提言7:トップのコミットメントがマネジメントを成功させるマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は最後の「提言7」として、「トップのコミットメントがマネジメントを成功させる」がテーマ。結びのメッセージも付記しておく。

» 2006年06月26日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

トップのITマネジメントへの関与が足りない

 「ITなくして経営は成り立たない」「IT戦略の成否が競争力を左右する」といったことが声高に言われるようになり、ITマネジメントやITガバナンスに取り組んでいる企業は多い。ところが、東京証券取引所のシステムトラブルに代表されるように、ITシステムを適切に構築・運用する仕組みが整っていないことも問題視されている。また、ITツール導入が先立ち、本当にめざすべき目的がよくわからない、戦略的な展開をめざしたはずのITシステムが、出来上がってみたら単なる業務効率化にしか役立たなかった、などといった事例も多い。

 こうしたITガバナンス不足の背景には、経営トップの関与不足があると思われる例が目立つ。言い換えると、ITガバナンスをリードするべき人材に求められる能力や、トップマネジメントとしてITガバナンスにコミットすべき深さが足りないのではなかろうか。

コミットメントが義務づけられるマネジメントシステム

 経営トップの関与が足りないという声があっても、さまざまなマネジメントシステムでは、それを義務づけられているのが現実である。例えば、ISO9004では、次のように記述されている。  「トップマネジメントのリーダーシップ、コミットメント、および積極的な参画は、利害関係者の便益を達成するための効果的で効率的な品質マネジメントシステムを開発し、維持していくうえで不可欠なものである。(5・1・1 経営者・管理者の責任、一般指針)」。また、新しいISO9001は、経営者の責任で実施するべきこととして多くの事項を挙げているが、それらはすべて、トップが積極的にコミットしなければ効果的には実行できないことばかりである。

 さらに、とくに経営者が知っておくべきこととして、2003年1月に公表されたISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の新しい認証基準案では、「経営陣の責任」という章が新たに設けられている。そこでは、社外にはセキュリティを確保している姿勢を示し、社内に対しては経営におけるセキュリティの重要性と責任の所在を宣言する趣旨の、経営トップのコミットメントが明確に義務づけられている。

 コミットメントが義務づけられているケースではないが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)導入におけるプロセス連携重視のプロジェクトの場合も、さまざまな関連部門に業務およびシステム機能の要件整理が発生するため、部門横断的な組織の設置が必要だ。また連携効果が高く、そのために当事者である企業にとって死活的な業務プロセスであればあるほど、トップのコミットメントが高く求められるというケースもある。

マネジメント成功のカギはトップのコミットメント

 ITサービスマネジメントの導入においては、その効果として、「誰が何をどのくらいの期間でやったか」について業務の透明化が図られる点、さらにシステム担当者の士気向上がある。ITサービス担当者は高いストレスにさらされながら業務をこなしているのが現実で、彼らの士気が職場品質の向上につながることになる。ITサービスマネジメントの成功要因は、そうした士気向上につながるトップのコミットメントなしにはありえない。ITツールの導入は簡単にできても、マネジメントの導入は経営体質の変革が伴い、なかなか難しいものだが、経営トップの強い関与がなければ成し得ないものである。

 また、いかに経営にインパクトを与えられるようなIT戦略を策定したとしても、最終的に経営トップが全社へ向けて号令を発しなければ、その戦略が実践に移されることはない。したがって、CIOは戦略策定に至る前の段階から経営トップと密接にコンタクトをとり、経営層が期待するITの役割・効果を十分に把握しておく必要がある。つまり、可能なかぎり経営トップをIT戦略に関与させるわけである。経営トップのコミットメントという後ろ盾が薄いとなれば、IT戦略に対する事業部門の参画意欲やIT部門の活力は損なわれ、推進力は大きく減退してしまうからだ。

 あるいは、経営者が関与不足である限り、CIOがCIOとしての役割を発揮することも、ITシステム導入に関する意思決定の仕組みをきちんと作ることも、なかなか難しい。

 戦略的な情報活用に経営トップのコミットメントが必要だという点についてはかなり以前から強調されているものの、現実にはまだまだ経営者本人が距離をおく傾向があるのも現実だろう。しかしながら、ITガバナンスの確立はもちろんのこと、あらゆるマネジメントシステムの導入を成功に導くキーファクターとして、経営トップのコミットメントは不可欠である。

最後に

 以上、7つの提言をお読みいただくと理解していただけたと思うが、すでにITの投資と活用は、汎用機なのか、UNIXなのかWindowsなのかといった議論ではなく、まさにマネジメントシステムをきちんと理解をしてその導入と活用を図ることがいかに経営側に求められているかを再認識できるだろう。日本はあまりにもこの提言の中に書かれていることについて、無関心や不勉強のまま、多くの投資が行われているのが実態であろう。

 仮に、読者の皆さんが提言に書かれていることを詳しく学習をしたくとも、日本にはそれを教えてくれるカリキュラムもなければ、教師もほとんどいない状態である。特に日本は、ITというと電子工学分野の先生が牽引をしてきたが、これからはまさにビジネス系の学際での研究が期待される。しかし、まだその兆候は出てきていない。

 今後、ユーザーが自らの企業価値を上げていくためには、法的な順守も含め内部統制が求められている中で、今回の提言に対する理解と実践がこれからの経営層に求められてきていることをご理解いただけたと思う。

 あらゆるマネジメントシステムの導入にはマネジメントOSの導入とそれを運用するコミットメントが最重要なことであり、これを無しに行うと、ISOの導入のように『ISO(イソ)自慢』ばかりの組織になるのではないだろうか。今回の提言が、今後読者の皆さんにおけるITの戦略的投資の判断基準の一助になれば幸いである。

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