いざという時に差が出る――100周年を迎えた専用線の強み

誕生から100周年を迎えた日本の専用線サービス。最近では、セキュリティや災害対策、事業継続の観点から注目を浴びている。

» 2006年08月11日 16時21分 公開
[ITmedia]

 「専用線が生まれて100年。今までもこれからも、その役割は変わらない」――NTTコミュニケーションズのユビキタスサービス部主査、藤野雅己氏は、専用線サービスの「100周年」を踏まえ、このように語った。

 ユーザー間を物理的に1対1でつなぐ専用線サービスが日本で初めて登場したのは、今をさかのぼること100年前、1906年(明治39年)の7月20日。東京の日本銀行と横浜正金銀行の間で、日露戦争後の好況に沸く市況をいち早く連絡したいという要望に応え、逓信大臣の認可が下された。

 当時も電話は存在していた。しかし、回線にはしばしば故障があったうえ、交換手を経由して接続することになるため順番待ちが発生し、「使いたいときに使えない」という不満があった。今で言う「輻輳」がすでに存在していたことになる。

 この専用線の料金は年額1536円。今の物価に直すと約2500万円という金額だ。また、専用線敷設のための工事費には6000円(現在の価格で約1億円)を費やしたという。しかし、「迅速なビジネスを実現する」という目的に必要な最新のインフラであるという認識からこれだけの投資が行われた。なお、現在同等の専用線を敷設したとすると、価格はおよそ28分の1の年額90万円という。

 その後も専用線は、金融機関のほか、新聞や関東大震災からの復興事業など、緊急性の高い領域やミッションクリティカルな領域を中心に利用されてきた。

 専用線のもう1つの転機が起こったのは、一気に時代が飛んで1980年代。アナログ回線からデジタル回線への変換だ。これを機にサービスは徐々に多様化し、90年代には「ディジタルアクセス」「ディジタルリーチ」といった廉価なサービスが登場。インタフェースもSTMに限らず、ATM、さらにはイーサネットなどが利用されるようになった。

 帯域についても増加する一方だ。今ではイーサネットタイプの「ギガストリーム」サービスで、最大10Gbpsというメニューが提供されており、東京-大阪間を結ぶ基幹回線として利用している企業もあるという。NTT Comでは2006年度中に、サービスプロバイダーや学術系ネットワークなどを対象とした40Gbpsのメニューも提供する予定だ。

事業継続性の観点からも注目

 藤野氏によると専用線は最近、帯域以外の観点からも注目されているという。1つは、2者間を直接結ぶことから情報漏洩のリスクがないというセキュリティ面。もう1つは、ディザスタリカバリや事業継続といった観点だ。

 「広域イーサネットなどの他のサービスももちろん強固。しかし、専用線の場合は信頼性の桁が1つ違う」(藤野氏)。

NTTコミュニケーションズのユビキタスサービス部主査、藤野雅己氏

 たとえば、「専用線は、網をベースとしたサービスとは異なり『この地帯は避けてほしい』といった具合にルートを決めることができる。太平洋側と日本海側と別々に線を引くこともでき、災害に強いことがメリットの1つ」(同社)。仕組みが単純なだけに、障害が発生した際の問題の切り分けを迅速に行うことができ、復旧が早いこともメリットという。

 「災害などが起こる前もそうだが、起きた後にも強い。何か起こったときにこそ差が出るのが専用線」(同氏)

 米国では、こうした特徴を踏まえ、専用線を使っていること自体が「事業継続に配慮している」「社会的責任を果たしている」ことを示す、投資家対策の一環とみなされることもあるという。

 もちろん、コストパフォーマンスを考えれば、「どこにでも専用線を使う」というのはナンセンスだ。回線の用途や重要度、構成に応じてうまく使い分けることが重要だという。たとえば、メッシュ型ネットワークでは広域イーサネットなどが有利だが、近距離の接続やスター型ならば専用線にも価格メリットが生じる。

 「どうしても落とすことはできない本社-データセンター間は専用線、拠点との接続には他の安価なサービスを採用するといった具合に、メリハリのある投資が重要」(同氏)

 また、情報システムを構築する際には、機能やアプリケーションなどの上位レイヤーから検討されることが多いが、足回りがしっかりしていなければ十分に活用できないし、いざというときの対処も困難だと指摘。「RFP(提案依頼書)をまとめるときには、ぜひネットワークの部分にも目を向けてほしい」と同氏は述べている。

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