“アジャイルイノベーション”に舵を切るMS――開発文化を根本的に見直し(2/4 ページ)

» 2006年09月06日 07時00分 公開
[Michael Cherry,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

依存関係に縛られる統合の問題点

 しかし、統合には弊害もある。統合を進めることでさまざまな面で依存関係が増大するため、チーム間の調整が煩雑になり、製品のビルドを定期的に作成するなどの重要な作業が複雑化し、開発サイクルが遅くなることだ。

 例えば、Windows Vista、Visual Studio 2005、SQL Server 2005の出荷が遅れた一因は、統合イノベーションへの取り組みに伴い、これらの製品のさまざまなコンポーネントを担当するチーム間や、こうしたチームと、これらの製品に依存するほかの製品の担当チームとの間で多くの依存関係が生じたことにある。これらのチームは一般に、それぞれ異なる顧客層に対応していたため、優先事項がそれぞれ異なっていた。その結果、効果的に協力し、コミュニケーションを取ろうという動機が乏しかった。

 さらに、依存関係が循環し、関連するすべてのチームの進捗に支障が生じてしまった。例えば、Visual Studio 2005とSQL Server 2005が開発されていた当時、SQL Serverチームは、開発ツール部門が担当する.NET Frameworkを必要としたが、開発ツール部門は、.NET Frameworkベースのデータベースツールを作るためにSQL Serverを必要とした。

 しかも、統合イノベーションを実現するために、1つのリリースに多くの新技術を統合することが必要になる場合があり、この場合はデバッグが複雑になる。例えば、Windows Vistaチームは、新しいグラフィックスフレームワーク(Windows Presentation Foundation、コード名:Avalon)、新しい通信フレームワーク(Windows Communication Foundation、コード名:Indigo)、アップデートされたセキュリティモデル(User Account Control)を実装しなければならなかった。

 これらのコンポーネントはすべて根本的に新しいコードで実装されたが、こうしたコードは当然のことながらバグが多い。このため、Vistaチームは不安定なコードに悩まされることになり、開発を中断してバグの根本原因を突き止め、コンポーネントの担当責任者がバグを修正するのを待たなければならないことが多々あった。

 また、一部のチームの作業はWinFSファイルシステムなど、Vistaから後に外された技術に依存していた。WinFSのVistaへの搭載を前提にして、WinFSに関連するコンポーネントの開発作業が進められていたことが、それらのコンポーネントや、ひいてはVista自体の完成を遅らせた可能性もある。

 一方、統合イノベーションが達成されなかった場合もある。例えば、Office Systemに含まれるVisio 2007では、ほかのOffice 2007製品と同じユーザーインタフェースは採用されない。また、Officeでは、古いCOMベースの開発技術であるVisual Basic for Applicationsが使用される。その代替技術である.NET Frameworkが発表されてから5年が経っているにもかかわらずだ。

 Microsoftはつい最近も、SQL Serverの広く使われている無料の簡易版であるMicrosoft Desktop Engine(MSDE)がVista上では動作しないことを明らかにした。MSDEは多くのISVの製品に組み込まれている。アプリケーションをアップデートしてVistaに対応させようとしていた一部のISVや企業内開発者は、Vistaがリリースされるほんの数カ月前に、Microsoftが彼らのソフトウェアの重要なコンポーネントを同OSでサポートしないことを知らされたことになる。

アジャイルイノベーションの可能性とリスク

 バルマー氏は、製品のリリース間隔を短縮し、より予測可能なスケジュールで製品を提供するのに役立てるため、Microsoftは、新しいコンポーネントや技術を個別に出荷でき、それらをその後で(のみ)関連する製品に適切なタイミングで導入していくプロセスを採用すると述べている。

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