「J-SOX時代のデジタル・フォレンジック」とは(4/6 ページ)

» 2007年01月17日 09時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

米国の訴訟における「eDiscovery」制度

 米国でのデジタル・フォレンジック事情を語る際、大きなポイントとなるのが「eDiscovery」制度だ。日本語では「電子情報開示」と訳されるが、日本には存在しない制度ゆえ、米国で訴えられた日本企業が対応に苦慮する場面も少なくないと言われている。

 レイサムアンドワトキンス外国法共同事業法律事務所の弁護士、吉田大助氏は、そのeDiscovery制度について講演を行った。

 「米国の民事訴訟では、Discovery制度といって、相手方から要求された書類を開示する義務がある。その費用などは基本的に開示する側の負担となる。この制度は、日本の企業が米国で訴えられた際、昔から問題になっていました。また、米国の訴訟にコストがかかる原因の1つでもある。近年では電子データでの開示、すなわちeDiscoveryを求められるケースが増えており、今となっては紙の資料が開示されることは稀になった。中でも圧倒的に多いのが電子メール。『Smoking Gun』(決定的な証拠)はメールの中にある、というのが米国の常識となっている」と吉田氏は言う。

 開示を要求されるデータは多岐に渡る。

 例えば、メールなら本文や件名などにとどまらず、他のヘッダー情報も開示するよう求められるケースがある。ドキュメント類では最終版だけでなく過去のドラフト版なども要求されることがある。個人所有のPCであろうと、業務に使っていたりすれば証拠として提出させられるという。

 「企業不祥事に関する裁判の際など、不祥事そのものよりも立証しやすいので、eDiscoveryでの証拠隠蔽が追及されやすいという実状がある。証拠隠滅が認められればさまざまな制裁の対象となり、『adverse inference』(不利な推定)として陪審員の厳しい判断を受けることもあるし、訴訟そのものがそこで終わってしまうケースもある」(吉田氏)

吉田大助氏 レイサムアンドワトキンス外国法共同事業法律事務所の弁護士、吉田大助氏

 「eDiscoveryの不備により、法律論に入る前に不利な評決を受けて多額の賠償金を払う結果となった企業もある。2005年、ColemanがMorgan Stanleyを訴えた件では、過去の電子メールを開示する際の不手際が問題となった」と吉田氏は紹介した。

 メールは過去のバックアップテープからリストアして該当する部分だけ取り出し、弁護士がチェックした上で適切な媒体に記録して提出しなければならない。

 当時のMorgan Stanley側には総数1700本とも言われる膨大な数のバックアップテープがあり、全部をチェックしないまま部分的なデータを提出して『これで全てだ』と裁判所に回答してしまった。しかし、まだテープがあることが発覚して再び提出を求められ、今度は全テープからのデータを提出したものの、さらに別の場所にもテープが残っていたことが後から判明した。こうしたやり取りが何度か繰り返された結果、裁判官は「意図的な証拠隠し」と判断、懲罰的な賠償を払うことになったという。

 「eDiscoveryに関しては過去に様々な判断が示されてきたが、2006年12月1日からの連邦民事訴訟手続規制(FRCP)改正では、『訴訟ホールド』などの考え方が盛り込まれている。訴訟ホールドとは、法的紛争が予想されるようになったら、通常のサイクルでのデータ破棄も止めて、あらゆる関連データを保管すべきだという考えだ。これを実現するためには、システム面での対応も必要だし、情報収集計画を立てて実施せねばならないだろう。IT担当と法務担当の間で意思疎通を図り、相互に理解を深める必要がある」と吉田氏。

 「特にIT担当者に関しては、必要以上のことをしないという原則を守ってもらわねばならなくなる。例えば、『何かあったときのために』と個人的にデータを保護しているような人もいると思いますが、それはむしろ危険を増やすことになるだろうから」(同氏)

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