「工場長にどう報告すればいいんだ」と詰め寄られた原価管理担当者のアイデア(2)(3/3 ページ)

» 2006年08月01日 16時00分 公開
[北山一真,ITmedia]
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あなたもやっている重回帰分析

 重回帰分析を使った価格設定とは、過去の実際原価データと設計情報や仕様情報からパラメトリックにおおよその価格、値ごろ感(専門的には内的参照価格と呼ぶ)を算出する手法である。「統計解析」というお堅い言葉が付くと拒否感を示すかもしれないが、実は読者の皆さんもこれとほぼ同じようなことを日常で行っている。

 例えば、車好きの方なら、ミニバンで2.5L、7人乗りでHDDナビやバックモニターといった機能がついておよそ250万〜300万というような値ごろ感がある。これもある意味、簡単な重回帰分析(パラメトリックな価格算出)である。このように、どんな製品においても設計情報や仕様情報からおおよその価格を算出することが可能となる。

 重回帰分析によるデータを蓄積しておくことで、構想段階や製品開発の上流段階でも迅速に価格算出が可能となる。また、今は原価だけの話で触れたが、むろん売価についても同様の事がいえる。売価と原価を常に同時に算出できることで、適切な意思決定が可能となる。

パラメトリックな価格算出の実際

 では、実際に重回帰分析の導入を行ってみたい場合、「難しい統計の勉強」や「複雑なロジックが入ったツールの購入」が必要なのではないかと物怖じしてしまう方が多いのではないか。

 そんな心配は必要ない。今は、複雑な計算を自動で行ってくれるフリーソフトが存在する。さまざまな分析手法が組み込まれた高度なパッケージも存在するが、まずはフリーソフトでも十分である。しかも、目的を達成させる最低限の機能はあるため、まずはフリーソフトでも十分である。

図2-2:重回帰分析を用いた内的参照価格(値ごろ感)の設定。多変量解析(重回帰分析)を用いた内的参照価格の分析.パラメトリックに価格を計算できる

 図2-3は実際に樹脂成型品の売価算出で使用した例である。製品の特性によって異なるが、大きさの幅、材質区分、生産数量規模などのパラメータでおおよその価格が算出できるようになっている。例では、売価算出の例だけだが実際は原価に関しても設定する事が可能である。

 以上が実際の導入事例の1つである。これは一度行って見てほしい。ここで、社内プロジェクトを立ち上げようと前向きになられた方がいれば、1つだけ留意するべき点がある。統計解析手法の導入というキーワードを耳にすると、条件反射的に「統計など当たらない、意味がない」「重回帰分析など幼稚だ、分析手法を入れるならロジットモデルのような高度なものでないとダメだ」と反論する人が必ず現れる。確かに、変化の厳しい現代、数値を当てようとしてもなかなか難しい。重要なのは、当てること自体が目的ではないことである。

 図面から算出した価格を100点とすると、重回帰分析で算出できる価格の精度は60点から良くても80点である。この60点から80点をどうとらえるかである。なにもしなければ、20点とか場合によっては0点ということもある。それと比べれば、60点は評価すべき点数である。その60点を取るのに多大な投資(システム開発など)が必要ならやめるべきだが、前述のとおりシステム開発などの多大な投資は必要ないのである。

 統計の精度は、「ロジック設定単位」と「分析元のデータ精度」と「パラメータの設定方法」により決まる。分析元データの精度向上やユーザーの習熟により確実に結果の精度は向上する。

 よって、導入初期段階では営業会議などの正式な場で使用するのではなく、価格チェックツールの位置付けで、桁間違いなどの異常値がないかチェックするツールとして使い、精度を高めながら段階的に売価設定ツールに使用してはどうだろうか。統計手法には懐疑的な人も多いが、諦めず継続的な運用を目指してもらいたい。

 第2回目は、売価設定に重要なコストとの関係や値ごろ感について触れた。重要なのは、顧客要求仕様と製品構成の関係を整理しないと、コストだけではなく社内データの活用も難しくなるということ。また、迅速に価格を算出するためには、図面からの見積ではなく、統計解析手法などの図面に頼らない方法を行う必要があるということである。

 さらに、それらのデータを用いて営業、設計、原価などの社内の各部門が、同じ値ごろ感を持つことである。売価情報や原価情報を社内のどこまで開示させるかセキュリティの問題はあるが、社員に同じ値ごろ感を持って業務をする事が大きな効果を生み出すことを理解していただきたい。

 次回最終回では、売価戦略や売価設定を踏まえて、コストをどのように作り込んでいくべきか。コストをコントロールするには何が重要なのかについて触れたい。

筆者プロフィール:北山一真(ネクステック ビジネス変革推進部マネジャー)IT系のコンサルティング企業にてERP導入プロジェクトを主とした業務改革推進、システム導入などに従事し、現職に。現在、大手グローバル製造業のコスト管理、全社システム構築に関するプロジェクト管理に従事。



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