MS、Vistaへの無償開発ツールのバンドルを断念

Microsoftは開発者たちのために、次期Windows OSのVistaに「Visual Studio Express」を含めようとした。だが、過去に経験した法的な問題からか、これをあきらめようとしている。

» 2006年08月14日 15時43分 公開
[Darryl K. Taft,eWEEK]
eWEEK

 Microsoftは、次期Windows OSとなるVistaに「Visual Studio Express」ツールを含めることについて検討したが、同社はさまざまな理由でこのアイデアを断念した。

 Visual Studio Expressの主任プロダクトマネジャーを務めるダン・フェルナンデス氏は8月10日付のブログの記事で、開発者がVisual Studioを利用しやすくするための方策として、同社では無償版のExpressをVistaにバンドルすることを検討したと述べている。

 しかし、法律的な問題、Vistaの品質基準に合わせる必要性、セットアップ、ローカリゼーション、複数のExpressバージョンが存在することなど幾つかの理由により、この技術をバンドルしないことを決めた、とフェルナンデス氏はブログに記している。

 MicrosoftはExpressツールをOSに追加する代わりに、ほかの選択肢を検討している。

 「ユーザーがMSDN(Microsoft Developer Network)にアクセスし、Expressをダウンロードできるようにするというのが、“十分に好ましい”選択肢である」とフェルナンデス氏は述べ、VistaにはVisual BasicとC#コンパイラが含まれることがすでに決まっていると指摘する。

 フェルナンデス氏によると、“より良いソリューション”として、MSDNに直接アクセスするリンクをStartメニューとProgramsメニューに追加して、ユーザーがExpressツールを入手できるようにするという方法があるという。

 「これは簡単な方法であり、Visual Studio Express “Orcas”を出荷する際には、リンクを更新するだけで最新版を提供することができ、その結果、ユーザーはより動的なソフトウェアを手に入れることができる」と同氏は説明する。

 もう1つの選択肢としては、DellやHewlett-PackardなどのOEMが販売するPCに、Visual StudioのExpress版を同梱するという方法があるという。

 「OEMチャネルを利用すれば、MicrosoftがExpressツールをVistaにバンドルするのを断念するに至った問題をすべて回避できる」とフェルナンデス氏は説明する。

 「Dellなどのベンダーがハイエンドのゲーム用マシンに、“ゲームモッダー”(ゲーム改造ファン)向けのクールなカスタムコンテンツとともにVS Expressを含めるのもいいだろう」(同氏)

 例えば、Dellであれば、「Dell XPS M170を買えばUnreal Tournamenモッダー向けのカスタムコンテンツが付いてくる」といったキャッチコピーなども考えられるだろう、とフェルナンデス氏は語る。「ゲーマーは極めて高速な開発マシンを欲しがっており、ベンダーがゲームの開発や“モッド”(改造)について解説した無償のチュートリアルやビデオを提供することで付加価値を高められるだろう」(同氏)

 OEMを活用するという選択肢は、Microsoftが7月に発表した12項目の指針にも合致する。

 競争の促進を目指した12項目の指針の1番目は、OEM各社が販売するPCに添付されるソフトウェアに関する内容となっている。

 この指針は次のように述べている――「コンピュータメーカーおよびユーザーが、Windowsが動作するPCに任意のソフトウェアを自由に追加できることとする。より広い意味では、あらゆるコンピュータメーカーおよびユーザーが、Windowsが動作するPC上に任意のOS、任意のアプリケーション、任意のWebサービスを自由にインストールし、これらを推進できることとする」

 フェルナンデス氏によると、MicrosoftがVisual StudioのExpress版をVistaに組み込むことをやめた主要な理由の1つが法律的な問題だという。

 「詳しい説明は省略するが、これは合意に違反するものになる」とフェルナンデス氏は法的問題について述べている。

 これは、Microsoftがこの数年間、各種の技術(ブラウザやメディアプレーヤーなど)をWindows OSに組み込んだことに起因する独禁法問題に対処してきたことを示唆したものだ。無償版の製品であっても開発ツールをOSに含めれば、Microsoftの競合企業にとって新たな争点となり、独禁法当局の関心を引く可能性も高い。

 「もう1つの大きな懸念はセットアップの問題だ」とフェルナンデス氏は述べている。「その理由については煩雑な説明を省略するが、一言で言えば、WindowsにはVisual Studioよりもずっと多くのセットアップ(およびサービスモデル)が存在するということだ。メリットと比較すると、サービスを提供する労力がはるかに膨大なものになる」と同氏はブログに記している。

 また、バージョンという問題も多くの疑問を投げかけるという。「Visual Studio Expressには5種類のバージョンが存在する。これらをすべて含めるべきか? ユーザーは誰なのか? ユーザーが使う可能性が最も高いのはどのバージョンか? Webツールも含めるべきか? Vistaのどのバージョンに含めるのが適切なのか?」(フェルナンデス氏)

 しかしフェルナンデス氏によると、Microsoftにとって最善のソリューションは、とにかくExpressツールをOSに含めることだという。とはいえ、「自社のOSに粗末なものを含めるのをいやがるスタッフも多い」ことを同氏は認めている。

 「しかしMicrosoftでは今でも、できるだけ多くの場所に開発ツールを配布したいと考えている」(同氏)

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