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» 2006年11月06日 10時00分 公開

ITトレンド〜データマネジメント編〜:HPテープストレージの優れた品質を支えるのは製造現場の誇り

容量、スピード、扱いやすさ、そしてコストのバランスに優れた磁気テープストレージは、ハードディスクという魅力的なオプションが登場した今もデータ保護の基本手段として広く使われている。企業にとって最も大切な資産は情報であり、その保護を担うテープストレージには、格段の品質が求められる。研究開発から製造工程に至るまでさまざまなフェーズで厳格なテストが課され、企業ユーザーが求めている高い品質を保証している。

[ITmedia]
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 ヒューレット・パッカード(HP)におけるテープストレージの研究開発拠点である英国ブリストルに続き、今回は製造拠点のハンガリー・ザラエゲルセグを訪ねた。HPがテープストレージの製造拠点を置くザラエゲルセグは、ハンガリー西部に位置し、冷戦時代には「鉄のカーテン」が敷かれたオーストリア国境にも近い。今回の取材も、首都ブタペストではなく、オーストリアのウイーンから陸路で国境を越えた。

世界的なEMS企業であるフレクストロニクスのザラエゲルセグ工場

 ウイーンからザラエゲルセグに向かう街道の両脇には、食用油の原料になるであろうヒマワリやトウモロコシの畑が続き、時折、オリーブやブドウの樹を見かける以外、およそ3時間、その風景が変わることはなかった。ベルリンの壁が崩壊する数カ月前の1989年夏、ハンガリー政府はオーストリア国境の鉄条網を一部撤去し、多くの東ドイツ市民を西側に脱出させている。「ピクニック計画」と呼ばれ、ベルリンの壁崩壊のきっかけとなった事件が、この地で起こったとは、にわかに信じられない。

 その後、東欧改革の先導役を果たしたハンガリーは2004年、ポーランドやチェコとともにEUに加盟、理数系や技術系の高い教育を受けた比較的賃金の安い労働力が魅力とされている。日本からもスズキ自動車を筆頭に多くの企業が進出している。

 テープストレージ市場で40%のシェアを占めるヒューレット・パッカード(HP)は2002年、世界的なEMS(Electric Manufacturing Service)企業であるフレクトロニクスのザラエゲルセグ工場内に組み立てラインを確保し、製造委託を開始した。これまで11のLTO(Linear Tape Open)製品と8のDDS(Digital Data Storage)/(Digital Audio Tape)製品を顧客やOEMパートナーらに送り出し、今年9月初めには累計200万台の出荷を祝った。

 2005年2月に累計100万台を記録したばかりなので、この1年半で100万台を出荷したことになる。テープストレージ市場、特に容量が100Gバイト以上の、いわゆる「スーパードライブ」市場をリードするLTOの急成長と、そこにおけるHPの成功を反映している。

HPのテープストレージ組み立てラインがあるザラエゲルセグ工場内のビル。オーストリアの有名なチョコレート「ミルカ」の包装紙に似た紫をあしらった外観から、「ミルカビル」と呼ばれている

「HPのテープストレージは血統書付き」

 1998年にIBM、HP、Seagate Technologyの3社が共同で規格を策定し、2000年に製品化が始まった「LTO Ultrium」は、現行の第3世代製品ではデータ非圧縮時の容量を400Gバイトに引き上げたほか、WORM(Write Once, Read Many)メディアの規格も追加され、法規制への準拠も果たしている。

 「LTOは新しい市場を切り開いている製品。HPは他社に先駆けてハーフハイトを投入するなど、この市場のパイオニアだ。われわれは誇りを持って製造している」と話すのは、ザラエゲルセグ工場のHPチームを統括するオペレーションマネジャーのフィル・イングリッシュ氏。

ザラエゲルセグ工場のHPチームを統括するオペレーションマネジャーのフィル・イングリッシュ氏。操業開始時からザラエゲルセグに常駐しているという

 HPでは9月半ば、第3世代のハーフハイトドライブ、「HP Ultrium 920」を新たに投入した。さらに、2007年の出荷を目指し、第4世代のLTO製品の開発を進めている。

 なお、LTOテクノロジーの詳細については、「飛躍するLTOテクノロジー、その知られざる秘密」や「LTOテクノロジー、メカ部分の秘密」を参照してほしい。

 1990年の製品登場以来、実に1700万台が出荷されているロングセラーの「DDS/DAT」製品でも技術革新は続いている。データ非圧縮時に80Gバイトとなる第6世代製品の開発が始まっており、やはり2007年には登場するという。

 「HPはテープストレージで数々の技術革新を生み出している。まさに血統書付きだ」とイングリッシュ氏。

5時間を超える厳格なテスト

 企業にとって最も大切な資産は情報であり、その保護を担うテープストレージには、格段の品質が求められる。研究開発から製造工程に至るまでさまざまなフェーズで厳格なテストが課され、企業ユーザーが求めている高い品質を保証しているという。

 テープストレージ製品は、読み取りヘッド、テープメカ、プリント回路実装品(PCA:Printed Circuit Assembly)を主な構成部品とし、組み上げられている。ファームウェアは英国ブリストルの研究開発拠点で開発されているものの、それ以外の主要部品は、パートナーらと共同開発、あるいは製造委託しており、世界各地から調達している。

 LTO製品の製造を例に取ると、ザラエゲルセグの工場は、これらの部品を組み立て、ドライブとしてテストしたり、エンクロージャーに収めてシステムとして機能するようにコンフィグレーションする役割を担っている。

 LTO製品の最終組み立てとテストを行っているフロアを見学して興味深かったのは、そのスペースの大半がテストと、それによって発見された問題を分析・解決するために使われていたことだ。

 「最終組み立ての工程が終わると、そこから長いテストプロセスが始まる」と話すのは、新製品担当のプロダクトエンジニアを務めるゾルト・サイモン氏。もちろん、すべてのドライブがテストを課され、その時間はLTO製品の場合、合計5時間を超えるという。

プロダクトエンジニアのゾルト・サイモン氏。LTO製品の最終組み立てフロアにはテストスロットがずらりと並ぶ

 サイモン氏によれば、すべての部品にはバーコードが付けられ、ドライブがどの部品を使い、だれによって組み立てられ、そして、どんなテスト結果だったか、をデータベースで管理しているという。こうしたデータを蓄積しておけば、エラーが頻発した場合、例えば、問題が特定のオペレーターにあるのか、あるいは、特定のサプライヤーの部品に原因があるのか、分析する手掛かりとなるからだ。

 サイモン氏の同僚で現行製品を担当するプロダクトエンジニアのジョン・ウォール氏は、「OEM顧客らは、単なるハードウェアを購入しているわけではない。彼らは、われわれの品質保証に対する取り組みを評価し、購入してくれているのだ。だからこそ、研究開発から製造、品質検査に至るまで、すべてのプロセスがトラッキングできる必要がある」と話す。

プロダクトエンジニアのジョン・ウォール氏。テストでエラーが発生した場合、メディアも原因分析の工程に回されるという

絶え間ない技術革新、そして改良・改善

 フレクトロニクスの品質管理部門と連携しながらテープストレージ製品の品質管理を担当するクオリティエンジニアのチョンゴル・カンタ氏は、品質にかかわる問題をトラッキングし、製品を改良したり、製造プロセスを改善していくのに、「Design Defect Tracking」(DDT)システムが大いに貢献していると話す。

 「英国ブリストルの研究開発拠点で開発されたDDTシステムが、研究開発から最終組み立てまで、すべての段階で活用されている。発生した課題をトラッキングし、その解決に役立てている」とチョンゴル氏。

ザラエゲルセグの工場に常駐しているHPチームには、ハンガリー人のクオリティエンジニア、チョンゴル・カンタ氏も参画している

 DDTシステムでは、これまで発見されていなかった新しい問題は識別しやすくしたり、問題が及ぼす影響度に応じて優先順位付けを行う。また、サプライチェーン全体でDDTシステムは利用でき、サプライヤーに対してもエラー情報をフィードバックできるという。

 DDTシステムは、ツールでもあるが、むしろ品質にかかわる問題をトラッキングし、製品を改良したり、製造プロセスを改善していく手法でもあるのだ。オペレーションマネジャーのイングリッシュ氏は、「DDTシステムの背景にあるのは、常に改良し、改善していくという理念だ」と話す。


フレクトロニクスとのパートナーシップ

 この夏、EU加盟国の市場において電子・電気機器を販売するメーカーには、特定有害物質の使用制限、いわゆる「RoHS」(ローズ:Restriction of Hazardous Substances)指令が課せられた。7月1日からは、鉛や水銀などの有害物質が含まれた電子・電気機器を販売できなくなったのだ。もちろん、テープストレージ製品にもこの制限が適用されているが、RoHS指令に対するHPの取り組みは早く、2005年末にはRoHS対応を済ませた。

 ザラエゲルセグ工場に常駐するプロダクトエンジニアのジョン・ウォール氏は、「フレクトロニクスとHPは、RoHS指令に取り組む課程で素晴らしい協力関係を築くことができ、その後の成功の礎となっている」と話す。

 そもそも、英国ブリストルで行われていたテープストレージ製品の組み立てを海外に移転する際、フレクトロニクスを選んだのも、共同で製品の開発や製造を進められる企業として評価したからだ。

 「この業界はもちろんコストが第一だが、単に組み立てを委託したかったのではない。将来も含め、開発段階から製造、テストに至るまで一緒に取り組めるパートナーでなければならない」とウォール氏。

 実際のところ、パワーサプライやエンクロージャーは、フレクトロニクスと共同開発によるものだ。  「部品に関する研究開発も共同で進めている。フレクトロニクスとの協力によって、HPも発展できている」(ウォール氏)

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