Microsoftの「Expression」を支える男、元ILMのフォレスト・キー氏(1/2 ページ)

Microsoftの新しいデザインツールの製品管理ディレクターを務める元ILMのキー氏は、「将来的に、エンタープライズ開発システムでもデザイナーが重要な役割を果たすようになる」とみている。

» 2007年01月22日 17時04分 公開
[Darryl K. Taft,eWEEK]
eWEEK

 巨大ソフトウェアメーカーMicrosoftは、同社にとって未知の領域に足を踏み入れようとしている。プロフェッショナルデザインツールの分野である。そこで先導役を果たしているのがフォレスト・キー氏である。長年にわたって開発ツールの分野をリードしてきたMicrosoftは、デザイナー向けのツールを引っさげて新たな進撃を開始し、先月には「Expression」スイートを発表した。

 Microsoftのデザインツールの製品管理ディレクターを務めるキー氏は、同社にとって異色のタイプの人材だと言える。同氏はデザイナーの世界に身を置く中で、クリエーターであると同時に技術のユーザーとして活躍してきた。キー氏は以前、MacromediaでFlashプラットフォームの開発に携わっていた。Macromediaはその後、Adobe Systemsに買収された。Adobeは、新分野への進出を目指すMicrosoftにとって最大の競争相手の1社である。

 Microsoftが新たな分野への進出を図ろうとする際、その戦略に対する信用を高め、有望な最初の製品を迅速に開発するために、優秀な人材を探し求めて確保するというのが同社の手法であることはよく知られている。エンタープライズOS分野でもこの方針に基づき、Digital Equipmentからデイブ・カトラー氏を迎え入れ、IBMからも何人かの専門家を引き抜いた。検索分野とWebサービス分野への進出に際しては、戦略の要となる人材を手に入れた。そして今度は、デザインツールの分野でも再び同じ方針で臨んでおり、フォレスト・キー氏のような人材を確保したのだ。

 キー氏は芸術家肌の人間で、優れた新ツールを通じてデザイナーと開発者を支援するとともに、これらのツールを使って作成された製品やコンテンツを見たいという意欲に燃えているようだ。

 ワシントン州レドモンドにあるMicrosoftのキャンパスで米eWEEKの取材に応じたキー氏は、「ツールを開発するのは、ほかの人々が能力を引き出すのに貢献するのが目的だ。『われわれがそれを可能にした』と言えるようになりたいのだ」と語った。

 キー氏は、ビジネスのクリエイティブな側面に造詣が深い。同氏はMacromediaに入る前、ハリウッドの映画業界で働いていた。同氏が勤務していたのは、特撮映画の巨匠、ジョージ・ルーカスが設立したLucasfilmの傘下のIndustrial Light & Magic(ILM)という会社だ。Internet Movie Databaseにもキー氏の名前が独立した項目として登録されており、「スター・ウォーズ」や「Big Love」などの映画の製作に携わった経歴が紹介されている。

 同氏が開発に協力したソフトウェアとプロセスは、「ミッション・インポッシブル」「ロード・オブ・ザ・リング」「マトリックス」などの映画や本田技研工業のTVコマーシャルの製作で採用された。

 キー氏によると、ILMでは毎週70時間にもわたり、広範なハードウェアとソフトウェアを使って映画のシーンのレンダリングを行ったという。「しかし、もっと少ない時間とコストで同じ素材を作成できるツールを作ることができると思った」と同氏は語る。

 「当時、Discreet Logic(現Autodesk)が提供しているFlameという製品があり、価格は50万ドルだった。われわれが使っていたシステム全体のコストは100万ドルだった。そのころはデスクトップがまだ非力だったため、すべての作業をSGI(Silicon Graphics)のマシン上で行わなければならなかったからだ」とキー氏は振り返る。

 このためキー氏はILMの2人の同僚とともに同社を去り、Puffin Designsという会社を立ち上げた。Puffinでは、ビデオ、映画、デジタルコンテンツのプロの製作者向けのビジュアルエフェクトアプリケーション「Commotion」を開発した。Puffinはその後、CommotionをPinnacle Systemsに売却した。Pinnacleは後にAvid Technologyに買収され、現在も同社の1部門となっている。キー氏は、大学在学中にAvidで働いた経験があるという。

 「Commotionのバージョン1では、ロトスコープの処理をめぐる問題を解決した。この処理には、100万ドルもするようなマシンが必要でないことが分かったのだ。われわれは、それをデスクトップPCでもできるようにした」とキー氏は話す。

 ロトスコープというのはアニメーション作成技法の1つで、アニメーターが実写フィルムでの動きを1フレームずつトレースするというもの。

 キー氏は自身の過去の経験を大切にする一方で、将来にも目を向けており、グラフィック、デザイン、マルチメディア技術をめぐるMicrosoftおよび業界の将来像を見据えた10年計画を温めているという。

 「5年ないし10年後には、(映画の)『マイノリティ・リポート』のように、物理的な事物にもインタラクティブ機能が組み込まれるようになるだろう」と同氏は話す。

 キー氏は会話の中でしばしば映画に言及する。

 「『未来世紀ブラジル』という映画では、とても暗くて幻想的な未来とコンピューティングの世界が描かれていた。しかしSFに関しては、そしてコンピュータとユーザーインタフェースの将来に関しては、わたしは永遠の楽観主義者だ」とキー氏は言う。

 「将来は、音声やジェスチャーで指示するユーザーインタフェースの時代になるだろう。そしてMicrosoftはそれを実現することができる。ほかの企業が半年後や1年後といったスパンでしか考えていないのに対し、われわれは長期的な視点で考えているからだ」(同氏)

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