FOSSプログラマーを統率する7つのヒントマネジャーの教科書(2/4 ページ)

» 2006年11月28日 08時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

地位の高さは優秀さの証ではない

 仕事以外の時間を家族や友人とどのように過ごしているかを観察すれば、その人が格式ばらない関係をどの程度好んでいるかすぐに分かる。似たような選択肢がどのように与えられようとも、特に階層の底辺近くにいる人々はそうした格式ばった階層的組織から離れることを好むものだ。階層的組織は効率の面で優れているかもしれないが、ある部門の代表者になると自然と反感を向けられる対象になってしまう。

 こうした自然発生的な反権威主義は、とりわけ開発者の間に強く現れる。少し考えれば、実力主義には、誰が何を新たに成し遂げたかによって地位が絶えず変化するという意味が含まれていることが分かる。この政治的な不安定さが立場の相違や不当な評価から生じるさまざまな感情と結びつくことで、リーダーに対する反感がさらに強まるのだ。その上、FOSSの場合は、依然として地位がプログラマーの功績に対する主たる報酬の1つであるため、こうした態度が極端に現れる可能性がある。

 権威的な地位でも年齢の高さでも──多くの場合、マネジャーにはこうした要素があるが──IT部門の部下から自発的な尊敬を得ることはできない。地位には知性や熱意といった優秀さが反映されているのだと自分では思い込んでいても、IT部門の開発チームはおそらくそうは思わないだろう。経営コンサルタントのティム・ブライス氏は、ほとんどのプログラマーは頭の良さという点ではほかのどんな職種とも変わらないのだが彼ら自身はそうは思っていない、と主張している。

 それが自然に生まれたものにせよ組織的に作られたものにせよ、どんな権威に頼るよりも、ITマネジャーは自らを調整役または問題解決役とみなし、IT部門の文化に逆らわず、できる限りその文化の中で活動を進める必要がある。まだ誰もその因果関係を示してはいないが、企業の組織がフラット化された時期とそれに重なるようにIT産業が繁栄したことの間にはおそらく何らかの関係があるはずだ。コンピュータ産業の経済的な影響力の大きさから、この産業の重要性はほかの業界にも波及しつつある。

自らの動機付けが部下にも当てはまるとは限らない

 1つのマネジメントスタイルでは全員に対応できないことを強調したマネジメント書は、Beverly L. KayeとSharon Jordan-Evansによる「Love 'Em or Lose 'Em」など、わずかである。しかし、この分野の多くの権威や彼らの教えに従うマネジャーは相変わらず、昇進、給与、特別手当といった自分たちを動機付けるものがプログラマーの動機付けにもなる、と思い込んでいる。そうしたプログラマーの文化を知らない人々は、自分たちの考え方が間違っていることをなかなか理解できないかもしれない。

 キャリア専門家のタグ・グーレイ氏は次のように述べている。「優れたプログラマーは優秀な社員の大半とは異なっている。ある新興企業における以前の仕事の1つで、わたしは開発担当の副社長として3人のプログラマーからなるチームを率いていた。その1人はデスクの周りにDilbertという漫画の絵を貼り付けていた。それも主人公のDilbertがとんがりヘアの上司をからかっている場面で、たぶんわたしへの当てつけだったのだろう。たくさんの企業を見てきたが、職場でそんな漫画を見かけたことはなかった。それどころか、いつも皆、自分がチームプレイを尊重する人物であることを意図的に示す小物を置くように注意を払っていたものだ」。事実、精神を鼓舞するコーポレートアートを風刺する通俗的なDemotivatorのポスターのような印刷物は、大半のマネジャーが当然と考える価値に対して多くのプログラマーが懐疑的、または否定的でさえあることを示す最初の徴候であることが多い。

 厄介なのは、たいていのマネジャーがビジネスやマーケティングの経歴を持ち、ほかの人々と一緒に働くことを好む外向的な人物であることだ。対照的に、ほとんどのプログラマーはビジネスの世界でも学究的であり、自己の内面に目を向け、無機的な対象に取り組みむことを好む。FOSS指向のプログラマーであれば、企業への敵対意識を強く示すこともあるかもしれない。報酬を辞退するようなことはないにしても、プログラマーは、仕事に対する満足をより大きな挑戦と責任、そして特にFOSS関係者の場合は功績に見合う称賛から得る傾向が高い。

 営業員やマーケティング担当者なら場当たり的な仕事にでも意欲的に取り組みんでくれるかもしれないが、プログラマーの場合は、自分が疎外されたと感じてとんでもない軽率な行動に出る可能性さえある。毎週のようにピザパーティーを開いたり、ナイトクラブでプロジェクトの完了を祝ったりすれば、人事部門のチームは満足するかもしれないが、IT部門のプログラマーは職場から連れ去られるのに抵抗するか、あるいはコーディングの山場を抜けたばかりであれば家族と過ごす時間を奪われることに腹を立てるかのどちらかだろう。彼らにとっては待ち遠しいイベントどころか、ありがた迷惑な拘束としか映らないのだ。

 こうした決まりきったやり方でプログラマーのやる気を高めようとするのではなく、本当に彼らに意味のあるものを与えられる本質的な褒賞の実現を検討すべきである。例えば納期を守ることができた者には、その責任を全うできる範囲内で、プロジェクト内での自主性を高めたり、プロジェクトリーダーの役割や在宅勤務の権利を与えたりすることで報いるのだ。FOSSの開発者の場合は、納期に間に合わせることができたらフリープロジェクトで活動する時間を与えるとよい。例えそのプロジェクトが会社にとってすぐに使えるものでなくても、後で役立つかもしれないし、そうした協力の実施によって、将来的に入社の可能性がある人々の間で会社の評判が上がることにもなる。

 やる気を与えるために最も重要なのは功績を認めることだが、FOSS開発者の場合は特に、文化的な違いを忘れてはならない。ほとんどの開発者は、ミーティングの場で褒められたり月間最優秀社員賞に選ばれたりしても困惑するだけだろう。むしろ、功績をきちんと認めていることや社内のほかの場所で称賛を耳にしたことを部下たちに伝えるべきである。

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