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» 2006年12月26日 08時00分 公開

次世代ITを支える日本の「研究室」:世界が認めた次世代光通信の本命、量子ドットレーザ (2/3)

[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

量子的エネルギーに温度無依存性、高速化などのメリット

 電子エネルギーは、状態密度(電子がどれだけ入るか)の量によって熱的エネルギーとして蓄積されていくが、半導体のサイズをどんどん小さくし、量子細線、量子ドットのレベルまでいくと、電子のエネルギーがデジタル的に(先の図中では、E1、E2、E3などのどれか)狭められてしまう。熱エネルギーとして広がりを得ていたものが、行き場を失ってしまうわけだ。実は、これが量子ドットの最大の特長といえる。この効果のおかげで、レーザの温度無依存性、低消費電力、高速化、長距離化などのメリットが実現した。

 温度無依存性とは、環境温度に依存せずレーザ発振が可能になり、それまで不可能とされてきた広い環境温度中での利用が実現したことをいう。量子井戸の状態の半導体レーザでは、温度が上昇する電子の熱的エネルギー拡散によって電子の密度が下がり、レーザ出力が下降する弊害が生じていた。量子ドット場合、室温が上昇しても電子の熱的エネルギーはどこにも広がりようがなく、結果として性質的に安定するわけだ。

図2 量子ドットレーザの特徴

 従来の量子井戸を利用した半導体レーザでは、ペルチェ素子などを使った温度を一定に保つ装置や、駆動電流を状況に応じて変化させる装置を付けることでレーザ出力を安定させていたが、量子ドットレーザならそのような温度コントロール装置や駆動電流制御装置は必要ない。低コスト化や小型化に大きく寄与する理由がここにある。

 また、電子のエネルギーとは波長に相当するものであるが、ある波長でレーザ発振する場合、量子ドットではその波長に電子が多く集中するので、少量の電力で効率良くレーザ発振ができるようになる。従来の半導体レーザと比べ、消費電力が大幅に下がるのだ。さらに、1カ所に電子が集まった状態の量子ドットでは、電子を入れるスピードは物理的に限られている中で、常にある波長に電子が入る確率が高まることになり、それがレーザ発振の高速化につながっている。

 加えて、光ファイバの中を通常のレーザで伝送した場合、光信号の中にさまざまな波長成分が存在し(チャープ)、長波部分と短波部分によって到達時間が異なるため、信号波形が崩れてしまうことが課題とされてきた。量子ドットを用いた伝送の場合、高速変調においても波長変化が少ないため、信号の全成分が同時に到達し、波形のひずみが小さくなることで長距離伝送が可能となる。

量産効果の高い生産技術を流用可能

 量子ドットレーザの実用化のメリットはこれだけではない。先ほど量子ドットレーザの温度無依存性を述べたが、実際にバイアス・変調をかけた動的な状態で、チップキャリア温度を20℃から90℃に変化させても、消光比(Extinction Ratio、信号1と信号0を伝送するのに必要なパワー比)がほぼ一定の状態を示している。実験では、−10℃〜+90℃程度までの温度範囲で安定した出力特性を維持するという。

図3 低バイアス・変調電流における温度無依存動作

 QDレーザのデバイス事業部長で工学博士の秋山知之氏は、富士通研究所のナノテクノロジー研究センターで量子ドット技術を研究してきた人物。同氏は、温度無依存性におけるメリットを次のように付け加える。

画像 QDレーザ デバイス事業部長 工学博士(富士通研究所ナノテクノロジー研究センター)の秋山知之氏

 「温度帯域が広いということは、設置環境に依存せずかつ温度管理も必要ないので、モジュール設計が容易になり、量産時の製造コストが安く抑えられる。また、バイアス電流や変調電流の調整も不要なので、出力を一定に保つ電子回路も省略でき、伝送装置の小型化や高密度モジュールへの実装も可能になる」

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