「工場長にどう報告すればいいんだ」と詰め寄られた原価管理担当者のアイデア(2)(1/3 ページ)

営業戦略会議で原価管理部の藤井は戸惑いを隠せなかった。第1営業部の戸田部長が声を張り上げる。「なぜこの商品にこんな安い値を付けたのだ。前モデルのバージョンとはいえ安過ぎるのではないか。売れ筋商品だぞ」

» 2006年08月01日 16時00分 公開
[北山一真,ITmedia]

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北山一真(ネクステック ビジネス変革推進部マネジャー)

 営業戦略会議で、原価管理部の藤井は戸惑いを隠せなかった。第1営業部の戸田部長が声を張り上げる。

 「なぜこの商品にこんな安い値を付けたのだ。前モデルのバージョンとはいえ安過ぎるのではないか。売れ筋商品だぞ」

 「この商品で会社の業績が大きく変わるんだ、分かっているのか」

 「坪井、なんでこうなったか説明してみろ」

 営業担当の坪井主任に矛先が向けられた。

「えー、今回は、前モデルからのバージョンアップのため、得意先からも“値引きしてほしい”という要請がありまたした。また、防水機能を追加するだけなのでそれほど高くならないと思いまして……」

 シドロモドロの返事のせいか、戸田部長の声が大きくなる。

「なんでそんな思い込みで値決めする。ちゃんと原価(管理担当者)にも確認して値を付けたんだろうな」

 「会議に来てもらっている原価の藤井さんに確認したのですが“原価は出ない”といわれて、仕方なく感覚で値を付けました」

 藤井は身の凍るような思いで様子をうかがっていた。

 「おい、藤井。なんで原価が出ないんだ。説明してみろ」

 藤井は今にも逃げ出したい。

「原価の立場で申し上げますと。どんな状態にしろ、コストは図面がないと見積ができません。以前から申し上げているように、仮図でも構いませんので図面を出してもらわないと見積もりはできません」

 営業部は、このいつものやり取りに対して

「またか。」

と冷淡に見ている。

価格に対する値ごろ感

 このように、販売価格の値決めに関して、担当者の個人的判断や部門間連携が取れていない企業は多い。こうした会話はどの企業でも日常的に行われているのではないか。

 1回目では、売価設定におけるポジショニングに関する考え方について触れたが、2回目の今回は、利益を確保するための売価をどう設定するべきかについて触れていきたい。

 売価設定と聞いて「営業部門の仕事」と考える人も多いかも知れない。だが、今や売価設定は営業だけでなく、設計や原価部門までも意識すべき業務である。

 前述の例に話を戻すと、前モデルからのバージョンアップ製品に対して、原価を考慮することもなく、適切な売価設定ができなかった。また、ほかのバリエーションと比べても少し安い価格設定となっている。営業担当者が感覚で値を付けているので、当たり前の結果ともいえる。

 なぜこんなことが起きてしまうのか?

 売価設定に関しての基本を少しおさらいしたいと思う。売価は何を基準に検討されるべきかというと、顧客の要求仕様に対してである。顧客はあくまでも機能やスペックなどを指定するのであり、自社の部品構成で指定することはない。ここで重要なのは、売価設定の際に既存仕様と追加仕様を分けて議論する必要があるということだ。

 前述の例を取ると、既存仕様は前モデルの機能、追加仕様は防水機能となる。顧客も追加仕様(防水機能)分は価格アップになっても納得をするが、それ以外は値引き要求をしてくる。

 よって、確実に値上げできる追加仕様分の価格決定が重要になる。しかし、追加仕様分に対する原価が思ったより高く、値上げをしても利益が少なかったり、場合によれば既存機能と合わせて値引きをしてしまったりと利益を見逃しているケースが多い。

 売価設定において重要な事は、利益を見逃しているケースをできるだけ少なくすることである。では、その問題を解決するために、1. なぜコストを元に売価設定ができないのか、2. なぜ営業が妥当な売価が分からずバリエーション間で差が出てしまうのかの2点について考えてみる。

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