世界が認めた次世代光通信の本命、量子ドットレーザ次世代ITを支える日本の「研究室」(1/3 ページ)

「量子ドットレーザ」という聞き慣れない技術が、これからの光通信を大きく変えていくインパクトを持つという。従来の半導体レーザを凌駕するほどの特性を持つ画期的なレーザとして、世界からも注目が集まっている。

» 2006年12月26日 08時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

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 量子ドット――それは、富士通研究所と東京大学先端科学技術センター荒川泰彦教授グループの研究室が、産学連携で協同開発したナノメートル(10億分の1メートル)サイズの微小な半導体のことである。この半導体微粒子を用いた量子ドットレーザは、従来の半導体レーザを凌駕する特性を持つとして注目されている。

 富士通研究所は、光ファイバの高速・大容量伝送に向けて、この量子ドットの特性を生かした半導体レーザを研究してきた。そして、2006年4月20日に、出資比率を富士通61%、三井物産39%で光デバイスベンチャーの「QDレーザ」を設立。富士通は、量子ドット半導体結晶製造技術とレーザ設計・評価、プロセス技術、および関連人材とをカーブアウトして、世界で初めて量子ドットレーザを光源にした中・長距離の光通信技術を実用化しようとしている。

量子ドットは「0次元」

 量子ドットレーザは、半導体レーザの一種といえる。半導体レーザの原理は、半導体に電流を流すと電子が半導体の内部で再結合するプロセスを介して、光子を放出する現象を利用したもの。従来の半導体レーザでは、素材となる材料を縦方向にサイズを小さくした(薄くした)2次元材料を用いている。これが「量子井戸(quantum well)レーザ」と呼ばれるものだ。

図1 量子ドットとは?(エネルギーの量子化とその効果)

 半導体の結晶成長に分子線の物理吸着を利用するMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー法)や、有機金属やガスを用いたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)などの方法を用いて生成した、ナノメートルオーダーの薄膜を作成すると、電子は縦方向にその波長程度の大きさに閉じ込められ、2次元(平面)的にしか移動できなくなる。つまり、このような構造や状態が量子井戸である。現在のブルーレイディスクやHD-DVDなどに使われる短波長青色レーザには、活性層の厚さが10ナノメートル程度の量子井戸構造の半導体レーザが使われている。

 さらに、今度は横方向に縮めていくと、2次元だった平面が1次元状態(線状)に閉じ込められる。これが「量子細線(quantum wire)」と呼ばれるもので、電子は1方向にしか移動できなくなる。さらに、量子細線の長さ方向を縮めていき、電子の波長程度の大きさにしてしまうと、電子は縦/横/高さのどちらの方向にも動けなくなり、完全に閉じ込められた「0次元」の世界になってしまう。このように3方向から行き場をなくした状態が量子ドット(QD:quantum dot、量子箱とも呼ばれる)となる。この状態になると、電子はデジタル的な(量子的な)エネルギーしか持ち得なくなる。

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