“2.0”は企業内コラボの特効薬なのかエンタープライズ2.0時代の到来(2/2 ページ)

» 2007年08月01日 06時57分 公開
[林 雅之,ITmedia]
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エンタープライズ2.0はどのような効果をもたらすのか

 社員の暗黙知を集合知化すること。つまり、組織の枠を超えたコラボレーションとボトムアップ環境を作ることで、EGM(Employee Generated Media)形成が期待されている。EGMによって、「見える化=見せる化」が進み、「見えること」が現場力を高め、社員の思考や行動様式が改善されていく、そして足腰の強い企業へと進化させていくことができるであろう。

 しかし、先ほどにも述べたように提供側と利用者側にギャップが生じており、導入に向けての課題は多い。

 エンタープライズ2.0の導入において、検討していくべき課題となるのは、大きく分けて「ガバナンス」「セキュリティ」「収益への貢献」の3点が考えられる。

  • ガバナンス

 社員の集合知とボトムアップからの情報が、経営陣にとってコントロールできなくなる情報になり、企業の経営戦略や方針をあいまいにさせる可能性が考えられる。

  • セキュリティ

 企業においては、内部統制やコンプライアンス等が重点事項となっている。社員からの情報の発信頻度が高まれば、社内の機密情報の漏えいなどのセキュリティリスクも考えられる。セキュリティ対策と情報発信のトラフィックを考慮した社内ネットワーク設計の見直しの必要性も出てくるかもしれない。

  • 収益への貢献

 導入することによって、経営や業務課題を解決しさらに企業に利益をもたらすことができるか? また、定量的な目標設定などができるのかという点も検討課題になるだろう。

 以上のことから、企業が導入に二の足を踏んでいるというのも実情ではないだろうか。

 企業が導入に否定的な立場であったとしても、時代の流れで市場が企業に変化を求めていくことになるかもしれない。その流れの一つがエンタープライズ2.0と考えることができる。

社員のコンシューマ技術活用が進む

 最近では、デジタルハックやGoogleの活用本など、Web2.0を基としたサービスやツールを仕事へと活用する情報であふれている。これまではコンシューマ向けのものとして認識されていたものが、社内システムよりも魅力的だと活用するようになればどうだろうか。企業はこれらのサービスや技術をビジネス向けに適用し、活用するケースが増えてくるだろう。ポジティブに考えれば、社内外シームレスでユビキタスなコラボレーションが可能となるわけだ。

mixi世代やデジタル新世代の登場

 情報を発信することに積極的であるmixi世代や、デジタル新世代(ネイティブ)と呼ばれる世代が、企業へとかかわってくる。mixiの内定者や新入社員のコミュニティーを見てみると、多いところでは新入社員の半数以上を占めているコミュニティーも存在する。

 彼らが企業の中心的な存在になる時期がやがて訪れるだろう。そのため、社外にある社員の集合知を、社内へと時間を掛けてでもトランスフォームさせていくことの意味は大きいと考えられるのだ。

ヒューマン×プロセス×テクノロジーの三位一体改革

 エンタープライズ2.0をやみくもに導入するのは危険かもしれない。Web2.0に否定的な立場の人も多く、システム連携や拡張など、そして運用方法を検討していくべき事項が多いからだ。また、導入のためには、技術だけの議論ではなく、ヒューマン×プロセス×テクノロジーの三位一体となった取り組みが必要になってくると考えられる。

  • ヒューマン

 エンタープライズ2.0の導入にあたっては、EGM(Employee Generated Media)と言われるように、ヒューマン(社員)の影響が大きい。

 そのため、中核となるコアメンバーを集め、情報と人が交流するための仕組みをしっかりと議論することが必要である。また、Know Who機能を充実させ、社員が持つプロフェッショナルな領域や、現在の業務内容などを積極的に公開することにより、会社全体の「見える化」と「つながり」が分かるような状態にしておくことが重要である。経営者と社員の意識改革がまず必要になってくるであろう。

  • プロセス

 エンタープライズ2.0にはSNSやブログそしてWikiなどさまざまなツールがあり、そのような仕組みを導入することですべて解決するというわけではない。

 企業カルチャーや現状のニーズやシステムなどの現状把握を実施し、適したツールの選定とコラボレーションフローを考えていくことが必要だ。また、導入時は検証やβ版として小規模で開始し、改良を加えながら展開していくことが最善だろう。また、目標設定とゆるやかな計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)のPDCAサイクルを実施し、継続的なコラボレーションをしていくことも重要である。単なる情報共有から認識や感性の共有できる環境を作ることがポイントであると考えている。

  • テクノロジー

 前述した社内SNSやイントラブログやWikiなどに、Web2.0のキーワードとなるフォークソノミー(Folksonomy)、マッシュアップ(Mashups)、リッチなユーザ体験(Rich User Experience)、進歩的な分散指向(Radical Decentration)、ロングテール(Long Tail)の概念を随時取り入れていくと良い。そしてWeb2.0的なソフトウェアが分散している場合には、機能をポータル化し、シングルサインオンや統合ユーザー管理なども必要になってくるケースも出てくるだろう。

 時代の流れを背景にして、エンタープライズ2.0は企業に浸透し加速化していくと筆者は読んでいる。しかし、企業がタイミングと自社のカルチャーを見誤れば逆に失敗に終わってしまうだろう。エンタープライズ2.0の導入は単に情報システムを淡々と導入するのではなく、ヒューマンとプロセスを十分に考慮しながら、社内の「見える化」「つながる化」に向けて導入を進めていく必要があるのだ。

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