中国でオンラインゲームがはやる理由――中国ITビジネスの行方(2/2 ページ)

» 2007年06月01日 07時00分 公開
[豊田直幸,ITmedia]
前のページへ 1|2       

グレーゾーンを突いた動き

 中国には百度(Baidu)という会社がある。中国のGoogleと呼ばれる中国最大の検索エンジンを運営するベンダーだ。

 中国の製造業は、国産ブランドでかなり苦戦をしており、携帯電話を中心に国内シェアはむしろ下がっている。しかし、インターネット関連産業だけは国内企業が海外からの参入企業を圧倒しており、検索エンジンに関しても百度はGoogle、Yahooを引き寄せない強さを誇っている。

 その強さの源泉はGoogleに見られるような検索ヒット率の良さでも、そしてAdSenseなどの広告ビジネスの洗練さでもなく、違法MP3ファイルなどのマルチメディアコンテンツファイルの検索システムの強さなのだ。

 もちろん百度の運営するサーバに違法コピーされたMP3ファイルがあれば大問題であり、同社は間違いなく訴訟対象になるはずだ。しかし、“現在までのところ”百度は訴訟対象とはなっていない。これは百度が行っているビジネス(百度MP3)が、自ら違法MP3を保存するサーバを保有しておらず、中国大陸に幅広く存在する違法MP3ファイルサーバを検索し、ユーザーが希望するMP3ファイルが格納されているサーバーのURLを提供するモデルだからである。

 確かに百度自身が違法MP3ファイルを配布しているわけではないため同社が著作権侵害ではないだろう。しかし、ユーザーから見ると百度がMP3ファイルを配布しているのと同様に見えるため、課題は多いはずだ。実際のところ、百度のページビューのかなりが違法MP3の検索からきている、と言われている。百度のビジネスモデルは、まさしく著作権問題の「グレーゾーンを活用する」というビジネスモデルであるが、日本企業が中国に進出して、このようなビジネスモデルを採用など考えられない。

何が問題なのか?

 ポテンシャルは間違いなく存在するが、著作権問題が常に脳裏をかすめる中国マーケット。ソフトウェア、コンテンツを扱う日本企業が中国マーケットに進出するときに注意すべき点を改めてここで考えてみよう。

 まず第一に製品名であろう。日本国内で有名になっているコンテンツなどは、既に中国国内で商標をとられている可能性がある。中国進出前に十分な下調べが必要である。戦いは日本国内から既に始まっているのだ。

 またソースコードや原版を出すことは絶対に止めたほうがよい。もちろん中には、「中国進出先子会社の社長を信用しているから」、という人もいるかもしれない。しかし、社長や経営陣が信用できても、社員全員まで信用できるという状況ではない。一部の社員がソースコードや原版の著作権を侵害することは十分にあり得る。

 それでは、オブジェクトコードならば大丈夫ではないだろうか? いや、オブジェクトコードでも安心ではないというのが筆者の見解だ。なにしろ、Windows Vistaの複製品がマーケットに大量に出回っているのが現状である。

 コンテンツの類がいっさいユーザー側に渡らないオンラインゲームやモバイルゲームでも、著作権保護は完全ではない、というのは前述した通りである。

将来に向けて、変化が起きつつある

 この記事では、中国における著作権問題を取り巻くビジネスの数々について眺めてきた。

 日本における著作権管理の厳しさからすれば、中国の著作権問題の現状は無法地帯に見えるだろう。「これほど著作権が守られない環境で、ソフトウェアビジネス、コンテンツビジネスで儲けることができるのか?」と考えてしまうのが普通だ。

 しかし、このような中国の著作権問題の状況を逆手にとって、有効利用している企業も実在する。例えば米国企業のディズニー。ディズニーはコピー品の氾濫のおかげで、極論を言えばマーケティング費用をかけることなく、中国国内ですさまじい知名度を獲得している。

 日本のあるゲーム会社も同じ状況を作り上げている。「三国志」は、海賊版によって中国国内での知名度が上がったと言われている。スタンドアロンのゲームをいっさい中国市場で販売していないにもかかわらず、である。

 将来、中国において1人あたりの可処分所得が増大し、著作権問題も解決されたあかつきには、上記の2社は中国マーケットで大きな利益をあげることができるかもしれない。

 上記の2例はあくまで数少ない例外かもしれない。しかし、ほかの変化も起きつつある。北京、上海、シンセンなどの中国経済を牽引する都市では、日本でいうところの中産階級が出現し始めている。中産階級の定義というのは非常に難しいが、ここではあえて「金銭で時間を買う」ことが理解できる人々と定義したい。実際に海賊版のソフトウェアやコンテンツはBitTorrentなどのPtoPネットワークを使えば自由にダウンロードを行うことができる。ただし、このような海賊版のソフトウェア、コンテンツは、まずネット上のどこに置かれているか探すことに時間を要し、ウイルス混入の危険性もある。ダウンロード自体も時間がかかるだろう。

 しかし、新たに出現した中国の中産階級の人々は、「時間をお金で買う」という概念を持ち合わせている。彼らが、ある程度の価格であれば正当な対価を払うことにより正規版を購入する、という行動をとる日々も遠くないと思うのだ。

この記事に関連するキーワード

中国 | 知的財産 | 著作権


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ