24時間株取引のピークに耐えるスループットを実現 カブドットコムWAN高速化ケーススタディ(1/3 ページ)

カブドットコムは、24時間顧客同士で株取引可能な国内初の私設取引システムの運用を開始。この取引システムを新設した福岡−東京サイト間の通信をWAN高速化で10倍以上改善した。

» 2007年06月29日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

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 カブドットコムは、「リスク管理追求」のポリシーのもと「ユーザーにとって最も便利な証券会社」を目指している。1999年の設立当時より、オンライン証券の基盤となるコンピュータシステムを完全に内製化しているなど、その高い技術力には定評がある。自前でシステムを持つことへのこだわりは、コールセンターまでインハウスで管理するという徹底ぶりだ。

 そこで培われたIT技術を駆使してさまざまな差別化戦略を推進、最近では2006年9月に金融庁の認可を受け、24時間いつでも顧客同士で株取引が可能な私設取引システム「PTS(Proprietary Trading System)」の運用を日本で初めて開始した。

画像 カブドットコムのサーバルーム

私設取引システム構築を機に第2データセンターを福岡へ

 同社システム統括部の谷口有近システム二課長は、「PTSは株の売買の機会を広げる仕組み。自社の顧客に対して、日中に証券取引所で買った株を、夜間でもPTSを利用して売買することができる」と説明する。いわばカブドットコム社内に東京証券取引所のような場所があるとイメージしていいだろう。実際に東証で導入されているような複雑な仕組みを、このPTSでも実現している。

画像 「私設システムのキャパシティプランニングでWAN高速化が必要だった」とシステム統括部の谷口有近システム二課長

 例えば、顧客の注文を集め、注文を突き合わせ/成立させるマッチング処理の仕組みに加え、過大な売り注文が入った場合に、それが本当に正しいかどうかをチェックして調整したり、顧客同士で株を取引する際に、銘柄の値動きを確認する「板情報」と呼ばれる時価情報なども参照できる。1つの注文が入ると、それに応じた銘柄の情報が更新され、ネットワーク上でさまざまなデータがやり取りされる。

アクセスピーク時のキャパシティを考慮してWANを最適化

 ここで興味深いのは、PTSのマッチングシステムを東京本社にではなく、福岡サイトに設置している点。もともと福岡サイトは、災害時などの事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)の一環として、データをバックアップするために開設する予定のものだった。ところが、「データバックアップだけのためにサイトを寝かせるのはもったいない。サイトを作るなら、東証でも持っていないような、他社では絶対にマネのできないシステムを構築しよう」(谷口氏)という掛け声のもと、PTSのマッチングシステムを置くことになった。データセンターとしての機能だけでなく、最終的に東京本社と同様の機能を持つ第2システムセンターにする狙いもあるという。この両拠点間において、同社はWAN高速化装置を導入した。

 実は、同社では東京−福岡間を1Gbpsの高速回線で結んでいる。谷口氏は「両拠点間の距離遅延は18〜22ms(ミリ秒)ほどで、TCPのスループットを見ても、FTPでデータを転送する場合には20Mbps前後の速度は出ていた」と語る。通常のネットワークシステムであれば、速度的には当面それほど問題がないように見える。「本当にWANの高速化/最適化が必要だったのか?」と疑問に思うかもしれない。

 WAN高速化導入の理由として、まずPTSの運営が金融庁からの認可業務であったことが大きい。想定される最大負荷が掛かっても、問題なく動作するシステムのキャパシティが要求された。また、新規サービスを開始するに当たり、需要がどの程度あるのか見込みも立たない。さらに「サービスイン後にも、常に新しい機能を追加できるように拡張性も考慮し、サービスレベルでのキャパシティを引き上げたかった」と谷口氏は振り返る。

 実際に、ネットワーク上を流れるデータは、東京側から取引電文の形で送られる銘柄の発注情報(福岡側のPTSマッチングシステムからは取引成立の情報が戻される)、株の時価情報、PTS売買監視情報、Oracle、SQL ServerのDB情報なども含む運用管理情報など、システムのアプリケーションに含まれるほとんどのものだ。

 このうち、特に懸念されたのは株時価情報だった。パケットの容量も大きく、約12Mbpsのスループットが必要だった。「ピーク時のスループットで考えると、2倍のマージンしかなかった。これでは急激にアクセスが増えたり、サービスを追加したい場合などに対応できない」(谷口氏)。

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