携帯電話と地域の力が融合した防犯対策――神奈川県藤沢市激変! 地方自治体の現実(1/2 ページ)

子供が被害に遭う事件が後を絶たない。子どもを守る防犯システムが保護者から強く求められている。ここでは、自ら携帯電話で情報を発信することで即時性を持たせつつ、そこに地域コミュニティーの力を加味したソリューションを展開する藤沢市の事例を紹介する。

» 2006年04月19日 08時00分 公開
[中野利佳,ITmedia]

 ここ数年、子供が被害に遭う事件が後を絶たない。しかし、事件としてニュースなどで報道されるものは氷山の一角であり、誘拐未遂や殴打・脅迫などは全国の至る所で毎日のように起こっているのが現実だ。こうした現状に、最近では保護者が学校や塾などの行き帰りに付き添い、一人では行動させないことが特に都市部では増えつつある。もはや、子ども一人で公園で遊ばせる、といった行為は保護者からするとあり得ないという認識が出来上がりつつある。

 自治体側も地元の警察署などと協力して不審者情報などの情報提供を配信するようになってはきたが、保護者たちが感じる「体感不安」はそう簡単にぬぐい去れるものではない。とはいえ、保護者が常に子どもに付き添うことも現実的でなく、子どもを持つ親は今、本当に安心できる防犯システムを切望している。

 ここでは、2006年4月から「GPS機能つき携帯電話を活用した防犯対策システム」を稼働させた神奈川県藤沢市の事例について、同市市民自治推進課主任の高田大氏に話を聞いた。

自ら携帯電話で情報を発信

 このシステムは、2004年度より行っている「防犯対策強化事業」の一環として2005年度からプロジェクトが組まれ、防災科学技術研究所の長坂俊成氏の助言を受けながら、慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)金安研究室との連携で開発を進めてきたものだ。プロジェクト当初は2007年度での運用開始を想定していたが、昨今の社会情勢を反映し、運用開始を前倒しして2006年度から一時運用を開始とした。同市ではほかの自治体の事例を参考に、防犯ブザー付きのPHSやICタグを利用したソリューションなども検討したというが、これらのソリューションでは新たに多額の設備投資が必要となるのは明白だったこともあり、普及率が高く、かつ、システムも比較的安価に構築できる携帯電話を使ったソリューションの導入を決定した。

 システムの機能は大きく分けて2つ。ひったくり・痴漢・空き巣・不審者情報などを提供する「防犯情報配信機能」と、犯罪弱者である児童などが緊急時に保護者へ送信する「SOSメール配信機能」である。

 防犯情報配信機能は、市民自治推進課が防犯情報ターミナルとなり、市民や警察などからの情報を集約し、防犯情報の共有化を図るのが狙いとなる。こちらはこの9月に稼働予定となっている。

 ここでは、「SOSメール配信機能」について注目したい。なお、SOSメール配信機能の利用にあたっては、利用マニュアルが用意されている(PDF:2.1Mバイト)のでこちらを参考にしてほしい。

 SOSメール配信機能は、児童などが緊急時に自分の持っている携帯電話でワンタッチまたはツータッチの簡単ボタン操作をすることで、事前に登録した連絡先に地図情報付きのメールが送られる。地図については、3種類の縮尺が選択可能となっている。

 上記は携帯電話にGPS機能が搭載されているケースを想定しているが、GPS機能を搭載していない場合でも、居場所情報として親と子の間であらかじめ数カ所決めておいた「よく行く場所」が参考表示されるようになっている。

 こうした情報を基に保護者は安否確認を行うが、各地域には防犯協会やボランティアで構成される「かけつけ協力員」も存在しており、必要に応じて児童などの安否確認と保護を依頼することができる。

GPS機能付き携帯電話を活用した防犯対策システムのSOSメール機能。不審案件を察知した人が携帯電話で情報を発信、関係者にメール配信できるシステムになっている(画像は利用マニュアルより引用)

 このシステムのメリットを高田氏は次のように語る。

 「一般的に自治体の情報配信システムでは、一度警察署などに通報されたものを自治体内で検証した後に配信しているが、即時性という観点からするとこれでは不十分。しかし、SOSメール配信機能は、不審者に遭遇した児童や女性などが自ら携帯電話で情報を発信することで、知らせたい人にすぐ知らせることができるのが大きなメリット」(高田氏)

 また、SOSメール機能のもう1つの特徴として、GPS機能を使った地図表示機能が挙げられる。この機能は携帯電話が発信する位置情報を、「ふじさわ電縁マップ」と連携することで実現している。ふじさわ電縁マップは、藤沢市が提供する藤沢市都市計画基本図を利用した地図付きのホームページで、市民や市の利用者によって自由に投稿が行える。この都市計画基本図(モノクロの地図)を位置情報と連動させて表示することで、文字だけの位置情報と比べて格段に場所が把握しやすくなる。今後はもっと詳細なカラー地図を携帯電話上で表示できるようにしたいと高田氏は話す。

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