5年で全社員が入れ替わるシリコンバレーの企業は日本とは異なる文化で知識の連携をしている。しかし、SASの堀社長によれば、どうしても置き換えられないものも存在するという。

» 2006年01月27日 08時25分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 オンラインムック「構造改革としての2007年問題」

 2007年問題をどのようにとらえるかは、ベンダーやユーザー企業、システムインテグレータ、コンサルタントなど、立場によってさまざまである。米Apple Computerの日本代表を務めるなど、米国でのビジネス経験も豊富に持つ、SAS Institute Japanの堀昭一社長に話を聞いた。

 同氏は、九州大学大学院から、ソニー、アーサー・D・リトル、米Appleの日本代表、日本ビューロジック社長、インフォミックス・ソフトウェア社長、アドビシステムズ社長を経て現職に至っている。

新年早々、香港に出張したという堀氏。帰国後の予定に無理やりにでも間に合わせなくてはならず、帰りはバンコク経由で帰るという強硬スケジュールになった

ITmedia 2007年問題というキーワードについて、どのような印象を持っていますか。

 2007年問題は、実は米国では昔からありました。というのは、特にシリコンバレーなどでは、離職率が年20%もあり、5年経過すると統計上はすべての社員が入れ替わる計算になるからです。つまり、米国の多くの企業では、知識(ナレッジ)が社内に蓄積されることを前提にした経営はできないことを意味しているのです。言うなれば、それと同じことが日本でも、2007年問題として起きるわけです。

 では、米国企業は5年経ってもなぜやっていけるのでしょう。例えば、見方を変えると、シリコンバレーの企業の多くが、「サバティカル」という長期休暇制度を持っています。多くの場合、勤続5年ごとに、サバティカルが付与されることが多いようです。私も以前の会社でサバティカルをもらったことがありました。

 大体、5年もたつと燃え尽きるほど働いたという実感が沸いてきます。そのときに、会社側が、たとえ残った人に対してさえも、「これからもここで働き続けるのか、あるいは、別の職場へ移るか」を考えるためにリセットする機会を与えてくれるわけです。

 私の場合は6週間のサバティカルを取得し、ロンドン、スイス、イタリアなど、欧州を旅行しました。だいたい、英国にいた最初の2週間目くらいまでは、仕事のことが気になりました。しかし、それ以後、スイスの山の上でカウベルの音を聞いていたあたりから、仕事のことを忘れるようになったことを覚えています。

情報系システムの充実が解決する問題

 このような考え方でも米国企業の経営がうまく回っているのは、情報系システムが充実していることに理由があります。たとえ社員の多くが離職したとしても、ノウハウが情報系システムに効率的に蓄積されていれば、大部分の仕事は、次の担当者に引き継ぐことができると言っていいのです。

 情報系のシステムがあれば、後継者が、過去5年の売り上げ傾向や顧客、売れ筋商品など、ビジネスにかかわるさまざまな情報をすぐに得ることができるわけです。これまで、日本では、こうしたシステムが適切に導入されている企業は必ずしも多くなかったのも事実です。逆に、米国でBIのような情報系のシステムの導入が進んだ理由は、もともとナレッジを人に蓄積していくことが前提になっていなかったため、と考えられるのです。

 ただし、すべての仕事を情報系システムで置き換えることはできません。経営者が、その人生で身につけたもので会社を引っ張る能力などは、リプレース不可能なわけです。Apple時代に日本代表として米国にいた際、ある日の会議で、「誰もが知る誰かがいまドアの向こうに立っています」という説明があり、「I'm Back」と言って入ってきたのがスティーブ・ジョブス氏でした。

 すると、ジョブス氏復帰後は、不思議と、それまでできなかったことができるようになったのです。それまでは、さまざまな人がさまざまなことをやろうとしていたのですが、共同設立者であるジョブス氏の登場で、事業分野を集約する意志決定が行われたことが具体的な理由です。このような経営判断は、あくまでも個人の人間性、ときにはカリスマ性に依存するものであり、システムでは到底置き換えられません。2007年に退職する人がこのように、ビジョンを立てるなどの役割を担っているとすれば、それについては情報システムはカバーできません。

ITmedia 実際に、2007年問題に直面して困っているケースをご存じですか。

 かつて、十数年の間、日本企業に在籍しておりました。その会社で、知識を伝えるための方法としては、○○学校、例えば「加藤学校」といったように、知識を持つ人がそれを下の者に教えるような制度がありました。その方法は、考え方なども含めた知識移転の方法として有効ではありますが、派閥ができるなどの弊害もあり、必ずしも奨励できません。

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