1MBのファイルアクセスに10分――WANの体感速度が改善しないのはなぜ?最適化から始まる、WAN高速化への道(1/3 ページ)

WAN回線を増強したが、アプリケーションの通信が思ったほど速くならない――。それに応えるのが、WAN越しの通信を高速化する専用のソリューションだ。その登場の背景には、現状の広域通信環境が抱える問題があった。

» 2007年06月01日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

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 WAN高速化のテクノロジーやソリューションが注目を浴びている。この分野に特化した製品がクローズアップされ始めたのは、2005年末から2006年にかけてのこと。ごく最近である。もちろん、以前よりWebの閲覧を高速化するような技術はあったが、現在では電子メールをはじめ、Windowsのファイル共有、さまざままアプリケーションなど、ビジネス用途へと、高速化や最適化の対象が広がってきた。

WAN高速化ソリューションを求める企業の事情

 とはいえ、かつてのように回線速度が遅いダイヤルアップやISDNなどを利用していたときであればまだしも、今はブロードバンド技術が進展し、IP-VPN、インターネットVPN、広域イーサネットなど、高速なWANサービスが広く利用されている時代である。このような広帯域なWAN回線が普及しているにもかかわらず、「なぜWAN高速化ソリューションが注目されているの?」と不思議に思われる読者がいるかもしれない。

 それにはいくつかの理由がある。まず、企業を取り巻く環境の大きな変化が挙げられるだろう。WAN越しに利用されるアプリケーションが普及し、リモート拠点から本社にアクセスして、これらを活用するケースが増えてきている点だ。帯域制御/QoS(サービス品質)対策ソリューションを提供するパケッティアによると、企業のWAN回線では平均して200以上ものアプリーション通信が流れているという(図1)。

図1 図1●WAN回線に流れるさまざまなアプリケーションの種類。企業のWAN回線では平均して200以上のアプリケーションが利用されているという(出典:パケッティア)

 最近では、手軽で操作性に優れたWebアプリケーションはもとより、ビデオ会議やVoIP(Voice over IP)など通信品質が要求されるリアルタイムアプリケーションも導入されている。そのような状況の中で、特定の業務アプリケーションではアクセスに時間がかかり、仕事にならないという現場の声も聞かれるようになってきた。

 また従来、企業の拠点に分散した情報リソースを一元化する動きも見られる。近年、情報漏えい対策やセキュリティレベルの向上が叫ばれており、拠点ごとに保持していたサーバやストレージなどを統合して、一元的に管理しようという試みも始まっている。これにより、セキュリティ対策に加え、運用コストや管理面の負荷も軽減できるようになった。しかし同時に、新たな問題も生じた。

 リバーベットテクノロジーのWAN高速化ソリューション「Steelhead」を扱うネットマークスの岩本直幸氏(パートナーソリューション事業部SND営業部)は、「情報が本社やデータセンターなど1カ所に集中すると、複数の拠点からWANを介してアクセスするためトラフィックが集中し、システムに大きな負荷が掛かる。また、海外などの拠点では、特に回線の遅延が目立つという問題も出てきた」と話す。

 最近では、ディザスタリカバリ(DR)の観点からデータバックアップを施す企業も増えている。データバックアップを行う際には、WANを経由して遠隔地にあるデータセンターに大容量データを転送する必要がある。既存回線に新たにバックアップデータを流すと、帯域が決定的に不足してしまうことは明白だ。さらに、WANの距離や遅延、プロトコルのオーバーヘッドが影響して、十分なスループットが得られずにバックアップに要する時間がかかってしまう。

 こうした背景から、WAN回線を最適化し、利用効率を高める技術にユーザーの目が向き始めたのが最近の状況である。

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