コスト増が懸念されるMSライセンスプログラムの新体系(3/3 ページ)

» 2006年03月07日 00時00分 公開
[Paul DeGroot,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版
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複雑さとコストアップの懸念

 これまでMicrosoftは、ライセンシングを簡素化したい考えを繰り返し表明してきた。だが、インフォメーションワーカー製品の新しいライセンス条件では、顧客にとってよりシンプルになる要素はまるで見当たらず、顧客がMicrosoftの新しいサーバのフル機能を利用したい場合、ライセンスコストは従来より割高になる見通しだ。

ライセンス数などの管理が困難

 CALは多くのIT担当者にとって、資産管理を行ううえで大きな悩みの種の1つだ。だがMicrosoftは、新しく発表した監査ツールを除けば、CALのカウントや管理を効果的に行うためのツールを何も提供していない。このツールにしても、手動で分析を行ったり、購入やライセンス取得の社内記録と比較したりする必要がありそうだ。

 ソフトの導入展開とユーザーアカウント管理の技術力を買われて採用されたIT担当者でも、Microsoftのライセンスルールや自社の購入履歴に加え、これからは特定の種類のCALでアクセスできる機能を熟知していなければ、ライセンス監査に悪戦苦闘することになってしまう。

用語の混乱

 CALの説明に使われている用語も問題だ。1つの言葉が文脈によって違う意味で用いられており、一部の言葉は使い方が不正確と思われる。

 Microsoftは現在、「Enterprise」という言葉を、ライセンスにかかわる以下の5つのものを説明するために使っている。

  • Enterprise Agreement:CALとサーバライセンスの購入に利用されるボリュームライセンスプログラムの1つ
  • 製品のEnterprise CAL:特定のサーバ製品の高度な機能の使用を許諾するライセンス
  • EAで購入できるEnterprise CALスイート(製品のStandard CALとEnterprise CALの両方を含む)
  • サーバのハイエンドエディション(例えばExchange Enterprise Editionなど)
  • 幅広いデスクトップアプリケーションを含むOfficeスイートの新エディションであるOffice Enterprise

 これらはいずれも「Enterprise」という言葉を含んでいるが、意味的に直接関連しているわけではない。例えば、Enterprise Agreement(EA)は、EAを利用する顧客が製品のEnterprise CALを購入しなければならないという意味ではない。またEAは、EAを利用する顧客に、製品のEnterprise CAL、Enterprise CALスイート、サーバのEnterpriseエディション、Office Enterprise 2007を使用する権利を自動的に与えるわけでもない。さらに、製品のEnterprise CALと、対応するサーバのEnterprise Editionには、直接の関係はない。顧客はサーバ製品のEnterprise EditionをStandard CALで使用でき(ただし、対応するサーバのすべての機能を使用することは許可されていない)、サーバ製品のStandard Editionの多くは、フル機能を利用するにはEnterprise CALが必要だ。また、「Enterprise」という言葉があまり意味をなさない場合もある。小規模企業もEnterprise CALやOffice Enterpriseを購入してメリットを見いだせるからだ。

 「Standard」という言葉の使い方は多少ましだ。Standardは、CALの種類、サーバのエディション、Officeのエディションを表しているだけなのだから。

SAの購入が無駄に

 新しいCALは、Microsoftの価格政策が様変わりしたことを示すものでもある。従来、顧客はサーバ製品の新バージョンにアップグレードした場合、通常はそのすべての改良点や新機能を利用することができた(例外は、Windows Serverに搭載されているが、CALが別途必要なRights Management Servicesやターミナルサービスなどだ)。だが今後は、上位機能を利用するには、上位のライセンスであるEnterprise CALが必要になる。例えば、Microsoftは電子フォーム管理をSharePoint Server 2007の新機能の目玉として宣伝しているが、単に既存のサーバライセンスとCALをSharePoint Server 2007にアップグレードするだけでは、この機能は手に入らない。顧客はSharePoint ServerのEnterprise CALも購入する必要がある。

 しかも、現在使っている製品のCALのSAを購入してアップグレード権を確保した顧客でさえ、その製品のEnterprise CALを入手するには、追加費用を支払わなければならない。このことは多くのSA購入者を驚かせるかもしれない。これまでMicrosoftは、製品を2つのエディションに分けた場合には、大抵はSAライセンシーが上位のエディションにアップグレードできるようにしてきたからだ。Microsoftが新しいEnterprise CALの別途購入を必須とすることは、同社がそれに対応した機能群を、「上位の」エディションとしてではなく、新しい製品として位置づけているということだ。SAを購入した顧客が、購入していない顧客と同じように、追加費用を支払わなければならないのはそのためだ。

コストアップを避けるための判断

 Microsoftは新しいCALの価格を明らかにしていないが、Standard CALは現在のCALと同程度の価格になると見られる。例えば、SharePointの場合、Open Licenseプログラムで購入する場合のCALの価格は73ドルだ。Enterprise CAL(価格は発表されていない)も73ドルだとすると、顧客はSharePoint Serverのフル機能を利用できるライセンスを得るのにPC当たり146ドルを支払うことになる。

 Core CALについてと同様に、顧客はEnterprise CALスイートを慎重に分析し、CALを個別に入手するのとEnterprise CALスイートの一部として入手するのとどちらが得策かを判断する必要がある。例えば、現在、MOMを使ってデスクトップPCを管理している顧客はほとんどいない(1つの理由はMOMのOMLの価格がPC当たり400ドル以上するからだ)。Enterprise CALスイートを購入する場合は、OMLを使わないとしても、その分の価格も含めて支払うことになる。

 EAを通じて製品のEnterprise CALを購入する場合の自由度が広がることは、多くの顧客にとって有益かもしれない。ただし、この自由度の拡大は、顧客がEAを購入するそもそもの大きな理由の1つであるライセンス管理の簡素化に逆行する。現在のEAでは、顧客は社内のどのPCについても、インストール可能なデスクトップソフトを明確に認識できる。特定製品のEnterprise CALを適宜購入するようになると、ライセンス管理が複雑になる恐れがある。

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