「敷居の低さ」が企業の知を「カイゼン」するエンタープライズ2.0時代の到来(1/3 ページ)

せっかく導入した情報共有ツールだが、なかなか使われないのが実情。システム導入の担当者は頭を柔らかくしてみよう。「こんな適当で大丈夫なのか」というくらいのガバナンスの方が、社内の情報共有はうまくいくのかもしれない。

» 2007年08月17日 07時00分 公開
[栗原潔,ITmedia]

マカフィー教授の2.0

 「エンタープライズ2.0とは何か?」という用語の定義の問題をあまり厳密に追求することは避けたい。人により定義が大きく異なっており、万人を納得させる一つの確定的定義を挙げるのは困難だからだ(これは、Web2.0という言葉についても言えることだが)。ここでは、とりあえず筆者なりのローカルな定義をして議論を先に進めることにしよう。

 筆者がエンタープライズ2.0という用語を使う時には、この用語を最初に使い出した識者の一人であるハーバードビジネススクールのアンドリュー・マカフィー教授の定義を使用することにしている。マカフィー教授の定義によれば、エンタープライズ2.0とは「ネット上で活用されているWeb2.0系の情報共有テクノロジー(ブログ、SNS、Wiki、RSSなど)を企業内で活用すること」である。具体的には、SLATESという短縮形により表現される(関連記事参照)

 いわば、ある程度熟練したネットユーザーであれば誰でも経験しているようなネット上での知識の収集、公開、共用とコラボレーションのやり方を企業内でも展開しようということだ。

 現時点では、エンタープライズ2.0という用語は、例えばマッシュアップやAjaxなどの基盤要素的なテクノロジーの企業内での活用も含めて使われることがあるが、この記事では(そして、おそらくは筆者が今後書いていく記事においても)、それらの概念はエンタープライズ2.0の範囲外として扱いたい。マカフィー教授の元々の定義を尊重したいということだ。

エンタープライズ2.0=さして目新しくないもの?

 なぜ、今、エンタープライズ2.0に注目が集まっているのだろうか? その答えは自明だろう。インターネットの世界では(依然としてさまざまな問題はあるものの)ユーザーが自由に情報を交換することで、かつては考えられなかった高いレベルの集合知を構築できる環境が整いつつある。誰もが自由に編集できる百科事典であるWikipediaがかなり高い正確性を提供できているように、かつては非現実的としか考えられなかったような自由かつグローバルな情報共有による成功事例が出現しているのである。Web2.0にバブル的な要素がまったくないとは言わないが、少なくともブログ、SNS、Wiki、RSSなどWeb2.0系のテクノロジーがネットの世界に重要かつ長期的な変化を起こしているのは確かだろう。

 当然ながら、知識の共有とコラボレーションは企業内においても重要課題だ。例えば、アイ・ティー・アールによる日本企業のIT部門に対する意識調査においても、「知識の共有と活用」が毎年のように最重要案件の一つとしてランクされている。企業にとっての重要度という点では、SOAやSaaSなどの「旬の話題」よりも、知識共有という「さして目新しくない話題」の方がはるかに高いという結果が出ているのである。KM(知識管理)という概念が最初に提唱されてからかなりの期間が経つが、今でもIT部門の永遠の課題であることは間違いはないだろう。

 しかしながら、今までの企業内におけるKMやコラボレーションの取り組みは、企業の期待に完全に応えてきたとは言い難い。もちろん、相応のメリットが提供されているケースはあるのだが、実際には文書キャビネットのような使い方しかされておらず、コラボレーションの場、知識共有の場としては充分に機能していないKMシステムが多いことが現状だろう。企業内のコミュニケーションが、主に、電子メールという閉じたメディアで行われてしまい、多くのノウハウが充分に活用されないままで死蔵されていることも多い。

 ゆえに、ネットの世界での有効性が実証されているテクノロジー群を企業内でも活用し、知識の共有と活用を再度促進しようという動きが出てくるのは当然なことだ。エンタープライズ2.0という言葉(というよりも、一般にxxx2.0という言い回し)は、正直ちょっと手垢が付きだしている印象があるが、どのような名前で呼ぼうとも、その重要性には疑いの余地はないと考える。

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