成果主義の悪夢? 部下の運命を左右する上司の「ひと言」女性システム管理者の憂鬱(3/4 ページ)

» 2007年10月11日 07時00分 公開
[高橋美樹,ITmedia]

 課長に促され、わたしは事前に提出したレビューシートに沿って、自分の期待役割について、そしてそれを果たすために行った対外折衝と、それにより新しく出来上がったシステムについて説明を始めた。同じ部署にいるマネジャーに対して、既知の事実を説明することに多少の照れはあったものの、アピールしなければボーナスアップは期待できない。ここは恥ずかしい気持ちを抑えて、他人を褒めるつもりで自分の業績をアピールしよう、そんな心の葛藤があった末の必死のアピールだった。

 一通り説明が終わった後、終始無言だった部長の目がキラリと光った。何かものすごいコメントが聞けるものと、わたしがかたずを飲んで待っていると、その部長が厳かに口を開いた。

部長:「それってさ、どれくらいすごいことなのかな?」

 思わずわが耳を疑った。今なんて……? わたしのアピールに対する嫌味なのだろうか。場数を踏んできた部長にとっては、一介の担当者の苦労など大したことはないと一蹴されてしまうのだろうか。自分の仕事の成果を大げさにアピールしたことへの後悔に押しつぶされそうになっていると、部長は畳みかけるように言葉を続けた。

部長:「わたしはこの部署が何しているかよく知らないから、あなたの仕事の成果がどれだけすごいのか分からないんだよね。ほかの人たちの話を聞いても、みんな自分は頑張ったって言ってるしさ。何が一番すごいのか、分かんないんだよ」

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 そこには、真剣なまなざしでわたしに教えを請うおじいちゃんの姿があった。なんと、この部長は業務知識がないという理由で、評価基準を持たないままに面談に臨んでいたのだ。上司なら当然知っているはずの情報を、恥を忍んで説明したつもりが、部長にとってはすべて初耳だったわけだ。

 きっと「へえー、そんなことしてるんだ」と社会科見学に来た小学生のようなつもりで、わたしのレビューを聞いていたのだろう。システムとは何の関係もない親会社から異動になったとはいえ、部長と名の付く以上、その人の評価で部下のボーナスや昇進が左右されるのだ。部長のあまりに無防備なキラキラした目に、「おじいちゃん、お願いだからしっかりしてよぉ」と軽口をたたきそうになってしまった。

 だが、そんな上司でも彼の評価は絶対なのだ。そこが評価制度の一番恐いところである。上司が、その職場の現状や課題をしっかり認識できているとは限らない。急な人事異動や欠員で、急場しのぎで取りあえず評価を担当していることもあるだろう。部下が自分のすぐそばで働いている場合でも、そうして現状を速やかに把握して正確な評価を下すのは至難の業なのに、部下が客先に常駐しているケースも多々あるのだ。そう考えると、成果主義も合理的なようでいて、現場の不満を増やす要因となっているように思えるのであった。

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