MSのDRM技術「PlayReady」は携帯電話に照準、だがユーザーへの恩恵は?

Microsoftの新しいデジタル著作権管理(DRM)技術「PlayReady」は携帯電話での利用を見据えて、従来のWindows Media DRM技術よりも高い柔軟性を提供するとされている。だが、エンドユーザーが実際にどの程度の柔軟性を享受できるかは、技術よりも、ビジネスの交渉によって決まることになりそうだ。

» 2007年04月04日 11時30分 公開
[Matt Rosoff,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 Microsoftの新しいデジタル著作権管理(DRM)技術「PlayReady」は携帯電話業界に照準を定めたもので、ゲームなどの実行ファイルも含め、複数のファイルタイプをサポートするほか、デバイス間のコンテンツの転送、ほかのDRMシステムとの相互運用性をサポートする。ただし、ほかのDRMシステムと同様、実際の使用権はさまざまなビジネス関係者間の交渉で決まるため、柔軟性が改善されるというのは、差し当たり、理論上の話にすぎない。また、特にWindows MobileやZuneなど、MicrosoftのそのほかのプラットフォームのDRMとPlayReadyの関係については、まだ明らかにされていない。

モバイルエンターテインメントの波に乗る

 エンターテインメントは携帯電話業界にとって、新たな収入源として、その重要性をますます高めつつある。着信メロディの人気は爆発的に広がっており、Jupiter Researchによると、2006年には着メロの売上高は世界で66億ドルに達している。またGartnerによると、携帯電話を使った楽曲ダウンロード(着メロと一曲丸ごとのダウンロードも含める)の売上高は2010年までに世界で320億ドルに拡大する見通しという。

 Microsoftが期待しているのは、今後、携帯電話向けコンテンツの成長により、同社には携帯電話事業者や携帯電話機メーカー、コンテンツオーナーに実現技術を販売するチャンスがもたらされ、そのライセンス収入を見込めるだけでなく、コンテンツ配信用のバックエンドインフラの販売にもつながるという流れだ。Appleがリリースを予定しているiPhoneは、こうした見通しにとっては脅威となる存在だ。iPodが携帯型メディアプレーヤー市場を独占したのと同じように、iPhoneが音楽機能付き携帯電話市場を支配することになれば、Microsoftの携帯電話用プラットフォームであるWindows Mobileはビジネスユーザー向けの技術として脇に追いやられることになりかねないからだ。

 Microsoftはこれまで携帯電話業界に、Windows Media DRMも含め、各種のWindows Media技術のライセンスを供与してきた。例えば、VerizonはVCastサービスにWindows Mediaを使用しており、VCastサービスでは、携帯電話でコンテンツをダウンロードしたり、Windows PCからコンテンツを転送したりできるようになっている。また、Nokiaの一部の携帯電話機はWindows Mediaの再生をサポートしている。だが、Microsoftで携帯電話業界向けのDRM技術を担当しているジェネラルマネジャーのチャド・ノールトン氏によると、携帯電話事業者の間では、Windows Media DRMで提供されるよりももっと高い柔軟性を求める声が高まっていたという。

 PlayReadyは2007年の3GSMカンファレンスで発表された。Windows Media DRMと比べて、PlayReadyには以下のメリットが備わっている。

コンテンツにとらわれない Windows Media DRMが保護できるのはWindows Mediaフォーマットのファイルのみだ。PlayReadyは、AppleのiTunesソフトウェアやしばしば着メロに使われているAdvanced Audio Coding(AAC)オーディオのほか、H.264(MPEG-4)ビデオなど、あらゆる種類のデジタルコンテンツをサポートする。また、ゲームやアプレットなど、実行ファイルもサポートする。

コンテンツはデバイスに縛られない Windows Media DRMでは、著作権付きコンテンツの暗号化に使われるカギは、そのコンテンツが最初にダウンロードされたデバイスのハードウェア仕様に左右される。そのため、コンテンツをほかのデバイスに転送するのは技術的に複雑な作業となる。一方、PlayReadyでは、ユーザーに関連する複数のデバイスをグループ化した「ユーザードメイン」という考え方が採用される。ドメインには、例えば、家族が所有しているすべての携帯電話や、あるいは単身世帯で使用しているすべてのデバイスといった形でデバイスが登録される。1人のユーザーが複数のドメインを使い分ける場合もある。例えば、ユーザーは自分の携帯電話にダウンロードしたコンテンツを、それぞれ異なる使用権で、ホームドメインに含まれるデバイスとも、仕事場ドメインに含まれるデバイスとも共有できる。つまり、理論上、ユーザーはコンテンツをデバイス間でより簡単に転送できるようになるはずだ。ただし、ドメインを定義したり、使用権を定義したりといった難しい処理は、コンテンツオーナー、携帯電話事業者、およびそのほかのビジネス関係者に委ねられることになる。

相互運用性が考慮されている あるDRMシステムで保護されているコンテンツは、別のDRMシステムをサポートするソフトウェアやデバイスでは認識できないことが多い。PlayReadyでは、コンテンツオーナーとディストリビューターはコンテンツにタグを付け、「以下のDRMシステムを信頼せよ」というメッセージを伝えられるようになっている。PlayReadyで保護されたコンテンツを、別のDRMシステムで保護されたデバイスに転送する場合、PlayReadyは「1つのデバイスでのみ再生可」や「転送3日後、または3回再生された後は再生不可」といった使用権を、転送先のDRMシステムが理解できるフォーマットに変換できる。ただし、ドメインや使用権の定義と同様、信頼できるDRMシステムを定義したり、そうしたDRMシステムに関する必要情報(各DRMシステムが使用権をどのように定義しているかなど)を共有したりといった難しい処理は、ビジネス関係者に委ねられることになる。

理想と現実

 柔軟性が強化されるとは言われているものの、PlayReadyの実際の有用性は、コンテンツコーナー、携帯電話事業者、モバイルソフトウェアの独立系ベンダー、携帯電話機メーカーなど、複数のビジネス関係者間の交渉に左右されることになる。だが、こうしたビジネス関係者が優先したい事項はそれぞれ異なる。実際、今までDRMの相互運用性が進まずにきたのは、技術的な複雑さが問題となってきたからではなく、ビジネス上の問題からだ。例えば、AppleはDRMを使って、iTunes Music StoreからダウンロードしたコンテンツについてはAppleのiPod(まもなくiPhoneも加わる)以外の携帯デバイスでは再生できないようにしており、同社独自のDRMシステムであるFairPlay DRMのライセンス供与も行っていない。

 MicrosoftはWindows Mediaプラットフォームでは何年もの間、複数のベンダーをサポートしていたが、現在、Zune製品ファミリーでは、Appleのアプローチに倣っている。ZuneはWindows Mediaプラットフォームをベースとしているが、Zuneデバイスでは、Windows Media DRMの初期のフォームで保護されているダウンロードは再生できない。また、ZuneやWindows MobileなどのMicrosoftの製品グループが、それぞれ自分たちのビジネスニーズに合わせて制限付きでPlayReadyを実装する可能性もあり、そうなれば、より高い柔軟性を提供するという約束は果たされないことになるだろう。

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