ベンダーを操り操られ、システム管理者の「駆け引き」女性システム管理者の憂鬱(1/4 ページ)

システム管理の仕事にもさまざまな駆け引きのドラマがある。納期の調整や価格交渉だけでなく、中にはベンダーを動かす「裏の手」もある。駆け引きはやっぱり面白いものだ。

» 2007年02月23日 08時00分 公開
[高橋美樹,ITmedia]

 システム管理者として配属先が決まったときに、最初にマネジャーから言われたのは、まずユーザーにかわいがられる存在になれということだった。システム運用を委託される企業としては、プライドの高い技術屋ではなく、ユーザー受けの良い親しみやすいサポーターを求めているとも言われた。実際に、ユーザーからの簡単な質問に対してバカにした態度で応じるツンとした管理者は、ブラックリストに加えられ、次の契約時には交代させられることもあった。

 入社当時のわたしはと言えば、威張れるほどのすごい技術があるわけでもなかったため、言われたとおりの誠実な対応と愛想でなんとか客先の信頼を獲得しよう、とユーザーには極力負担をかけないシステム運用を工夫し、些細な問い合わせにも席まで出向いて対応するなど、無我夢中で頑張った。

 次第に現場に溶け込んでいくと、今度は対外的な仕事も任されるようになる。「これだけの費用でこういうニーズを満たすシステムを組みたい」「今度こういう設備を導入するが、予算オーバーなので最小限の機能に絞ってメーカーと価格交渉してほしい」。そんなお金にからんだ仕事も舞い込むようになってきた。そうなると、さらに期待に応えたいと思い、取引先との駆け引きにも頭を使うようになる。愛想だけの勝負とも言っていられなくなるわけだ。

 拠点での対外折衝は、PCの納期の調整や価格交渉がほとんどで「これだけ買うのだからそれくらいは融通利かせてよ」などという、世の多くの人が経験しているレベルの駆け引きが主だった。相手も元々対応できる余裕を持ちながら、できるだけ自分達が有利な条件で折り合いをつける。当時は「ビジネスってこんな感じで持ちつ持たれつ、丸く収まっているんだな」と社会のことが分かったような気になったものだ。

 しかし、今思えばそんな駆け引きはたわいもないものであった。拠点管理の仕事から離れて数年後、グループ全体のセキュリティ対策部門へと配属になったときには、自分が悪者になるのを覚悟の上で、自社の利益のために戦わなければならない多くのシチュエーションに遭遇することになった。

ウイルス対策ソフトメーカーとの駆け引き

 グループ全社員が使用する社内LANのセキュリティ担当には、さまざまな依頼が舞い込んだ。各部署がそれぞれにLAN上に構築したシステムの脆弱性のチェック、ウイルス発生時の対策ソフトメーカーとの折衝、OSや各アプリケーションのパッチ検証、ユーザーの意識改革、既存の担当からはみ出した、ありとあらゆる課題が一挙に押し付けられたような部署だった。そんな中で、ウイルス対策ソフトの運用に関わった経験を買われたわたしは、ソフトメーカーとの折衝窓口という役回りを請け負った。

 実際にウイルスが発生すると、まずは定義ファイルの対応状況を調べる。対応済みであれば、社内での配信状況を確認し、ウイルスについての情報を各関係部署に流し注意を促す。問題となるのは、メーカーの対応が完了していない最新ウイルスの侵入が確認されたときだ。わたしが管理していた会社は、世界中に支社を持ち、ビジネスの性格上、一般顧客からのメールも社内LANに受け入れる必要があった。そのため、まだ名前も付いていないような最新ウイルスが社内に紛れ込むこともあった。

 そんなときには、検体をメーカーに提出し調査を依頼する。ウイルスと判明した場合には、対応の定義ファイルが出るまでの対策や、駆除ツールの情報を入手するのがわたしの役目だ。不運にも、わたしがその担当に着いたタイミングが、世界中で新種ウイルスやその亜種が大発生した時期と重なり、朝になると出社時刻のはるか前に「新種発生、早急に出社するように」といった憂鬱な伝言が携帯に入っていることも少なくなかった。

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