確かに人間の生活空間は、単体のロボットが働きやすい環境とはいえない。ビル清掃ロボットなどが良い例だ。業務用の清掃ロボットは、一定以上の広さなら人間より資産性が高いとして、大手企業を中心に開発が進められている。だが、問題はエレベーターだ。上下の階に移動するだけのために、エレベーターのボタンを押す機能までもが必要となってしまう。そのため、エレベーターにロボットを受け入れるインフラを持たせる標準化が業界で始まっているという。
「環境側が標準化するとロボットも働きやすいし、環境自体が半ばロボット化すれば、さらにサービスレベルが向上するだろう。半面、ロボットが人間に近づこうとすると、先ほど述べたように手段が目的化してしまう」(大場氏)
つまり、ヒューマノイド型ロボットの研究を進めれば進めるほど、人間の構造の複雑さ、行動の繊細さが明らかになり、研究のゴールが遠ざかってしまうというジレンマを抱えているのだ。
大場氏は、CPUとセンサー、アクチュエータが付いていればロボットだと考えている。しかしその定義でいえば、洗濯機や自動車なども立派なロボットになるはず。現代のクルマは、大衆車クラスでもCPUを40〜50個は搭載し、ネットワークは4系統、無数のセンサーやアクチュエータによって高度にロボット化が進んでいる。しかし、洗濯機や自動車をロボットと呼ぶ人はいない。
それに対して大場氏は、「ロボットは永遠の理想郷」と表現する。「ある機能を追い求めてロボットを開発し、目的が達成されたときには、そのロボットはもはやロボットとは呼ばず、何か別の固有名詞が付けられる。ロボットとは、永久に実現しないものなのかもしれない」
日常生活で短時間利用するだけのクルマが高度にロボット化しているのに対し、多くの時間を過ごす屋内空間でロボット化が進んでいないのはなぜだろうか。
それについて大場氏は、「ガシャガシャと派手に動くロボットは、安らぎの空間にはそぐわないからでしょう」と論じる一方で、「家庭内環境はテレビやエアコン、冷蔵庫など多様な企業が作っており、たとえトータルでロボット家電を提供するメーカーが現れても、それがすべて受け入れられるかどうかは疑問」と話す。
今後、生活空間に関しては、建築家や空間デザイナーなどと意思疎通を図りながらコラボレーションし、自然なロボットの浸透を考えることが重要だという。
また、「ロボットビジネスはソリューションビジネス」という同氏は、ニーズとデマンドは違うと断言する。ロボットはあくまでも手段に過ぎず、目的を求めている人々の意見を聞き入れることが必要なのだが、一般の消費者にロボットがあったら何ができるかという質問を投げかけても、明確な答えは返ってこないという。
「一般ユーザーの漠然とした要望がニーズであり、ソリューション企業がそのニーズを聞き入れた上で、本当の意味でのデマンドをビジネスの視点で考える。そして、部分的な機能をロボットメーカーに発注するといった流れが生まれなければならない」(大場氏)
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