CIOを目指すなら――業務の本質をどう見抜くかITコーディネータに学ぶ(2/2 ページ)

» 2007年04月06日 07時00分 公開
[大西高弘,アイティセレクト編集部]
前のページへ 1|2       

ウチはどんな会社なのか

 沼社長が求めていたのは、「仕事の進捗がどんな状況にあるのか現場に行って聞かないとわからない現状を何とかしたい」ということに尽きる。しかし、その悩みを解決してくれるITベンダーに出会えなかった。「こちらの仕事内容やどう変りたいかという要望を本当に理解しているのかが分からない」という気持ちも十分に理解できる。同業者に相談をもちかけても、お勧めのベンダーを紹介してくれる会社はなかった。「とてもお勧めできない」という返事が大半だったのだ。どの会社もシステムを作ろうとして挫折していた。自社の器に合ったシステムを構築できないでいたのだ。

 齋藤氏はまず、仙崎鐵工所の業務内容から「この会社は一種のファブレス企業だ」と見抜く。純粋なファブレス企業は生産設備を持たないので、仙崎鐵工所とは違うが、同社は協力会社と各工程でかなり緊密に仕事のやり取りをする。情報のやり取りだけでなく、仕掛かりの部品やパーツを完成までに何度もやり取りして製品を作っていく。一度納品された部品やパーツは完成まで同社の外に出ないということはなく、何度も行き来しながらパーツを完成させ、組み立てて製品化するわけだ。

 こうした企業に単純な組み立て加工会社用の生産管理パッケージを入れても業務の見える化は不可能だ。

 ITCはベンダーの対応の悪さを嘆く経営者の話を聞きながら、どうしてシステムがうまくはまらないのかを見抜いたのだ。

ベストメンバーをコーディネートする

 齋藤氏はその後多くの協力者に参加してもらい、沼社長がリーダーである改善プロジェクトチームで、経営目標を策定し、IT導入の具体案を模索して、要件定義書作りまでこぎつけた。リーダーの沼社長はその定義書を見て「要件定義書というのは、ちゃんと日本語で素人にも意味が分かるように作られたものだと、初めて知った」という。齋藤氏は解決の糸口はつかんだが、実現のためには最適なメンバーを集め、プロジェクトをスムーズに進行させた。分かりやすい言葉でチームメンバーが共有できる結論を導きだすことができたわけだ。

 こうした齋藤氏の仕事ぶりは、彼が社外から招聘されたということ以外は、一般の企業のIT部門のスタッフがすることと同じではないか。前出の沼社長をある部門のトップとして考えてみるといい。「何とかならないか」と相談を受けたとき、ITCと同じように専門用語を使わずに、解決すべき課題を見抜き、ソリューションを分かりやすく説明することが最初の一歩だ。その一歩を踏み出すまでには、現場の仕事を見て、聞いて、調べる作業がある。

 自社の業務に合わないパッケージを導入するケースは大手企業でも起こる。自分の会社の業務が分からない人間などいるはずがない、とタカをくくってとんでもないことになる事例は山ほどある。

 業務も解決したいことも分かっているのに、いざシステム構築に作業が落とされた途端に「五里霧中」となってしまうのは、会社の業務の本質を見抜くIT担当者の不在が原因ということが多い。そのことの1つの証左として仙崎鐵工所の取り組みをとらえるべきだろう。

 ITCの取り組みは中小企業のケースが多いが、あらゆる企業のIT担当者にとって示唆に富むものを含んでいる。

前のページへ 1|2       

Copyright© 2011 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ