マサチューセッツ州、Microsoftの「Open XML」攻勢に白旗

マサチューセッツ州が州の文書標準の1つにMicrosoftのOpen XMLを採用した。行政が特定企業の技術を“標準”に選ぶことの影響は?

» 2007年08月03日 17時32分 公開
[Steven J. Vaughan-Nichols,eWEEK]
eWEEK

 本稿を執筆している8月2日の時点(米国時間)で、米国野球ナショナルリーグ中部地区のトップを2位と僅差で走っているのは、驚くべきことにシカゴ・カブスである。一方マサチューセッツでは、あいかわらず強いレッド・ソックスがアメリカンリーグ東部地区をリードしており、IT業界の王者であるMicrosoftもまた勝ち星を挙げた。州政府が、Microsoftの文書標準「Open XML」を採用したのである。

 正確には、マサチューセッツ州は「Massachusetts ETRM(Enterprise Technical Reference Model)」の草案の中で、MicrosoftのOpen XML(Ecma-376)フォーマットを公式標準の1つに認定した。ETRMは、マサチューセッツ州のコンピューティング環境を支える標準、仕様、技術を特定するのに使用する、アーキテクチャフレームワークだ。大方の予想通り、8月1日にリリースされた最新版ETRMの最終案には、Open XMLが正式に含まれていた。

 一般向けレビュードラフトにコメントを寄せた個人および組織の数は460におよび、そのほとんどが、Open XMLをODF(Open Document Format)とともに文書アプリケーションのドキュメントフォーマットに認定することを疑問視する内容だったが、結局そうした声は取り上げられなかった。

 ボストンの法律事務所Gesmer Updegroveのパートナーであり、「ConsortiumInfo.org」の編集者でもあるアンドリュー・アプデグローブ氏は、「ConsortiumInfo」ブログの最新エントリに、「マサチューセッツ州――より的確に言えば、少数の勇気ある公僕――が2年前にオープンフォーマット支持を打ち出したのは、非常に画期的な出来事だった。彼らの後継者がそうした信念に基づく姿勢を捨て、MicrosoftのOpen XMLが国際的な標準策定プロセスの中で満足いく結果を出せるのか、それとも不備を露呈するのかを様子見するという功利主義に走ったのは、実に残念である」と書いた。

 すなわちマサチューセッツ州は、Open XMLが本物のISO標準になる可能性がかなり低いにもかかわらず、Microsoftに対抗する勇気を見せ、マサチューセッツ州議会に働きかける代わりに、あっさりと白旗を揚げたわけだ。

 確かに嘆かわしいことである。

 読者の中には、なぜこれがそんなにも重大な問題なのか、ピンと来ない人もいるだろう。ODFもOpen XMLもオープンスタンダードなのだし、どっちだってかまわないのではないか?

 ところが実際は、両者の間には明らかな違いがある。ODFは真のオープンスタンダードであり、万人が利用できるフォーマットだ。だれでもODFをデフォルトフォーマットとするオフィスプログラムを作成できるし、他者が作成したドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションを読み書きできる。一方のOpen XMLは、オープンとは名ばかりだ。

 Open XMLドキュメントは、Microsoft自身の「Office」スイートプログラムの旧版とすら、互換性を備えていない。「Microsoft Office 2000」「Office XP」「Office 2003」でOpen XMLドキュメントを読んだり、編集したりする場合は、Microsoftのサイトから互換性パックをダウンロードして来なければならないのだ。「Office 97」ユーザーは、それも諦めるほかない。

 各フォーマット間の変換を行うプログラムも、あるにはある。これまでに存在していたその手のプログラムでわたしが覚えているのは、当時互換性が問題になっていた「WordStar」と「WordPerfect」のフォーマットを変換する、初期のDataVizの「Conversions」プログラムだ。だが、その中でもすぐれていた「Conversions Plus 6.6」も、完璧なものとは言えなかった。

 Sunの「ODF Plug-in for Microsoft Office」といった、ODFとOpen XMLを変換する専用プログラムにも、変換に伴う問題がある。また、MicrosoftとNovellが複数の小規模なLinux企業と協力して、「OpenXML/ODF Translator Add-in for Office」の開発に取り組んでいるが、ドラフトの第1版でさえ4000ページ以上のボリュームがあるOpen XMLは、標準というよりMicrosoft独自のフォーマットであるため、完全無比なOpen XML変換プログラムを作るのは困難なことだと考えられる。

 こうした現状を踏まえると、結局はMicrosoft Officeのユーザー以外はOpen XMLを利用できない事態が生じるのではないだろうか。また、Open XMLが「スタンダード」を標榜していることから、OpenOfficeやWordPerfectなどほかのオフィススイートに、公平なチャンスが与えられなくなる可能性もある。こうしてMicrosoftは、自社だけが唯一の勝者となるソフトウェア競争を、今一度仕掛けようとしているのだ。

 ユーザーである自分には関係ないと考えるのは、甘いと言わざるを得ない。Microsoftが地盤を確保し、市場から競争を排除したあとにリリースするOfficeの次期バージョンがいったいいくらになるのか、楽しみにしておこう。

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