「内部統制は経営者の能力が問われる」八田教授セッションRSA Conference Japan 2007 REPORT(2/2 ページ)

» 2007年04月28日 15時37分 公開
[岡田靖,ITmedia]
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「実施基準はミニマムスタンダード」

 八田氏は、日本の内部統制実施基準を「ミニマムスタンダード」と表現した。あまりに厳しい基準となったため企業経営にも悪影響を及ぼすとさえ言われている米国の状況を勘案し、十分に実施可能な内容とすることを目指したという。経営者をはじめとするさまざまな立場の実務経験者が集められた内部統制部会は、全体としては中立の立場で、具体的な実施基準を詰めてきた。

 「分量も、たかだかA4で100ページそこそこ。だからこそ、きちんと読んでいただきたい。そして、読めばきっと『これならウチでもできる』と思ってもらえるような、軽装備な内容となっている」

 金融商品取引法の目的は米SOX法と基本的に同じだが、その内部統制実施基準については、日本的な企業の実態を十分に考慮して作成されている。「お国柄」を反映したと八田氏は言う。

特徴1
特徴2 日本の内部統制実施基準の特徴

 「日本企業の事情を踏まえ、経営者による経営者のための、メリハリをつけた内部統制プロセスを作った。例えば、全事業所を評価対象とするのでなく、『概ね3分の2程度』としたのは、不実会計、すなわち粉飾を行いそうな事業所はそれなりに大きな拠点だろうという割り切りの結果です」

 小規模な事業所では粉飾を行うメリットが薄く、もし行われたとしても企業全体への影響は大きくない。一方で、小規模事業所に対し厳格な内部統制の適用を行うとすれば、その事業の圧迫というデメリットが大きい。このようにターゲットを絞ることで、より効果的に、かつ無理のない内部統制の運用が可能になるというわけだ。ちなみに、3分の2程度という数字は、部会の実務経験者の合意で落ち着いた数字だという。

 「また、ダイレクトレポーティングを採用しなかったのは、日本的な監査役がダイレクトレポーティングそのものであろうと考えた結果。一部では、『ダイレクトレポーティングがないから実効性に欠ける』などとする意見もあるようだが、日本企業にとっては実効性を損なうものではない」

「継続的な、身の丈に合った内部統制を」

 「昔から、内部統制は法にそぐわないものだと考えていた。『企業の品質』と呼ばれるものは、内部統制そのものである。そう気付いたとき、さらに納得した」と語る八田氏。実施基準には、その八田氏自身の考えも色濃く反映されている。

 「当局に対し、どうしても入れて欲しいと粘った文言がいくつかある。例えば前文の『事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している企業等の場合に、職務分掌に代わる代替的な統制や企業外部の専門家の利用等の可能性を含め、その特性等に応じた工夫が行われるべきことは言うまでもない』など。これは、『業種業態、規模によって内部統制のあり方は違ってくるはず』という信念を通したもの」

 上場企業の中にも、従業員20名そこそこで、いわゆる文鎮型の組織体制というケースもある。その場合、全体に社長の目が行き届くはずであり、改めて何らかの仕組みを構築する必要もないはずだ。

 「内部統制は企業価値向上のためにある。自社の身の丈に合った、継続的な内部統制を、そして攻めの内部統制を考えて実施していただきたい」

 実施基準は、英訳版も公開されている。金融庁の資料としては珍しい措置だが、これも八田氏の粘りで実現したという。また、八田氏は、英語メディアへの積極的な情報発信も行っている。

 「今もって残念なのは、日本の会計基準が世界水準より劣っているとされていること。だが、実際にはそうでもない。日本人はプレゼンテーションが下手で、日本特有の事情があっての基準であっても、それを明快に示すことができないのでしょう。日本のメディアの論調も、日本の基準が海外の基準より劣るかのような内容が多い。英文での公開に踏み切ったのは、この実施基準を『ニッポン・スタンダード』としてグローバルに示していきたいと考えたから。でないと、市場のプレイヤー、すなわち日本の経営者たちが困る」

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