“次世代iDC”へはコンテンツと同伴でどうぞ――日本SGIの周到な戦術

意を決した企業の経営者は、その目的を達成するまで何があろうとその歩みを止めることがない。日本SGI代表取締役社長CEOの和泉法夫氏はこの10年近くを費やして「コンテンツが主役になる時代」という種を野にまいてきたが、いよいよ刈り取りの時期に入ったようだ。

» 2007年06月09日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 企業にとってもっとも大事な財産とは何だろうか? サーバなどのハードウェアやネットワークインフラがコモディティ化し、いつの間にか価格競争の波に飲み込まれてしまっていることからも分かるように、もはやこれらは大事な財産には値しない。もちろん、人道的な企業がよく口にする「我が社のもっとも大事な財産は人材です」などであるはずもない。これらは“基本的には”取り換えの可能なものであるからだ。

 しかし、企業が長年にわたって蓄積してきた情報は取り換えがきかないものだ。製品デザイン、ビジネスプラン、R&Dのデータ……、これらは企業の情報資産として企業活動の根幹を成していることが近年盛んに言われるようになってきた。これらの情報資産は基本的には価値を創出し得るもので、ERP(Enterprise Resource Planning)なども基本的には社内に眠っていた情報資産を積極的に活用しようとする流れにほかならない。

 日本SGIがたびたび口にする「コンテンツが主役になる時代」。まだまだPCやネットワーク自体に大きな価値が見いだされていた1998年に日本SGIの社長に就任した和泉法夫氏は一貫してこの主張を貫いてきた。かつての日本SGIが収益の柱としていたHPC領域などでサーバやストレージアレイを納入するどちらかといえば売りきりの“分かりやすい”ビジネスモデルをドラスチックに改革し、コンテンツ・ライフサイクル・マネジメントのソリューション「SiliconLIVE!」に代表されるコンテンツを中心に据えたビジネスを進めている日本SGIだが、同社が口にする「コンテンツ」という言葉こそ、冒頭に説明した情報資産を指していることはいうまでもない。

和泉法夫氏 日本SGI代表取締役社長CEO、和泉法夫氏。来週開催される「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」での発言が注目される

日本SGIが考える“次世代のデータセンター”

 PCやネットワークが主役であった世界から「コンテンツが主役になる時代」に向けた取り組みを続ける日本SGI。そんな同社だからこそ、インターネットサービス事業者のメディアエクスチェンジ(MEX)との業務・資本提携を発表した際には、「なぜネットワークの世界に回帰するのか」と不思議に思ったものだ。MEXと業務・資本提携を発表した後に和泉氏に対して行ったインタビューでは「データセンター、つまりiDC事業に興味があったのではない」と語った同氏だが、「箱売り/貸し事業としてのデータセンター事業に興味がない、というのが正しい」と補足する。

 そして和泉氏はこうも続ける。

 「電気の発電元が原子力発電か火力発電なのかを気にしていないように、あるサービスを提供するシステムがどこで稼働しているかなどは顧客からすればどうでもいい話。過去から集中と分散を繰り返したコンピュータの歴史、そしてブロードバンドインフラが整備されてきた昨今から考えるに、ユーティリティコンピューティングの考えはSiliconLIVE!の鍵」

 もはや企業は何でも自前で持たなければならない時代ではない。必要なリソースを必要なときに必要なだけ使う、ユーティリティコンピューティングの世界が今後ますます人気を博すのはSaaSの盛り上がりを見ても明らかだ。ユーティリティコンピューティングの世界ではサービスを提供するシステムはどこかに集中して配置されることになろうが、そこでスパコンの実績と、信頼性の高いネットワークを持つMEXとの業務・資本提携が効いてくる。こうした事象が重なり合い、すでに情報発信のためのインフラは整っているからこそ、主役はコンテンツなのだというのが和泉氏の考えだ。

 同社は“企業が放送局になる時代”というメッセージも発している。これは、企業内の情報資産を魅力的なコンテンツとして企業自らが発信していく必要性を述べたものだが、ここがユーティリティコンピューティングとSiliconLIVE!をつなぐヒントと考えられる。

 大規模なユーザーであれば自前で設備をそろえ、コンテンツを発信することもできよう。しかし、中堅・中小企業がそうするのはリソースや設備投資などでためらってしまうのも事実だ。箱売り/貸し事業としてのデータセンター事業には興味がないという和泉氏の言葉からは、企業内のあまねく情報資産を社内ではなくデータセンターに預託(アーカイブ)し、それらに例えばSiliconLIVE!のソリューションを組み合わせたものを付加価値として付けるASP的なビジネスが視野に入ってくる。必要に応じて利用する“コンテンツの銀行”的な使い方だ。

 和泉氏はこうも話している。

 「Googleのように無料でSaaS的なサービスを提供しているベンダーがいる時流だが、当然無料であればそのリスクが存在することは理解しておく必要がある。Googleの場合で言えば、自分の情報と引き替えに便利さを享受している。同様に、無料で大容量なオンラインストレージがあったとして、企業は本当に重要なデータそこに置きはしない。データをセキュリティを保全した形でアーカイブするなど、『安心を買う』というニーズは確実にある」

 これはあながち記者の憶測でもない。日本SGIはすでに、故黒澤明監督の資料などをデジタル化する「黒澤アーカイブ」を手がけているが、これを一種のアウトソースと見るなら、企業が放送局になるために必要なものをアウトソースの形で提供するというモデルは十分に予想される。

 さらに付け加えるなら、4月にはJストリームと、さらについ先日はトライベック・ストラテジーと相次いで提携を発表している日本SGI。和泉氏は微笑をたたえて、「Jストリームやトライベック・ストラテジーとの提携発表は序曲に過ぎない」と話す。

 これまで「SiliconLIVE!」の事例は幾つか示されているが、それらの多くは製造業の大手企業や放送局といったハイエンドなBtoBの分野が中心だった。それが、Jストリームやトライベック・ストラテジーとの提携に見られるよう、BtoCやBtoBtoCの分野に広がりを見せている。企業が情報資産を活用する場合、特に消費者に訴求するためのコンテンツとして活用する場合には、その見せ方も重要な要素となる。よりコンサルティング的な側面が強い部分やそのプロデュース業務、さらにはクリエイションの部分でクリエイターと企業を結ぶエージェンシー事業すら視野に入ってくる。

 日本SGIの視線の先にある“次世代の”データセンター、その姿がおぼろげながら姿を現しつつある。

「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」での発言に注目

 現在、本当の意味で企業内に眠る情報資産のすべてを活用できている企業はまだまだ少ないと言ってよいだろう。とは言え、情報資産を活用する流れはすでに始まっており、これがよどむことはない。だからこそ、日本SGIは先進的な取り組みを事例として示すことで、企業が情報資産の重要性に気がつくきっかけを作っている。

 そんな同社は、6月14日、15日に東京・恵比寿のウェスティンホテル東京にて「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」と題したセミナーを開催する。両日とも和泉氏が登壇予定であるほか、興味深いフォーラムがさりげなく配置されているのも興味深い。上述した「コンテンツの銀行」というキーワードを含んだフォーラムも予定されている。自社の情報資産を最大限に活用するためのソリューションを知りたいのであれば、同セミナーへの参加はまさに目からうろこの落ちるような体験となるだろう。

 和泉氏の口からどんな内容が飛び出すのか。注目して見守りたい。

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