「技術者は技術の向こうにある社会情勢にも目を向けよ」、奈良先端大山口教授Black Hat Japan 2007 Briefings Report(2/3 ページ)

» 2007年11月14日 07時30分 公開
[岡田靖,ITmedia]

社会化した技術が欠かせない

 一方、ITの複雑化によって「システムの中身が見えない」ようになってきた。

 「情報システムに限らず、一般的に業務を改善していくためには情報収集が欠かせない。だが、システムの中で、分からない部分が非常に多くなってきたのが現状だ。多くのシステム運用現場で、『トラブルの原因はよく分からないが、取りあえず再起動して様子を見よう」という対応が増えているのではないだろうか。さらにいえば、システムの不調を把握できておらず、ユーザーから言われて慌てて対応していたりしないだろうか。情報収集という意味では、われわれ々が欲するような、システムに関する情報が、なかなか容易に手に入らないようになっている」と山口氏は言い、その原因をいくつか挙げた。

 例えば、仮想化の流行によって、サーバの中で何が起きているのか分かりにくくなった。仮想化されていなければ、もしかしたらサーバのLEDインジケータでそれとなく認識できたかもしれない不調を、仮想化環境において一目で把握できるだろうか。

 「ネットワークにしてもいろいろなサービスがHTTPに乗せられるようになって、パケットを眺めただけでは、実際にどんなコンテンツが流れているのか分からない。だが、すべてがHTTPではなく、P2Pなどほかにも無数のプロトコルがあって把握しづらい。VPNでの暗号化もはやっており、その暗号を解読する方法はもちろんない」

 ちなみに、山口氏がとあるネットワークでVPNサーバ上からトラフィックを見てみたところ、暗号化されている中身はHTTPばかりだったという。やはり、トラフィックの内容を把握するのは困難だということだ。サーバと同じくネットワークも、触れて直感的に分かるような環境ではなくなっている。

 「ネットワーク管理者は何をしているのかと言われてもおかしくないくらいに、実際のネットワークで何が起きているのか分からない。コンピュータもネットワークも仮想化されていて、何も分からなくなっている。これはテクノロジーの敗北だと思う」(山口氏)

画像 社会化した技術のあり方

 こうした問題を解決するのは誰だろうか。やはり技術者でなければならないだろう。

 「世の中にはいろいろな技術がある。それらをどのように生かしていけるのか、という文脈で技術を考えていくことが重要。それがエンジニアリングだ。コストや人材の配分でいえば、今やR&Dよりもエンジニアリングの方が重要になってきている」(山口氏)

 大学などのアカデミー分野ではR&Dからエンジニアリングへ、企業などインダストリー分野では実社会の側からエンジニアリングへ、それぞれ手を伸ばしていくことが必要となる。また、官公庁などパブリック分野も、やはり実社会とエンジニアリングの間をつなぐことにかかわる。同氏はこれら3つの分野の人々が、エンジニアリングを中心として活動していくことが求められるとした。

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