新世代DATが従来比2倍以上の容量・転送速度を可能にした理由第6世代は8mmテープ幅

第6世代のDATは、テープ幅が8mmとなり従来の規格に比べると大分大きくなった。それにより、DAT160での記憶容量や転送速度が向上しただけでなく、継続的なロードマップも描きやすくなったという。DAT160の規格制定や同規格に対応したテープドライブの製品化に携わった米HPのロビン・ウィリアムズ氏にその秘密を聞いた。

» 2007年07月30日 10時00分 公開
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 大企業と変わらず、中小企業にとってもD2D2T(Disk to Disk to Tape)によるデータ保護の重要度が増している。日本HPは6月28日、中小企業に適したデータ保護製品としてDATの第6世代となる新規格「DAT160」に基づくテープ製品を発表した。

 DAT160では、DAT72に比べるとテープ幅が2倍に拡張されているのが大きな特徴だが、それにより、容量・データ転送速度とともに、これまでの2倍以上の80Gバイト・6.9Mバイト/秒を可能にしている。

photo HP OEMストレージビジネスDDSリードエンジニアのロビン・ウィリアムズ氏

 「DATは、コストとパフォーマンスのバランスからすると中小企業に最適のテープメディアであることに変わりはない」と話す米HP OEMストレージビジネスDDSリードエンジニアのロビン・ウィリアムズ氏に、DAT160とHPのドライブ製品の技術的な特徴について聞いた。同氏は、DAT160の規格制定や同規格に対応したテープドライブの製品化に携わった人物だ。

 DAT160の最大の特徴は、テープの幅を2倍に拡大した点にあります。容量拡張を実現する手段はほかにもありますが、さまざまに検討を重ねた結果、テープ幅を広げるのが最良という結論になったからです。単に容量を増やすだけならカートリッジに格納するテープを長くすることで、記憶容量を高めることは可能です。しかしカートリッジに収まるテープ長には限界があり、無限に長くすることはできません。また、記録密度を高めてトラック間隔をさらに近接させる、という方向もあり得ますが、これでは限界が早くきてしまいます。

 仮にテープ幅を拡大せずに、テープ長を最大まで伸ばし、同時に可能な限りビット密度を高めたとしましょう。カートリッジ当たりの容量は60Gバイト程度にまで持ってくることは可能です。しかしDATの規格は大きな方針として「世代ごとに容量/データ転送速度を2倍にしていく」ことを考えています。このペースの進化を継続していくには、第6世代となる今回の規格でテープ幅を拡大するのが最良だと判断しました。

photo 新しいワイドカートリッジ(左)と従来のナローカートリッジ(右)

 DAT72までの4mm(正確には3.81mm)テープを使ったカートリッジを「ナローカートリッジ」、新しいDAT160の8.0mmテープを使ったカートリッジを「ワイドカートリッジ」と呼んでいますが、DAT160のカートリッジ自体の外観や基本的な形状はほぼ同一です。ナローカートリッジで10.5mmだった厚みが、ワイドカートリッジでは14.7mmと厚くなりますが、テープ幅が拡幅された分が正確にカートリッジの厚みの増加分として反映されました。テープ幅は2倍になりましたが、カートリッジの外形の厚みが2倍になったわけではありません。

 カートリッジの外形に関しては、オートローダーでカートリッジを確実に保持できるように、くぼみを追加しメカによるメディアの挿入、送出を確実にできるよう工夫しています。ナローカートリッジではこうした配慮をしていなかったため、オートローダー側の対応で難しい部分がありましたが、DAT160で改善することができました。また、従来のメディアタイプ検出するノッチの組み合わせではビットパターンが不足してしまったため、新たにノッチを追加しています。

 内部で利用されている部材についてもナローカートリッジとほとんどのものを同一にしています。これにより、メディアの製造コストを低く抑えることを可能にしています。

 データ量と転送速度を比較すると、DAT72は36Gバイト・3.2Mバイト/秒だったのに対し、DAT160はいずれも2倍以上となる80Gバイト・6.9Mバイト/秒を達成しています(いずれも非圧縮時)。一方、テープ長はDAT72が170mだったのに対し、DAT160ではDDS4と同じ155mに戻しました。

 テープ長を170mにすることは可能ですが、容量面では155mで十分事足ります。ベースメディア製造企業からの供給が確保しやすいため、DDS4と同じ長さにしました。もちろん、将来さらに容量増が必要になった際に、対処が容易なように拡張余地を確保しておくという意味もあります。

容量と転送速度が向上した理由

 DAT160では、ナローカートリッジを使用するDAT72に比べ、カートリッジ当たりの容量は2倍以上に引き上げられました。テープ幅が2倍になったことで、データ記憶に利用できる面積も単純に2倍になり、加えて、データ記憶領域に比べて相対的に大きく取りすぎていたガードバンドを最適化したことで、より多くの面積をデータ記録用に使えるようになったためです。

 このような形で容量に余裕ができたことから、DAT160ではデータ記録密度をDAT72よりも低くすることができ、将来の拡張性の確保にもつながります。

 DAT160では、テープとドラムの接触角度も見直しています。従来は、テープとドラムの接触部分はドラムの角度にしておおよそ90度でしたが、DAT160ではおおよそ180度と、ここも2倍にしています。テープとドラムがより長く接触しているため、従来よりも長いトラック(トラック長は2.65倍)を確保できるのです。

photo テープとドラムの接触部が増えたため、従来よりも長いトラックを確保できる
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 ドラムの回転によってヘッドがテープに接触するわけですが、従来の90度の接触では、読み出し用ヘッドか書き込み用ヘッドか、どちらか一方しかテープに接触しません。そのため、交互に処理を進める必要があり、無駄な待ち時間が発生していました。DAT160では180度接触としたことで、読み出しと書き込みを同時並行で行なうことができ、待ち時間が発生しません。ヘッドがテープからデータを読み出す速度は従来と同じでも、最終的なデータ転送速度は2倍になるのです。

photo DAT160書き込みと読み込みが並行でき、アイドル時間も減少した
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 テープとの接触角度が倍になったことで耐久性の懸念もあるかと思いますが、当然この問題は設計段階から検討されており、入念にテストしました。DAT160では、記録密度がDAT72よりも低くできたため、ドラムの回転速度も少し遅くできます。このこともあって、DAT160のヘッドの寿命はDAT72と同一の値を維持することができたのです。

ドライブのメカニズム

photo   HP StorageWorks DAT160

 HPのDAT160ドライブは従来のナローカートリッジにも対応する両用ドライブとなっています。カートリッジの挿入口の部分の機械的なロック機構を工夫しており、ナローカートリッジ/ワイドカートリッジのどちらが挿入されても、カートリッジが正しい位置にしっかりと保持され、ガタついたり曲がって入ることはありません。ユーザーはカートリッジの厚みを気にすることなく、自然にドライブに挿入するだけで、ドライブ側が正しくカートリッジを判別することができるのです。

 排熱やエアフローの確保の面でも改良を行なっており、従来以上に効率的に熱を排出すると同時に、ホコリなどの影響を受けにくいような空気の流れになっています。ドライブ内部で発生する熱の90%はテープに伝わることなく、コントローラの基盤側を通じて排出されます。これによってもテープの劣化が抑えられるわけです。

 さらに、米国では、オフィスに設置する機器に関してアクセシビリティを配慮しなければならない規制があります。誰にとっても使いやすいよう、ドライブからテープを排出する際には最低でも12mm以上挿入口からカートリッジを押し出さなければなりません。手が不自由なユーザーであっても、問題なく操作できなければならないからです。この点でも工夫をしています。

 単純に強力なスプリングを使ってカートリッジを押し出すだけでは、カートリッジが挿入口から飛び出してしまう危険があります。そこで、ドアからカートリッジを排出する際、最後の数mmを押し出すために複雑な仕掛けを施し、“ロング・イジェクト”の機構を実現しました。逆に、カートリッジが挿入されたときには、挿入口のドアがピッタリと閉じられ、ドライブ内部にホコリなどが入り込むのを効果的に防ぐことができるようになっています。

 ドライブ回路の論理構成に関しては、変更すべき個所はごく限られており、従来のまま変更せずに利用可能なコンポーネントもかなりありました。これは、DAT72ドライブの製品化の際に将来のロードマップを検討し、拡張性に配慮した設計を行なったためでもありますが、このこともドライブのコストを抑える点に役立っています。DAT160ドライブは、2世代分の互換性を確保するという方針に従って、DAT72およびDDS4メディアに対する互換性を確保しています。

 SASインタフェースを追加した点とWORM(Write Once, Read Many)に対応した点も、ドライブ側の特徴となりますが、これらは今後の利用拡大を踏まえた改良という位置づけになります。

新規格の市場性

 既に市場には競合する8mmテープ製品が存在していますが、DAT160では先行するDAT製品との互換性が確保されている点が最も重要なポイントです。DAT160をDATの最終世代としてしまうつもりはありません。今後も記録すべきデータ量はさらに増加していきます。

photo 従来の4mmテープ幅と新8mmテープ幅の双方に対応するHP StorageWorks DAT160
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 今後の需要に対応するため、既存のDATと互換性を持ち、かつ充分な拡張余地を備えた新しい規格が必要とされていました。テープ幅にのみ注目し、既存の8mmテープ技術に移行するとなると、従来のDAT製品との互換性を維持するために、異なる大きさ/形状のカートリッジをサポートするドライブを設計する必要があり、困難な作業になります。ユーザーに使いやすい形で同一のフットプリントを維持しつつ記録密度の増大を実現するには、DATテープ幅の拡幅が最も良い選択でした。

LTOとDATの棲み分け

 HPではSMB市場向けのテープ・バックアップとしてDATを、エンタープライズ向けにはLTOを推進しています。基本的な技術も製品の価格レンジも異なっており、それぞれが異なる市場の需要に対応するテクノロジーと考えています。ただし、共通しているのは、いずれもオープンな規格であり、独自仕様のソリューションではないという点です。

 単一のテクノロジーですべての需要をカバーするのが理想的かもしれませんが、現実的とは言えません。DATとLTOは、市場セグメントは異なるものの、いずれも広範な支持を得た規格であり、テープ市場のシェアでいえば、LTOとDATを合計すれば90%以上の市場を獲得しています。これだけ支持された規格を放棄するのは得策ではありません。将来のテープ技術のロードマップを策定する際にも、この2つの規格の両方を今後もサポートし続けることを前提にしています。

 DAT160で導入されたワイドカートリッジは、今後DATの第7世代、第8世代という2世代にわたって利用されることを想定しています。少なくともその間は物理的な互換性を維持する予定です。

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企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年8月29日