クアッドコア「Barcelona」に賭けるAMD(1/2 ページ)

マルチコアプロセッサの覇権をめぐり、IntelとAMDの戦いの第2幕が切って落とされてようとしている。

» 2007年07月23日 17時51分 公開
[Scott Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 数カ月にわたって沈黙を続けてきたAdvanced Micro Devices(AMD)によると、「Barcelona」のコードネームで知られる待望のクアッドコアOpteronプロセッサを8月から出荷する準備が完了したという。同プロセッサがベンダーの手元に届くのは9月になる見込みだ。

 この数カ月間、Barcelonaへの期待が高まる一方で、「Core」アーキテクチャを擁するIntelに先行を許したAMDは、Barcelonaに関する計画を明らかにしてこなかった。同社幹部は、この新x86プロセッサに関する情報を小出しにするだけで、具体的なリリース時期については沈黙を保ってきた。

 そして6月29日、AppleのiPhoneのリリースをめぐるお祭り騒ぎの中、カリフォルニア州サニーベールに本社を置くAMDは、Barcelonaは8月にデビューする予定だと発表した。最初のモデルはクロック速度が2GHzで、サーマルエンベロープ(熱設計範囲)は同社のデュアルコアチップと同じ65ワットと95ワット以内に収まるという。

 Barcelonaが今夏の終わりに市場に投入され、当初のモデルのクロック速度が予想を下回るというという発表は、AMDが願っていたようにはすっきりと受け止められなかったようだ。リリース時期は、同社が数カ月前に示唆していた時期よりも少なくとも1カ月以上遅れており、クロック速度とパフォーマンスをめぐって疑問の声も聞かれた。また、AMDが自社のWebサイトで示していたベンチマークの一部(最近になって削除された)はアナリストから酷評された。

 しかし数四半期にわたって業績不振が続いているAMDにとって、Barcelonaは低迷脱出の起爆剤になるという見方もある。AMDは7月19日、4〜6月期に6億ドルの損失を計上したと発表した。これはIntelとの価格競争による影響が大きい。とはいえ、iSuppliが7月19日に公表した調査結果によると、AMDは同四半期、11.4%という安定した市場シェアを維持した。ただし同社の昨年同期のシェアは16.4%だった。Barcelonaプロセッサのリリースは、昨年11月にクアッドコアXeonプロセッサを投入して以来、勢いづいているIntelに対する反撃開始の合図となるものだ。

 カリフォルニア州サンタクララを本拠とするIntelはクアッドコアXeonのリリース以来、同プロセッサを100万個以上販売した。同社では、年末まで製造プロセスを65ナノメートルから45ナノメートルに移行し、7〜9月期にはマルチプロセッササーバ向けの「Caneland」プラットフォームを投入する予定だ。

ターゲットはベンダー

 AMDのサーバ/ワークステーション部門でコーポレート副社長を務めるランディ・アレン氏は米eWEEKの取材で、「Barcelonaプロセッサは、絶対的パフォーマンス、1ワット当たりのパフォーマンス、1ドル当たりのパフォーマンスにおいて大きな価値を顧客に提供する。これは、サーバプロセッシングの新たな潮流の中で当社が築いている強固な足掛かりとなるものだ」と述べている。

 ある意味で、クアッドコアOpteronをこの時期に投入するのは、2003年にデュアルコア版Opteronが市場にデビューしたときと比べると、AMDにとって楽な展開になりそうだ。デュアルコア版投入時は、AMDはベンダー各社との契約を取り付けるのに苦労しなければならなかったが、今回はベンダー確保にあまり苦労しなくても済みそうだ。

 既に3社の小規模ベンダー(Supermicro、Tyan Computer、Uniwide Computer)が、Barcelona搭載システムの開発を表明している。カリフォルニア州サンタクララに本社を置くSun Microsystemsは、同社の新しいブレードアーキテクチャ「6000 Modular System」がデュアルコアOpteronからクアッドコアOpteronにアップグレードできる設計になっていることを明らかにした。さらにSunでは、クアッドコアOpteronをベースとしたスーパーコンピュータ「Constellation」を開発する計画だ。アレン氏は、全部で約50種類のプラットフォームでBarcelonaが採用される見込みだとしている。

HPも採用を表明

 カリフォルニア州パロアルトに本社を構えるHewlett-Packard(HP)の製品マーケティングディレクター、クリスティーナ・タイナー氏によると、同社ではサーバライン全体を通じてクアッドコアOpteronをサポートする製品を開発中だという。これらの製品は10〜12月期に出荷が開始される見込みだ。HPおよび同社の顧客は、同プロセッサの1ワット当たりのパフォーマンスが優れている点だけでなく、サーマルエンベロープも従来と同じ範囲に収まっていることを高く評価している、とタイナー氏は話す。

 「電力効率と1ワット当たりのパフォーマンスが素晴らしい。既存プラットフォームへの投資を続けたいと考えている当社の顧客にとっては、ソケット互換性も大きな魅力だ」(同氏)

 Mercury Researchのアナリスト、ディーン・マカロン氏によると、AMDがデュアルコアOpteronと同じ1207ピンのソケットを採用したことにより、顧客はBarcelonaに容易にアップグレードできるため、同社は既存プラットフォームのベースを生かすことができるという。メディアの当初の報道では、Barcelonaのこの側面が見過ごされがちで、クロック速度やパフォーマンスのベンチマークばかりが注目されていた。

 「AMDは大手OEMを通じて自社の市場を幅広く開拓しており、これらのOEMの多くはデュアルコア製品および現行のソケットをさまざまなフォームファクターで採用している。AMDは、ユーザーがこれらのプラットフォームにBarcelonaを組み込むだけで済むようにした」とマカロン氏は話す。

 AMDは2003年に巨大チップメーカーのIntelからシェアを奪い、Intelに戦略の見直しを余儀なくさせたが、マカロン氏によると、AMDがBarcelonaの投入で目指している市場は、同社が2003年に殴り込みをかけた市場とはまったく異なるという。「1つには、IntelのCoreマイクロアーキテクチャが大幅に改良されたことがある。それに、Penrynプロセッサファミリーの年内投入に向けて積極的に取り組むというIntelの姿勢は、同社の製造計画がスケジュール通りに進んでいることを示すものだ」とマカロン氏は話す。

 Barcelonaに関する恒例の新技術の解説は数週間後に予定されている。これらの新技術には、メモリをCPUに直結することによってメモリとの転送速度を改善する「Direct Connect Architecture」や、処理要求に応じて消費電力を増減する「PowerNow」技術などが含まれる。

 AMDは、Barcelonaプロセッサの各コアで128ビットコンピューティングを処理する技術についても説明する予定だ。アレン氏によると、この技術は、演算主体型の科学技術アプリケーションで優れたパフォーマンスを提供するという。また、同プロセッサでは、4つのコアがそれぞれ専用の1次キャッシュと2次キャッシュを搭載する設計となっている。

 アレン氏によると、Barcelonaチップのハードウェア仮想化機能を改善し、仮想化ソフトウェアのパフォーマンスを支援するために、AMDではVMware、Microsoft、XenSourceなどの企業と精力的に共同作業を行ってきたという。

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