現場では、複数配布したパッチのうちトラブルの元凶となるものを特定するため、1つずつアンインストールするという地道な作業が始まった。ログインを管理するシステムがエラーを起こしているため、再起動のたびに、裏技とも言える複雑な不具合の回避策を繰り返すという、気の遠くなるような作業が数時間にわたり続けられる。
ようやく原因となったパッチが特定できると、今度は状況を再現させダンプを採取する。必要な情報がそろったころには、既に終電の時間も過ぎていた。
その時点で、わたしが協力できるのはここまでということになり、取りあえず明日に備えて帰宅することになった。
ソフトウェアメーカーの担当者は、集めた情報やハードウェアを会社に運んで早速解析作業に入るという。ソフトウェアメーカーの会社の方向と、わたしの家の方向が同じであることから、担当者が使うタクシーに相乗りさせてもらうこととなった。
その車中、すっかり疲れきっていたわたし達は、ほとんど会話を交わすこともなく車内の空気は沈みきっていた。タクシーの前方には、今の状況を象徴するような、漆黒の闇が広がっている。このまま解決しなかったらどうしよう。しっかりテストをしなかったわたしの責任だ。
これからどうなってしまうのだろう、解決策なんて見つかるんだろうか――どうしようもない絶望感に襲われたとき、家でわたしの帰りを待っている愛犬の姿が脳裏に浮かんだ。何があってもわたしの味方でいれくれる、唯一の存在だ。こんなに帰りが遅くなって大丈夫だろうか、そう思った途端、思ってもみない言葉が口を突いて出た。
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