部下の心に火をつける――褒める技術と仕組みづくり人心掌握の鉄則(2/2 ページ)

» 2007年10月10日 07時52分 公開
[アイティセレクト編集部]
前のページへ 1|2       

現状維持で満足する部下には「ライバル心」を

 気力に満ち溢れた成長状態の部下に対しては、とくに褒め言葉はいらない。必要なのは、部下が進んでいる方向が間違っていないのかというチェックだけだ。

 ただ、詳細に報告を求めると、部下は自分が信頼されていないのではないかと勘ぐってしまう。全幅の信頼を寄せていることを前提にして、「キミのことだから心配はしていないが、結果だけ報告してくれ」というように、プロジェクトの節目ごとに結果の報告を求めれば十分だろう。

 一方、自分のパフォーマンスに自信はあるが、そこで満足してチャレンジ精神を失っている自己満足状態の部下には、高い目標を持たせる言葉が有効だ。ただ、現状のパフォーマンスを否定する言い方をすると自信を失ってしまう恐れがある。「会社がキミに求めているのは、百点ではなく百二十点だ」、「キミの潜在能力にはみんなが期待している」というような言い回しで、部下の自己肯定感を損なわない配慮をしたい。

叱るタイミングは成功体験をさせた後

 褒め言葉ではないが、部下の競争心を煽る言葉も効果的だ。某メーカーのブランドマネジャーA氏は、部下の心に火を付けるあるテクニックを明かしてくれた。

 「現状維持で満足している部下には、客観的に見て本人よりも少し上のレベルの社員の名前を挙げて、『○○君とは良いライバル関係のようだね』といって、勝手にライバルを仕立てて焚きつけるんです。周囲から比較されると、本人はいやでも意識せざるを得ない。ライバルにする相手が身近な人ほど効果がありますよ」

 やり過ぎると社内の雰囲気が悪くなる可能性もあるが、危機感を煽る方法としては面白いかもしれない。

 現状を変えたいという意識はあるものの、結果が出ずにもがいているスランプ状態の部下には、原因追求と改善策という具体的なアドバイスが必要だ。ただ、助言のタイミングには注意したい。

 プロ野球、南海ホークス(現ソフトバンク)の黄金時代を作った鶴岡一人元監督は、エースの杉浦忠投手が打たれて負け投手になっても、決してその日には叱らなかった。というのも、たとえ正論でも、負けた直後はそれを受け入れる準備ができていないから。鶴岡監督は杉浦投手が勝ち投手になるまで待ち、心に余裕ができてから改めて負け試合のピッチング内容を振り返ったそうだ。

 これはスランプ状態に陥った部下にも応用できる。結果が出ずに落ち込んでいるときにギリギリと原因を追及しても、さらに自信を失わせるだけ。それより成功体験時にはっきりとアドバイスをしたほうが、部下もすんなりと受け入れられる。例えば「プロジェクトが一歩前進した」、「3日かかる作業を2日で終わらせた」という小さな成功体験でもいい。部下が心を開いた状態になるまで、焦らずに待てるかどうかがポイントだ。スランプ状態が長く続くと、結果を出すことさえ諦める無気力状態になる。この状態にハマった部下はもっとも厄介だ。「どうせ自分はダメに決まっている」というマイナス思考が根づいているため、上司の褒め言葉や励ましを素直に信じようとしない。

 人は期待をかけられると、それに応えようとして高いパフォーマンスを発揮する。心理学では「ピグマリオン効果」として知られている現象だ。ただ、無気力状態の部下に期待の言葉をかけるときは、口先だけだと受け取られないような工夫が必要。例えば顧客との打ち合わせに同行して「彼に任せておけば大丈夫です」といって部下の活躍を約束したり、本人のいないところで褒めて人づてに伝わるのを待つなど、第三者を活用して期待の言葉に真実味を持たせるといいだろう。

 部下の状態別対処法をざっと見てきたが、実はこれだけでは不十分だ。前出の長谷川氏は最後にこう指摘する。

 「社員の心理状態は、周囲の環境によって大きく左右されます。それを無視して、一対一のコミュニケーションだけで部下を動かすのは限界がある。部下一人ひとりへのケアは大切ですが、同時に部下が働きやすい環境や仕組みづくりに気を配ることがマネジャーの務めではないでしょうか」

月刊アイティセレクト」2007年11月号 特集「モチベーションコントロールに役立つ 人心掌握術の鉄則」より)

前のページへ 1|2       

Copyright© 2011 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ