FOSSへの道を歩むXara(2/3 ページ)

» 2006年05月11日 15時45分 公開
[Bruce-Byfield,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

ビジネスモデル

 多くの人と同様、モール氏も彼のアドバイザーも、最初はコードを公開することに反対した。「まったく納得がいかなかった」と彼は話している。「製品を無料にしてどうやって儲けを出すのだ、という気持ちだった」だが、FOSS市場への参入について事前調査をやってみた結果、基本的な条件が明確になった。「はっきりと分かったのだ」と彼は言う。「Linuxの市場で製品を成功させるには、オープンソースでなければならない。それもGNU General Public Licenseの下で公開するのが理想的だ」

 ソフトウェアが高品質である限り、これらの基本的条件を満たせば、Xara LXは公式リリースから6カ月以内に「ほぼすべてのディストリビューションに含まれ、大多数のLinuxユーザーのデスクトップにインストールされる製品」になりうる、とモール氏は語る。「もしそうなれば、Xara LXの直接の売り上げがあろうとなかろうと、われわれはビジネスを成功とみなすだろう」と彼は述べている。

 これらの基本的な条件を確信してすぐに、この移植は長期的なプロジェクトになるだろう、とモール氏は悟ったのだった。「短期的に利益が出せるとは思っていない。おそらく中期的にも難しいだろう」と彼は言う。Xaraが最初にもたらしてくれるのは、世間からの注目と、FOSS製品によるブランド価値だろう、と彼は述べている。

 もう1つの短期的な利点は、Xaraによって、首尾よく開発のコミュニティーを構築できれば、大手の競合製品に対抗するために必要な機能を開発できることだ。「われわれの先を行く製品と真剣に渡り合うには、開発者が20〜30名必要になる」と述べながらも 「社内だけではとても無理だが、コミュニティー主導のプロジェクトをうまく組織できれば、それなりの開発スピードが期待できそうだ」と語る。また、コードはプラットフォーム間で共有されているので、XaraのWindowsユーザーがこのコミュニティーから恩恵を受けることも考えられる。

 一方、長期的にXara LXから確実に利益を得る方法は、まだモール氏自身も明確にできていないようだ。CD-ROM商品や解説書など、サポートや基本的サービスの販売について語っていた同氏が気にかけているもう1つの可能性は、独占的コードによる機能を含めた商用版だ。Xara Xtremeには、付属フォントやエフェクトのプラグインなど、サードパーティが所有する機能がたくさんあるが、当然のことながら、これらの機能は、フリー版であるXara LXに含めることはできない。

 モール氏は、こうした独占的コードによる機能の一部をFOSSの同等機能で置き換えること――例えば、独自仕様のPantoneカラーシステムをFOSSであるlittle cmsに替えるなど――を検討しているが、ちょうどOpenOffice.orgの機能がStarOfficeによって強化されるように、フリーソフトウェアの機能を独占的ソフトウェアによって補う、という別のやり方もある。最終的には、すべてのプラットフォームに対して、FOSS版に始まって機能強化された一連の独占的ソフトウェア版に至るまでのXara製品ラインアップを用意することになるかもしれない、とモール氏は考えている。

 ただし、こうした意思決定が行われるのはまだ先のことだ。当面、Xaraの計画は、独占的ソフトウェアであるWindows版からの収益に依存することになる。「オープンソースの基準では、開発者に対してMac版やWindows版の開発を禁じることはできない」とモール氏は語る。「とすれば、彼らがMac版やWindows版を開発してもおかしくはない。だが、当社のWindows版の売れ行きが悪化すれば、この実験的プロジェクトは中止せざるを得ないだろう」

FOSSの道をどう進むか

 転換の準備に際し、モール氏と社員たちは、コミュニティーの特性を丹念に理解しようと努めた。とりわけ、急速にXara製品のライバルになりつつあるFOSSのグラフィックエディタ、Inkscapeの開発者たちとは定期的に意思疎通をはかってきたという。この2つのプロジェクトの連携を押し進めたモール氏は、Inkscapeを「多くの点でわれわれにインスピレーションを与えてくれる存在」と語っている。彼がFOSSの開発モデルに秘められた強みを理解し、競合関係とは対照的な相互依存関係の利点を認めるようになったは、Inkscape開発状況を目にした経験の影響もあったという。

 2005年秋にFOSSへの取り組みを発表して以来、Xara社内では、開発手法が徐々に独占的ソフトウェアのものからオープンソースのものへと変わっていった。こうした変化のうち最も些細なものが、モール氏が大げさに「頑固なWindows開発者」と呼ぶプログラマーたちがGNU Compiler Collection(GCC)の使い方を習得したことだった。

 もっと重要な変化は、Xaraの開発者たちがコミュニティーをベースにした開発への切り替えを始めたことだった。モール氏は、「われわれはずっと、開発物を機密事項として扱う閉鎖的な独占的コードの世界にいた」と語っている。Xara LXの発表をきっかけに、モール氏は、コードが公開される日に備えて、個人的な人脈に頼るよりもむしろメーリングリストでの情報交換を行うように、と開発者たちに要求した。「自分の書いた電子メールが広く公開される、という考え方にもそろそろ慣れただろう」と彼は開発者たちに語りかける。「やればできることだ」

 Xara LXのコード公開に伴い、Xaraは、最近6カ月間の社内アーカイブも同社Webサイトに置いた。Xaraの開発者たちは、「FOSSのやり方にもうすっかり慣れ」、いつでもFOSSコミュニティーで開発に携われる状態だ、とモール氏は語っている。

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