ビジネス継続マネジメントの標準規格「BS25999」と最新BCM動向(2/2 ページ)

» 2006年11月24日 08時38分 公開
[岡田靖,ITmedia]
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BCMの発展〜IT分野からビジネス全体へ〜

 BCM専門家の組織である英国The Business Continuity Institute(BCI)からは、Technical Seervices DirectorのLyndon Bird氏が講演を行った。氏は冒頭、さまざまな災害の写真を示し、こう語った。

 「20年前、災害への備えなど、皆さんあまり考えておられなかったと思います。しかし今は、ありとあらゆるインシデントがビジネスに影響を与えることが認識されてきており、BCMの必要性も認められてきました」


BCIのLyndon Bird氏


 「BCMは、まずIT分野から始まりました。かつて、20〜30年前のコンピュータは不安定で、すぐに故障したりデータを失ったりしましたので、IT部門はその対策が必要だったのです。その後、コンピュータやデータだけでなく、ネットワークやヒトも障害対策の視野に入るようになり、今では物流なども含め、ビジネスプロセスに必要なあらゆる存在が対象となっています」とBird氏はBCMの歴史を語った。

 例えば、SPOF(Single Point Of Failure)という用語がある。これは、ある1つの障害によってシステム全体の機能が失われるような場合に使われるIT用語だ。例えばネットワークでいえば、複数の通信事業者を併用することで、どれかの事業者がトラブルを生じても通信が途切れないようにできる。BCMの概念がビジネス全体に拡大するようになると、SPOFも「サプライヤーが1社だけでは、そのサプライヤー次第で業務が止まりかねない。SPOFだ」といった形で応用されるようになったという。

さまざまな脅威とその影響

 脅威は、従来の予想を超えて発生することがある。

 「例えば英国では、2000年頃にFuel Blockadeという事件がありました。燃料に対する税制の改正に反対して、精油所の封鎖を行ったグループがいたのです。ほんの数百人でも、戦略的に動けば社会全体に影響を与えられることが分かりました。また、米国の同時多発テロ事件でも、当時これほど大きな影響を及ぼせるとは誰も思っていなかったでしょう。この事件以降、1つのビルに多くの部署を集約せず、分散させるようにした企業もあります。交通機関へのテロといえば、東京でも『地下鉄サリン事件』がありましたね。近年でも、マドリッドやロンドン、ムンバイなど世界各地で鉄道などを狙った事件が相次いでいます。交通インフラというのは、なかなか守りにくく、テロリストにとっては最も攻撃しやすい対象であるようです」(Bird氏)

 また、疫病も企業や地域経済に大きな打撃を与えることがある。家畜の疫病は、農家だけでなく関連する多くの企業に影響が及ぶ。ヒトの伝染病は、もっと大きな影響をもたらすことがある。

 「本人が病気にかからなくても、家族が病気になれば看病する必要があるでしょうし、深刻な伝染病であれば地域全体が封鎖されることも考えられます。影響が連鎖していくのです。メディアのグローバル化によって、世界各地でどのような脅威が生じたのかが分かるようになってきましたが、同時に脅威そのものもグローバル化しており、また、企業のサプライチェーンもどんどんグローバルに長くなってきています。そして、さまざまな脅威への対策が必要だと理解されるようになってきたのです」(Bird氏)


Bird氏が示した、BCMのライフサイクルを示した図。


 「このような数々の脅威に対し、BCMが唯一の解だとは言いませんが、具体的なシナリオを立てて問題に対処することは有効だと考えています」とBird氏は言う。

 このBCMをより効果的にするため、ベストプラクティスが作られ、標準化が進められてきた。BCIは1994年に設立され、現在では世界80カ国から3500名ものメンバーが参加している。

 「英国のBS25999だけでなく、他の国々でもそれぞれの標準規格が作られつつある状況です。ISOによる世界標準化も期待されていますが、各国で満足できるような内容になるには、まだ数年はかかるのではないでしょうか」

 BCIとしては、各国のBCM手法を持ち寄って情報を共有し、グローバルなBCM手法を構築していくだけでなく、大学へのカリキュラム提供や、企業などに対するトレーニングコースの提供、ジャーナル媒体の発行、BCMに関するイベントやシンポジウム開催などを通じて、BCMの普及にも力を入れていく方針だという。

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