垂直市場向けアプリに注力するMicrosoft

今週ボストンで開催されるMicrosoftのWorldwide Partner Conferenceにおいて同社は、巨大なMicrosoft Business Solutionsパートナーチャネルを通じて垂直市場への参入を再びうかがう考えだ。

» 2006年07月12日 08時00分 公開
[Renee Boucher Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 7月11〜13日にボストンで開催されるMicrosoftのWorldwide Partner Conferenceにおいて同社は、巨大なMicrosoft Business Solutions(MBS)パートナーチャネルを通じて垂直市場への参入を再びうかがう考えだ。ERP(Enterprise Resource Planning)市場のビッグプレーヤーになるのが同社の狙いだ。

 昨年、ミネアポリスで行われたWorldwide Partner Conferenceでは、MBSパートナーチャネル内部を変革することに主眼が置かれ、MicrosoftはIBI(Industry Builder Initiative)などの新プログラムを通じて、垂直市場向けのアプリケーション開発を強化し、.NETからVisual Studioに至る「クラシックな」Microsoft技術を販売の軸とするようパートナーを促した。

 MicrosoftではIBIの宣伝に再び注力しており、4社の新パートナー(Atos Origin、Infonizer、TXT e-Solutions、WellPoint Systems)およびこれらのパートナーがIBIの下で開発した個別業界向けモジュールを7月10に発表した。

 Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは7月10日、「Dynamics AX(旧名称はMicrosoft Axapta)4.0」のキックオフイベントを主催した。Dynamics AXのパートナー各社もIBIプログラムに参画している。

 さらにMicrosoftは7月10日、「Business Ready Licensing」と呼ばれる新しい価格方式も発表した。新方式では、チャネルパートナーおよびその顧客に対するソフトウェアライセンスが大幅に簡素化される。

 Business Ready Licensingでは、モジュール単位でERPソフトウェアを購入するというコンセプトに代わり、実際にソフトウェアを使用している同時接続ユーザーの数に応じて課金するという仕組みが導入される。新ライセンス方式は3分野の共通機能を対象とする。

 「Microsoft Dynamics Business Essentials Edition」は、基本的な財務管理/商取引ソフトウェアを必要とする企業を対象とする。「Microsoft Dynamics Advanced Management Edition」は、SCM(サプライチェーンマネジメント)、製造業務、プロジェクト会計といったニーズに対応した複雑で高度な財務/会計ソフトウェアや、ビジネスインテリジェンス、レポーティング機能などを必要とする顧客向けとなっている。そして「Microsoft Dynamics Advanced Management Enterprise」は、Advanced Management Editionの拡張版であり、より高度なSCM機能やフィールドサービス/構成/製造/開発などの機能を定額方式で提供する。

 今回の発表はいずれも、ばらばらになっているパートナーチャネルを1つにまとめ、垂直市場向けの機能を充実させることによって、競争の激しい中堅企業市場およびエンタープライズERP市場でSAPやOracleに対抗するというMicrosoftの取り組みに沿ったものである。

 少なくともIBIパートナーにとっては、この取り組みが功を奏しているようだ。

 オランダのビーネンダールに本社を置くISV(独立系ソフトウェアベンダー)のTo-Increaseで製品管理を担当するアード・デヨング副社長は、「垂直市場を目指した方向転換は収益に悪影響を及ぼすと考えているパートナーもいるが、この転換は防衛策に過ぎないのだ」と指摘する。To-Increaseは早くからのIBIパートナーである。

 「われわれは外側に目を向ける必要がある。こうったソリューションを打ち出さなければ、OracleやSAPといったライバルが高笑いすることだろう。Microsoftがこの取り組みを始めたことを非常に喜んでいる。これは生き残るための唯一の手段だ」(デヨング氏)

 IBIプログラムがISVおよびVAR(付加価値再販業者)に提供するのは、ソフトウェアを販売するための手法である。それは、サプライチェーンマネジメントといった個々の技術ではなく、ビジネスプロセス/ロールに基づいて技術を購入してもらうというMicrosoftの総合的指針に沿ったものである。このアプローチは、パートナー各社がDynamicsアプリケーションとマイクロソフトのクラシックな製品を組み合わせるのを容易にする。

 同プログラムは、マーケティングの支援や見込客の紹介などのMicrosoftサービスをパートナーに提供する。また、サードパーティーアプリケーションに関する顧客サポートも提供する。MicrosoftがMBSアプリケーションの販売をチャネルパートナーに依存していることを考えれば、これは重要な訴求点となる。

 ジョージア州アトランタにあるIBIパートナー、Manhattan Associatesのチャネル担当副社長、トッド・ステレンバーグ氏は、「Industry Builder方式は、SAPやOracleのような企業が振りまいている恐怖、すなわち、ユーザー企業が異なる連携方式を採用する複数のベンダーと個別に契約するのはロシアンルーレットをやるようなものだという恐怖を完全に吹き飛ばす」と話す。

 「SAPやOracleは、Microsoftがまとめようとしている価値提案にはリスクがあると指摘したいのだろうが、IBIはそういった不安を払拭するものだ」(ステレンバーグ氏)

 しかしMicrosoftにしてみれば、それほど順風満帆ではなさそうだ。IBIが発表されたのは昨年だが、現在までに同プログラムに参加したのは5つのMBS Dynamicsスイートのうち1つ(Dynamics AX)の部門だけである。「Dynamics GP」(旧称:Microsoft Great Plains)、Dynamics SL(旧称:Microsoft Solomon)、Dynamics NAV(旧称:Microsoft Navision)、Dynamics CRM(カスタマーリレーションシップ管理)の各部門はまだ参加していない。

 Dynamics AX担当ゼネラルマネジャー、マーク・ジェンソン氏によると、この状況は明日にでも変わる可能性があるという。

 「ほかの製品部門は、まだIBIを検討している段階だ。GPはエンタープライズをターゲットとしているため、IBIへの参加は当然だといえるが、SLのような製品はミッドマーケットでそれほどアグレッシブにターゲットを設定しているわけではない」とジェンソン氏は説明する。

モジュール方式を廃止したMBSの新ライセンス方式

 同時使用しているユーザーの数およびソフトウェアの実際の利用形態に基づいて価格が設定される。以下の3つのコンポーネントが対象となる。

  • Microsoft Dynamics Business Essentials Edition――財務管理とSCMの統合スイート
  • Microsoft Dynamics Advanced Management Edition――財務、SCM、製造、プロジェクト会計などのニーズに対応した複雑な財務/会計ソフトウェアを必要とする顧客を対象とする
  • Microsoft Dynamics Advanced Management Enterprise――Advanced Management Editionの拡張版で、SCM機能やフィールドサービス/構成/製造/開発などに関連した機能を定額方式で提供する

資料提供:Microsoft



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