CIOを目指すなら――業務の本質をどう見抜くかITコーディネータに学ぶ(1/2 ページ)

ITコーディネータ(ITC)の取り組みはIT部門の担当者にとって示唆に富むものを多く含んでいる。それはITCが単なる外部コンサルタントではなく、顧客の業務に深く切り込む働きをしているからだ。

» 2007年04月06日 07時00分 公開
[大西高弘,アイティセレクト編集部]

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会社の中身に合う器を

 経営者の悩みに耳を傾け、将来を見据えた経営目標作りに協力し、業務改革の実行計画を作成、こうした目標、計画に合わせたIT導入プランを練り、導入、稼働、効果測定まで面倒を見る。ITコーディネータ(以下ITC)の活動は外部コンサルタントというよりも、その会社のCIOに近い。参照記事

 もちろんITCはただ耳を傾けるだけではない。顧客企業の属する業界、業務内容、各部門の仕事の流れなど細かく調べ上げる。また、過去の経験から他社の例をピックアップし、経営課題をクリアする具体的な方法論を提示することもある。この方法論はIT導入のみならず、マネジメントの手法や現場の作業改善にまで及ぶ。

 あるITCがこんな話をしてくれた。

 「同じコーヒーでも、エスプレッソをマグカップで飲む人はいない。飲めないことはないけれど、進んで使う人はいない。ITもこれと同じ。使えないことはないけれど、仕事に合わないシステムは自然に誰も使わなくなる。仕事に合ったシステムを作り出すには、まず飲むもの、つまり仕事や事業そのものがエスプレッソなのか、アメリカンコーヒーなのか、カフェオレなのかを見極める必要がある。そして会社の中身に合った器(システム)をえらばなければならない」

 ITCの齋藤順一氏も次のように話す。

 「ひと口に製造業といっても、規模の大小以外に違いがたくさんあります。製品の部品を作っている会社なのか、それらの部品を外から集めて組み立てる会社なのか。どれぐらいの部品を集めるのか、作るのか、求められる精度はどれぐらいなのか。それぞれに管理したい情報も違う。製造業だからというだけで、十把ひとからげに『製造業向け生産管理パッケージ』を持ってきてもうまくいかないのです」

 齋藤氏は大手電機メーカーのエネルギー関連会社に長く在籍した元ベテランエンジニア。ITC横浜の副理事長を務める。齋藤氏の話からも分かる通り、経営を知らなければその会社に合ったITを導入し、経営を可視化したりスピードを早めたりすることは不可能である。そういう意味で、経営のあらゆる問題を正確に把握することを目指すITCは経営者の強い味方になるはずだ。

ある中小企業の試み

 ここで齋藤氏が関わったある事例を紹介しよう。

 神奈川県川崎市の仙崎鐵工所は、1934年創業で従業員数は20名。業種としては製缶業の分類に入る。型を取った鋼や鋼板を溶接して筐体を作ることを製缶という。高い精度が要求され、計測機器から原子力関係部品、通信衛星機器などを製造している。同社は川崎市から毎年数名しか選出されない「かわさきマイスター」を輩出するなど技術力には定評のある企業だ。

 通常このような規模だと現場のベテラン社員が業務を動かす。しかし、社員が高齢化してくると従来の管理の方法では立ち行かないケースが多い。同社でも、誰でも調べれば仕掛かり仕事の現状が把握できる仕組みづくりが急務になってきた。

 同社のIT化は80年代に行ったオフコン導入が最初である。生産現場の状況を可視化したいという願望はこのころから持っていたが、当時のシステムではそれは期待できるものではなかった。その後、得意先からWeb-EDIシステムの導入の要請を受けてそれを機会にシステムを変え、承認作業の電子化、原価管理、仕掛かり情報の共有化のできるシステムを作ろうとしたがうまくいかなかった。

 代表取締役社長の沼りえ氏は次のように語る。

 「ベンダーの担当者の言っていることの半分も分からない。こちらがいくら仕事の内容を説明しても、ITの専門用語で答えてくる」。その後、川崎市産業振興財団でIT活用型経営革新モデル事業のことを知り、ITCの齋藤氏を紹介された。齋藤氏は「以前のシステムは、仙崎鐵工所のような協力会社と何度も製品のやり取りをしながら完成品を作っていく会社には向いていなかった。複数のメンバーでチームを組み要件定義書を作っていきました」と語る。同社のモデルは見事2005年のIT活用型経営革新モデル事業に採択された。

仙崎鐵工所 沼りえ社長(右)とITC横浜の齋藤順一氏
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