“アジャイルイノベーション”に舵を切るMS――開発文化を根本的に見直し(3/4 ページ)

» 2006年09月06日 07時00分 公開
[Michael Cherry,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 この優先順位の変更により、Microsoftはより迅速に製品を出荷できるかもしれない。だが、この変更は、顧客に一貫性のないメッセージを送ることになる恐れがあるなど、固有の問題をはらんでいる。例えば、Officeは従来から、大幅に遅れることなく、かなり予測可能なスケジュールで出荷されてきたが、それはOffice部門が多くの場合、他部門のコードへの依存を拒否してきたからだ。このため、Microsoftは.NET Frameworkのメリットを顧客やパートナーにアピールしているが、Officeを.NET Frameworkの宣伝の目玉にすることはできない。WordやExcelのようなOfficeの主要製品では.NET Frameworkは使用されていないからだ。

 Microsoftはアジャイルイノベーションを目指すとしても、独立して開発されたOS(Linux)とWebサーバ(Apache)を含むLinuxディストリビューションなど、一部の競合製品に見られるほどには、その方向を推し進めないだろう。

 また、Microsoftがこの新たな開発理念を実践することで、Microsoft製品がOSカーネルの拡張を利用することなく、パートナー製品の場合とまったく同じAPIによってOSサービスにアクセスするようになった場合、Microsoftは自社製品をパートナー製品と差別化しにくくなるかもしれない。つまり、例えばWindows Server上でのSQL ServerとOracleの動作の違いが少なくなる可能性がある。

ビジョンを実現するには

 Microsoftが新しいビジョンを現実のものにするには、以下のような方策を講じる必要がある。

製品レビューを経営幹部間で分担する
 従来、Microsoftの製品開発の強みの1つは、「BillG」の製品レビューにあった。製品チームが製品計画についてビル・ゲイツ氏から幅広い質問を受けるというものだ。会社全体を把握していたゲイツ氏は、製品の統合についてチームに質問する上で格好の立場にあった。だが、ゲイツ氏はほかにも多くの仕事(会長職や、Microsoftや業界のイベントでの多数の講演)を抱えており、レビューが必要な製品は膨大な数に上ることから、常にタイムリーなレビューができていたわけではなかった。

 2006年春にチーフソフトウェアアーキテクトの職を引き継いだレイ・オジー氏は、担当職務がゲイツ氏ほど多くはないため、レビューに応じやすいだろう。だが、オジー氏はWindows LiveやOffice Liveなどのオンラインサービスに重点的に取り組んでおり、製品レビューの一部をほかの経営幹部、例えばサーバ&ツール担当上級副社長のボブ・マグリア氏や、Windows&Windows Liveエンジニアリング担当上級副社長のスティーブン・シノフスキー氏などに委任しなければならないかもしれない。

 こうした経営幹部によるレビューでは、達成可能であるとともに製品のタイムリーなリリースにつながる適正な統合レベルを基準にして、評価を行うことが必要になる。

依存関係を減らす
 アーキテクトや上級幹部は、担当している製品や技術にほかのチームの新技術を取り入れたいという意欲を、その技術が製品レベルに仕上がるまでは抑えることで、依存関係を減らさなければならない。先ごろスティーブン・シノフスキー氏がOfficeチームからWindowsチームに移ったことは、Windowsにおける依存関係を減らすのに役立つかもしれない。同氏がOfficeチームを率いていた間、Officeは2〜3年ごとに新リリースが出荷されたが、.NET Frameworkなどの技術をサポートしてこなかった。

 こうしたパターンがWindowsチームでも繰り返される可能性がある。ただし、OSは生産性スイートよりも複雑であり、内部の依存関係が多くなりがちだ。さらに、Microsoft社内では新技術の多くについて、Windowsへの搭載を最も重視しているため、Windowsチームは.NET Frameworkのようなコンポーネントを、Officeチームのように無視することはできない。

変更を管理可能な数に抑える
 リリースサイクルのスピードアップという目標を達成するには、Microsoftは、全面的に機能強化した新リリースを提供したいという誘惑を抑えなければならない。WindowsやOfficeのような成熟製品では特にそうだ。現在の進化段階から見て、両製品ではアーキテクチャを安定化させ、管理可能な数の新機能と機能変更を各リリースで実装していくべきだ。大幅なアーキテクチャ変更は、慎重に進める必要がある。

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